第19話 傭兵

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 オークやゴブリンといった魔人に人間がつくった国境は関係ない。


 適当な土地に勝手に住み着き集落をつくっていく。


 人間では住めない比較的過酷な場所でも生活できるため、いつの間にか住み着いたオークの集落が巨大化し駆除に手を焼くような事態に発展するケースが時折生じる。


 オークの大規模集落にはオークキングと呼ばれる王的な素養を持つ者が存在しオークによる組織的な活動を指導していた。


 人間側は探索者が定期的に間引いたり規模が大きくなった場合には軍隊を派遣して殲滅するといった行為を行いオークの定住を阻止している。


 大集団となったオークは軍隊的な組織だった動きを行うため一般的な探索者では手に負えない。人間側も同じく軍事活動ができる者たちによる対応が必要だ。


 正規の軍隊だけで対応ができれば良いが現実には難しいので国や地方領主からの依頼で軍隊的な活動を行いオーク等の殲滅を行う『傭兵』と呼ばれる集団が存在した。


半血ハーフ・ブラッド』は、そのような傭兵集団の一つだ。


 もちろん、殲滅される側のオークキングも軍隊や傭兵の攻撃に対して無策ではなくオークの増員をはかったりオークジェネラルのような軍隊の指揮ができる能力を持つオークを招集して迎撃の準備を行っていた。


 要するに各地に点在するオークを呼び寄せるのだ。オークなりの情報の伝達方法があるらしい。


 軍隊と軍隊の衝突による戦闘に至る前段階として哨戒や小競り合いといった状況が、しばらく続く。


 呼び寄せられて集まってくるオークを叩くのは重要な仕事だ。


 一般的なオークはともかくアーチャーやメイジ、リーダー、ジェネラルのような肩書持ちのオークを事前に減らしておく行為は実際の軍事衝突での被害を軽減する方法として有効だった。


 特に指揮官級のオークジェネラルを間引く行為は展開できるオークの軍団数を減らす意味でも重要だ。指揮官なき組織は、所詮、烏合の衆である。


 現在『半血ハーフ・ブラッド』が受けている任務の一環としてジョシカはオークの間引きを行っていた。


 その最中にオークジェネラルとナイフで渡り合っている探索者に遭遇した。


 森の中だ。


 探索者はオークジェネラルの内懐に入り込みナイフで執拗にジェネラルを突くも、攻めきれずあしらわれていた。


 探索者は一人だけだ。


 仲間はいなかった。


 どういう状況から探索者がナイフ一本でジェネラルと渡り合う羽目になったのかはわからない。


 間合いの関係から探索者はジェネラルから離れるわけにはいかない。


 下がればジェネラルの間合いとなり瞬く間に斬られてしまうだろう。


 内懐に入り込んだ以上は退かずに突き切って倒すしかない。


 幸い、ジェネラルの背後は隙だらけだ。


 ジョシカは気付かれないようにジェネラルに近づいた。


 探索者が上手くジェネラルの足を傷つけたが直後に蹴りを喰らって吹き飛ばされた。


 ジェネラルが、とどめの一撃を振りかぶる。


 探索者が素早く立ち上がってジェネラルの心臓をナイフで斜め下から貫いた。


 ジェネラルが絶命するのと背後に忍び寄ったジョシカの剣がジェネラルの首を撥ねるのは、ほぼ同時だった。


 探索者は倒れるジェネラルにのしかかられるようになり、そのまま潰されて倒れた。


 ほぼ相打ちだ。


 ジョシカはジェネラルの首を拾って布袋に入れると自分の腰に結わえた。


 ジェネラルを間引いた証拠として首は不可欠だ。


 腰には他にもいくつか同様の赤黒く染まった布袋が吊るされていた。


 それから倒れているジェネラルの足を引っ張って、潰されている探索者の上から地面に摺り落した。


 探索者に、まだ息はある。


 だが、大分切り刻まれていたから、このまま放置すれば死んでしまうだろう。


 もちろん放置する選択肢もある。


 作戦行動中だ。無駄なお荷物を抱える必要はない。


 だが、オークジェネラルとナイフで渡り合える相手と状況に興味がわいた。


 この付近を普段の探索地とする探索者であるなら最近のジェネラルやオークの動向について何か把握している事実があるかも知れない。


 作戦の支障になったならば、その時点で排除すればいいだろう。


 ジョシカは、そう考えた。


「おい」


 ジョシカは探索者の頬を叩いた。


 目覚める様子はない。昏睡状態に入っていた。


 ジョシカはポーションを取りだし探索者の主に深そうな傷口に対して注ぎかけた。


 見る見る傷が治るといったものではないが大幅に治癒力を高めるため、ある程度の止血の効果は期待できた。


 本来の使用方法どおり飲ませて内部からも治療をしたいところだが意識がないため無理にポーションを飲ませようとすると溺れる恐れがある。


 だからといって鎧を脱がして個別の傷口をそれぞれ治療しているような暇はない。


 死んだら、それまでだ。


 ジョシカは探索者を荷物のように自分の肩に担ぎ上げた。


 自分の背中側に探索者の両腕を垂らし腹を肩に載せ足を抑える。


 身長二メートルを超える半熊人ハーフ・ベアールのジョシカにとっては大した重荷ではない。


 ジョシカは仲間たちとの合流地点へと足を向けた。


 ここからだと、まだ距離があるはずだ。


 余計な時間を取られた。


 ジョシカは走り出した。


 バッシュが『半血ハーフ・ブラッド』のジョシカに助けられた経緯は、このようなものだった。

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