第23話 夜間哨戒
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結果から言うと、ぼくの夜目が利かなくても問題は何もなかった。
ぼくは竿の先に篝火を吊るした物をルンから持たされた。
「これを持って歩け。あたいたちは明かりが照らす範囲の外を離れて歩く。明かりを遠目に見つけたオークが逃げるような素振りをみせれば気配ですぐわかるから追って仕留める。逆に襲い掛かる動きを見せたら、お前が斬られる前に後ろから斬りつける」
「それって、ぼくは囮なのでは?」
ルンは不安を示すぼくに対して嬉しそうに、にやりと笑った、
「歩くだけだから楽でいいだろう。篝火をオークに矢で射られても吊るした竿の長さ分、火はお前から離れているのでお前には当たらない。絶対じゃないがな」
ぎゃはははは、と、ルンは笑って、ぼくの肩をバンバン叩いた。
他の三人は呆れたような目でルンを見ている。
確かに、とどめ役を任せられるよりは、ぼくとしては気が楽だ。
今まで『同期集団』で受け持っていたのと同じ役目だった。
攻撃力の足りないぼくが相手を引き付けている間にパーティーの誰かがとどめを刺す。
今回の作戦だけかもしれないけれども傭兵になってもやることは同じだった。
だったら傭兵稼業でもいけるのかな?
位置関係を真上から見た時、ぼくが十字交差の交点にくるような位置に、マリア、ヘルダ、ルン、ジョシカの四人が散らばった。
ルンがぼくの前、ジョシカが後ろ、マリアとヘルダが、ぼくの左右だった。
ぼくは、ルンとジョシカ、マリアとヘルダを、それぞれ結んだ線の交点だ。
篝火の明かりが障害物を抜きにして大体三十メートル程度の範囲を照らすとして彼女たちは火から五十メートル程度離れた位置についた。
その位置で気配を消して、ぼくの進行にあわせて動く。
ぼくは、まったく気配を隠すことなく明かりを掲げて呑気に歩く。
オークや魔物たちは気配を隠した彼女たちより明かりと吞気なぼくに先に気づいて反応を示すという計画だ。
明かりは、もっとずっと遠くからでも見えるが、それを見て撤退するような慎重な相手は追うまでもないという判断だった。
少なくとも相手の通行を妨害したのだから目的は達している。
とはいえ、大体は、その時点では撤退せず明かりの正体を探りにある程度は近づいてくるに違いないという読みがある。
日中、ルンたちがあたりをつけていたオークたちの山岳越えルートと思われる進路を辿るように、ぼくは歩いた。
ぼくの五十メートルぐらい先には気配を消した状態でルンが歩いているはずだ。
ルンが歩いたばかりの痕跡が足元に残るので、ぼくは道を間違えなかった。
もし、ルンが前を歩いていなかったとしても、もともと誰かが歩いたらしき痕跡が残っていたので問題はなかった。
その程度にはオークたちは、このルートを利用しているらしい。
歩いていくと、時折、オークが倒れていた。
ルンが仕留めたものだろう。
さらに時折は、首のないオークが転がっていたのでジェネラルもいたようだ。
戦闘らしい戦闘の気配は感じなかった。
ルンが一瞬で仕留めているようだ。
ルンが先頭に立つのは四人の中で一番気配に敏感なためらしい。
斥候や暗殺の役に長けている。
逆に一番頑丈なジョシカが後衛だ。
後ろからやってくるオークたちを、どしりと受け止める。
ルンだけでなくジョシカもマリアもヘルダもオークと遭遇して倒してはいるようだ。
彼女たちの潜伏しているあたりで一瞬だけオークの気配が湧き上がっては消えていた。
ぼくの明かりに気を取られていたオークが不意打ちで倒された気配だろう。
夜間の間にオークたちが、こっそりとこの付近の通過を試みているならば、前方からではなく後ろや横から、ぼくたちに向かってくる形になるはずだ。
オークたちは自分の行き先にぼくが持つ明かりを見つけて、あれ、という動きをしている間に仕留められる。
逆に前にいるオークたちは、ぼくたちが道順を確かめつつ追跡をしている形になる。
ぼくたちの前に、ぼくたちに背を向けて先へ進むオークがいるとしたら、ぼくたちの進路が正しいという証明になる。
倒したオークたちの死体は、そのまま残しておく。
後からやってくるオークたちに、この道は使えなくなったと示すためだ。
オーク集落への援軍や援助を絶つことが今回の作戦行動の第一目的だ。
結局、ぼく自身は誰からも攻撃を受けないまま夜が明けた。
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