第27話 石壁

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 てっきりオーク集落を守る石壁の外側には『半血ハーフ・ブラッド』の旗が翻っていると思っていたけれども誰もいなかった。


 ぼくは疑問を口にした。


「『半血ハーフ・ブラッド』の本隊が取り囲んでいると思っていたんですが違うんですね」


 マリアが答えた。


「それをやって我が依頼人クライアント様たちの軍隊は大打撃を受けたのさ」


 ぼくたちは下の集落のオークが崖の上に目をやっても発見されないように崖っぷちから内側へ引っ込んだ。


 車座になって地面に座る。


半血ハーフ・ブラッド』にオーク集落の殲滅を依頼した隣国は、当初、自国の軍隊で力押しをしてオークに敗れたのだという。


 結局、オークの石壁を通過することができず悪戯に兵力を消耗しむくろを並べた。


 オークジェネラルは土木作業員としてだけではなく戦闘指揮官としても優秀だった。


 他所より多くのジェネラルが集められているここではオークの戦闘力も他所以上だ。


 隣国の軍隊は所詮オークの群れだと見くびっていた。


 隣国兵は敗れた上にオークに糧食を提供する羽目になった。自分たちの身だ。


 石壁に城門のような巨大な出入口はなかったが石壁と左右の崖は完全には接さず、人が通れるだけの隙間が崖と石壁の間に残されていた。


 どういうことかと言うと、ぼくたちのいる場所から崖下を見下ろした時、崖はU字型に崩れてへこんでいる。


 その凹みからU字を逆さにした形で石壁が崖下の針葉樹側にとつっている。


 U字と逆U字の開口部同士を突き合わせてできた円の中がオーク集落だ。


 もし、それぞれのU字の開口部の幅が同じならばオーク集落は隙間なく円になるけれども、逆U字側、要するに石壁の幅がU字側である崖の幅より左右とも一メートル程度ずつ狭かった。


 だから、崖がつくったU字の中に石壁の逆U字が刺さり、一部、崖と石壁が並行して存在する形になっていた。


 幅一メートル程の石壁と崖の間の隙間がオークの出入り口としても機能している。


 もちろん、ただの開け放しではない。


 崖と平行する部分の石壁は石壁の前面側が約二十メートルの高さがあるのに対して三メートル程だ。


 厚みも五十センチ程である。


 しかも幾つもの穴が開いている。


 水路と平行な低い壁の長さは十メートルあまり。


 もともとの石壁が二十メートルの厚さがあるので、あわせて三十メートルの狭い通路が石壁と崖の間にある形だ。


 万一、壁の外から内部に軍勢が押し入ろうとした場合は、まず狭い通路にすることで一度に通れる数を減らしてから二十メートルの本来の石壁の厚みの距離を進む間に壁の上から弓を射ったり岩を投げつけたりして押し入りを許さない。


 さらに壁が三メートル程に低くなった距離十メートルの区間を進む際には壁の横穴や壁の上から槍で刺したり石を落としたりで迎撃する。


 壁の横穴から太い丸太を突き出せば、それだけで襲撃者の侵入の邪魔になった。


 足止めをしたところで横と上から集中的に攻撃をして敵を倒す。


 低い壁の終点部は壁と崖の間の隙間の幅にあわせた木製のバリケードで塞がれていた。


 バリケードには車輪がついておりオークの出入りの際に通行の妨げとならないよう移動させて栓のように通路にはめたり逆に外したりができるようになっている。


 バリケード台車だ。


 台車の前面であるバリケードからは槍のような太い棘が突き出しており台車を押して通路に向けて突入させれば通路上の侵入者を串刺しにできる上、通路に蓋ができた。


 バリケードの隙間から弓や槍でも侵入者に攻撃ができる。


 どれをとってもオーク集落には、ちょっとオークとは考えられない規模の防備が整っていた。


 オークジェネラルによるテコ入れがされているだけのことはある。


 オークとオークジェネラルは子供と大人と言ってしまえばそれまでなのだが、まったくの別物だ。


 そのあたりを舐めてかかった隣国兵は石壁の両脇にある石壁と崖の隙間を力づくで突破しようとして大被害を受け撤退したのだった。

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