第21話 状況
21
「信頼関係の話をしてすぐで悪いが探索者カードはしばらく預からせてもらいたい」
マリアが言った。
「いいですよ」
ぼくは答えた。
「いつか、ぼくが命の借りを返しきったと思ったら返してください」
傭兵活動に探索者カードは必要ないはずだ。
どうせランクが上がるわけでもないし持っていても使い道がない。
マリアたちは少し驚いたような顔をした。
探索者にとって探索者カードは身分証明のためには絶対だ。
普通は、もっと執着をするだろう。
もちろん、なくしたことにして再発行の手続きは可能だが手間とお金がかかる。
ぼくの場合ランクが全然上がらないものだから身分証明として探索者カードが役に立ったという経験がない。
ギルドでは万年Fランク探索者として黙っていても有名だった。
ギルドで依頼を受けるのであれば必要だが一般的な身分証明としてならば必要ない。
むしろ、探索者カードは自分が万年Fランクであることを思いださせてくれる、嫌なものですらあった。
ランクの証明に探索者カードは必要だが、わざわざFランク探索者であると証明する場面は存在しない。
知らない者には見かけから探索者だと判断されて黙っていれば勝手にDランクかEランクだと思われる。Fランクだと自分を低く証明する必要はないだろう。
もし、このままマリアに探索者カードを返してもらえなくても、どこかのギルドで探索者として活動を再開しようと思った際には、再発行の手続きをとるくらいならば、いっそ新規の探索者登録を求めたほうが気楽だ、すらある。
そうすれば、しばらくは万年Fランクと笑われないだろう。新人扱いしてもらえる。
傭兵か。
成り行きだが探索者よりうまくできそうなら、ありなのかも。
「で、これから何をするんですか?」
「夜間哨戒。その前に腹ごしらえだ」
話が穏便に片付いたと思ったためかヘルダとジョシカ、ルンが焚火の周りに置かれた石に座った。
何となく座れそうな大きさの石を運んできて転がし椅子の代わりとしたものだ。
もともとの
ルンが椀に汁物を入れて匙と一緒に渡してくれた。
「朝まで長いぞ。ルン様特製煮込みだ。感謝して味わえ」
「ありがとうございます」
何かの干し肉を水で戻して煮込んだものだ。
野菜代わりに薬草も一緒に煮込まれている。
うまくはないが温まりはした。
よくある探索者
傭兵
主に悪名としてだが『
金さえもらえば、どんな汚い仕事でも引き受ける金の亡者どもといった評判だ。
傭兵集団としては大手だった。
隊員数だって全体では千人以上いるはずだ。
にもかかわらず、
「夜間哨戒って隊長が自らですか?」
「こうして常時、戦力を増員しなければならない程には人手不足だからな」
マリアの返事は本気か冗談かよくわからない。
まだ、そんな機微がわかるほど親しくはなかった。
食事をしながら話を聞くと、こういうことらしい。
目を覚ましたぼくが思ったとおり、現在地は、ぼくが住んでいる王国の北側、山岳地帯寄りの場所だった。
連なる山の稜線がほぼ国境線となっており、さらに北側へ行けば隣国だ。
隣国側の山の麓に、いつの間にかつくられていたオークの集落が大規模化して砦まで築かれていたのだという。
隣国は、当初、自国の軍隊による殲滅を試みたが敵わず『
だが、山岳を超えて、ぼくが住む王国側からオーク集落に増援が入っているらしくて『
状況を打破するため王国側からのオークの流入を確認し絶とうという作戦だ。
けれども依頼主から見た他国へ傭兵とはいえ大規模な軍隊を侵入させるわけにはいかない。国家間の戦争になる。
なので、『
王国側のオークの実態を確認し国境である山岳を超えて砦にオークの増援が入っているようであれば増援を叩く。
もちろん、他国での軍事行動に当たるため少人数とはいえ、ぼくらが住んでいる国で『
ぼくを、この場で解放できない理由はそのためだった。
ということは少なくとも隣国側のオーク集落が殲滅されるまで、ぼくは『
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