第9話 ぼきん
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ジェネラルは、さっと足を上げて下ろし、ぼくが突いた剣を踏んだ。
「え!」
アテが外れた。
どうやら行動が読み易かったのは、ぼくのほうだ。
ジェネラルは、ぼくがジェネラルの足ばかり気にしているのを完全に読んでいた。
剣はジェネラルの足に踏まれて押さえつけられた。
この期に及んで、ぼくは剣を握ったまま放していない。
剣の柄はぼくの手に握られ切っ先はジェネラルの足の下にある。
剣は地面から斜めに浮かされた形で止まっていた。
一瞬の拮抗。
オークジェネラルは、ぼくを嘲笑った。
何もできないぼくを。
ジェネラルが今、剣を振ったら、もう避けられない。
絶体絶命。
にもかかわらずジェネラルは剣を振らずに剣を踏んでいない逆側の足を持ち上げた。
圧倒的に有利な状況で繰り出されるジェネラルの嬲り癖。
ジェネラルは持ち上げた足を踏み下ろす気だ。
斜めに浮いている、ぼくの剣へと。
ぼくの手から剣をもぎ放すか剣を折ろうというつもりだろう。
その後、武器を無くしてどうしようもなくなった、ぼくを嬲る気なのだ。
もう既に嬲られているみたいに、ぼろぼろだけど。
それでも、ぼくは、ぼくの剣の柄を放さなかった。
実家を出てから今日まで、ぼくは、ぼくの体から、ぼくの剣を放したことはなかった。
鞘に納めていても握っていなくても必ず、ぼくは、ぼくの剣を、ぼくの体に触れさせていた。
どこに行った時も誰と会う時も寝る時も、ぼくは、ぼくから、ぼくの剣が離れてしまわないように気をつけていた。
ノルマルたちは変わってるなとか、変態めとか色々言っていたけれども笑って見過ごしてくれている。
怖いんだ。
臆病だから、ぼくは、ぼくの体から、ぼくの剣が離れてしまうことが恐くてたまらない。
剣さえ握っていれば、のらりくらりとだけど、ぼくよりはるかに強い相手の前にだって立てたけれども、ほんのちょっとの時間でも剣を手放すと考えるだけで怖くて何もできなくなる。
だから、どうしても剣を手放さないといけない状況になる場合、ぼくは一抜けしてしまっていた。
例えば依頼で貴族と直接会わないといけないけれども、なにせ貴族だから、武器の類は護身のため一度お預かりしますとか、そういった状況だ。
そんな時、ぼくはノルマルたちに対応を全部任せて別の場所で待っていた。
誰かに剣を預けるなんて絶対にありえない。
ぼくの剣だ。
あまりないけど風呂に入る時だって手放さなかった。
それでもそれを笑い話としてくれているノルマルたちが、ぼくは好きだ。
だから彼らのお荷物なんかにはなりたくなかった。
こんな状況でもあいかわらず、ぼくの剣はぴかぴかと輝いている。
ぴかぴかを保ち続ける魔法の剣。
見た者を、ぴかぴかと
ぼくは、ぼくの剣を手放したくなんかない。
ジェネラルに踏まれて押さえ込まれていて手を放して逃げるしかない状況に陥っていたけれども、それでも、ぼくは、ぼくの剣を手放したくない。
もしジェネラルが足を上げるのではなく剣を振れば、ぼくは、なすすべもなく斬られただろう。
けれども、ジェネラルの嬲り癖がジェネラルに足を上げさせていた。
ジェネラルの足が踏み下ろされる。
それでも、ぼくは、ぼくの剣を手放さない。
ジェネラルが斜めになっているぼくの剣の腹を踏み抜いた。
ぼきん。
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