第12話 救助要請

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 ノルマルたち『同期集団』が隣町から探索者ギルドに戻ってきた。


 戦士職ノルマル。


 回復職ミトン。


 魔法職ジェイジェイ。


 三人とも、ほやほやのCランク探索者だった。


 つい先日ランクが上がったばかりである。


 倒したオークジェネラルらしき個体を鑑定してもらうため、この街のギルドからの依頼で鑑定に強いギルドマスターがいる隣町のギルドに行ってきたところだ。


 結果は予想どおりジェネラルだった。


 このあたりではまず見かけることのない魔人である。


 ジェネラル級となると大部隊を率いる力がある魔人のため普通は戦場とかそういった場所でしか見かけない。


 もしくは魔人たちの拠点ぐらいだ。


『同期集団』は現地調査を希望した隣町のギルドマスターであるライネット氏を同伴した。


 ライネット氏は鑑定の能力が高い。


 回復・魔法両方使える賢者職だ。


 おそらく四十代だろう。五十には届いていなそうだ。


 探索者ギルドにノルマルたちが足を踏み入れた瞬間、ぴきんとした緊張感のような空気が張り詰めたのをノルマルは感じた。


 帰還の報告のため『同期集団』の担当職員であるニャイがいるカウンターに向かう。


 遠目で見たニャイがいるカウンターは開いているにもかかわらず誰も並んでいなかった。


 ニャイが怒ったような怖い顔をしているためだ。


 近づくな、というオーラがニャイの全身から発散されているのだと一目でわかる。


 ノルマルは近くにいた別のギルド職員に調査のために隣町のギルドマスター、ライネット氏を同伴してきたことを告げギルドマスターの元への案内をお願いした。


 それから、どきどきとしながら空いているニャイのカウンターへ近づいていく。


 ノルマルは自分たちの一挙手一投足が、なぜか周囲から固唾を呑んで見守られている気配を感じていた。この場にいるすべてのギルド職員と探索者たちの両方からだ。


 原因は、もちろんニャイだった。


 ニャイは不機嫌極まりないといった怒り顔を浮かべていた。


 ノルマルは、あえて軽口から会話に入った。


「どうした? バッシュと喧嘩でもしたか? 仕事なんかしてないで休んで看病しに行ってやれって言っただろ。せっかく、ゆうべは俺たち宿を開けてたんだからさあ」


 ニャイは、ぎろりとノルマルを睨んだ。


 黙ったままカウンターにバンと何かの紙を叩きつけてノルマルに差し出した。


 ノルマルはミトンとジェイジェイと顔を見合わせた。


 なんだかなと、笑い合う。


 こりゃきっと、二人は何もなかったな。


 ノルマルはニャイから紙を受け取った。


 ニャイが出したのは一度くしゃくしゃに丸められたが無理やり皺を伸ばして広げたと思しき紙だった。


 頭に『脱隊届』とある。


 バッシュの名前が書いてあった。


「ギルマスがバッシュさんに除隊の勧奨を」


 ニャイが震えるような声を出した。


 ニャイは怒っていたのではなかった。


 泣くのを必死に堪えていたのだ。


 何もなかったどころではない大ピンチだ。


「うそっ!」


 ノルマルは間の抜けた声を上げた。


 ミトンとジェイジェイも、あんぐりと口を開けた。


「あいつ、俺たちがいない隙に!」


 この場合の『あいつ』はバッシュではなく、この街のギルドマスターを指していた。


 ノルマルは自分たち三人がCランクに昇格してバッシュの勧奨除隊の条件が揃った際、『俺たち三人はバッシュ除隊のためのギルドの勧奨を望まない』と確かにギルドマスターに伝えていた。


「ふざけんな! あいつの真価はランクなんかじゃわからねぇって言っといたのに!」


 そんなの聞かれればバッシュには、はい、という答えしか返せないのに決まっていた。


「バッシュは?」


 ノルマルはニャイに訊いた。


 本来なら宿で安静にしているはずだった。


 けれども、ニャイの気配がそうじゃないと告げていた。


「今朝、宿を引き払ったって。スレイスさんたちに引き留めの説得をお願いしたので今日は一緒に行動をしているはず。戻ってきてくれるといいんだけど。お願い、引き留めて」


「もちろんだ」


 ノルマルは強く請け負った。


 ノルマル、ミトン、ジェイジェイ、バッシュの四人で『同期集団』だ。


 ノルマルはバッシュの『脱隊届』を破り捨てた。


 ギルマスを怒鳴りつけてやるべく階段に足を向けた。


 来客中だろうが知ったこっちゃない。


 ミトンとジェイジェイが後に続いた。


 その時、ギルドに駆け込んできた者がいた。


 スレイス隊の魔法職だ。


 街の門番に救助を求めたところ直接ギルドに行けと突き放されたのだ。


「オークジェネラルだ! バッシュが俺たちを逃がすために囮になった! 早く助けに行ってやってくれ!」

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