第8話 作戦

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 単純な体力勝負になったら脳味噌筋肉にぼくが勝てるわけがない。


 ぼくは、あっという間に追いつかれて追い詰められた。


 ただ逃げても追いつかれるだけなので足を止め、のらりくらりと相手の剣を受け流す。


 ジェネラルはかさにかかって、ぼくを真っ二つにしようと力押しだ。


 この隙に誰かが後ろからぶっすりやってくれれば一発なのに。


 一対一では打破しようがなかった。


 何とか隙をついて、また逃げるしかない。


 剣が重い。


 相手が大振りだから避けきれているけれども冷静に狙ってこられたら対処が間に合わなくなる。


 思った矢先にジェネラルは、ぼくを斬ろうとするのではなく突いてきた。


 剣が重い。


っ」


 けたがかわしきれていなかった。


 ジェネラルの剣が、ぼくに当たった。


 脇腹だ。


 革鎧の皮革でできている部分である。


 金属の補強がない場所だ。


 オークジェネラルの剣は皮革など簡単に切り裂いた。


 着ていないよりマシだがマシ程度の防御の役にしか立ってくれない。


 当たっちゃだめだ。


 ニ、と、オークジェネラルが口の端に獰猛な笑みを浮かべた。


 ようやく、ぼくに剣が当たって気をよくしたらしい。


 ジェネラルは、さらにかさにかかって、ぼくを突いてきた。


 そうやって、すぐかさにかかるのは、とてもよくないことだと思う。


 剣が重い。


 ぼくは相手の突きをいなすが、すべてへの対処は不可能だ。


 脇腹だけでなく腕にも、どんどん傷ができていく。


 ジェネラルは、ますます嬉しそうだ。


 変態め! もともとなぶへきがあるのだろう。


 早く逃げなきゃ。


 相手の足を傷つけて全力で走れないようにしてやり、その隙に走って逃げる。


 ぼくの頭の中での作戦はそうだった。


 だから、腕には切り傷を作られたとしても足に傷を作られるわけにはいかなかった。


 スレイスたちが応援を連れて戻ってきてくれないだろうか?


 剣が重い。


 ジェネラルの突きが、ぼくの顔に迫る。


「うぉっ!」


 躱した。


 今のは牽制の突きじゃなかった。


 とどめのつもりの一撃だ。


 オークジェネラルの目には、ぼくは、そろそろ仕留め時に見えているのだろう。


 剣が重い。


 ノルマルたちは、もう探索者ギルドに戻ってきたかな?


 ノルマルがいれば、このあいだのジェネラルみたいに、きっと今頃は後ろから首を撥ねてくれていただろう。


 剣が重い。


 ジェネラルの突き。


 のらり。


 剣が重い。


 ジェネラルの突き。


 くらり。


 振った剣の重さに体を引っ張らせるようにして、ぼくは何とか身を躱す。


 のらりくらりだけは得意なんだ。


 とどめなんかさされてやるものか!


 足だ。


 相手の足を傷つけて走るのを遅くする。


 足だ。


 そうやって何とか隙を作って逃げるしかない。


 足。足。足。


 ぼくはジェネラルの足の動きに注目した。


 のらり、くらりと攻撃を躱しながらタイミングを見計らう。


 ぼくは、もう血だらけだ。


 致命傷こそ避けていたけれども、上半身は、ほぼ、ぼろぼろの状態だった。


 せっかく下取った革鎧が斬り刻まれている。


 腕も傷だらけ。


 剣を握っている手からも血が滴っていた。


 それでも致命傷を避けて、のらくら躱す。


 何とかジェネラルの足を傷つけて逃げないと。


 これ以上、傷を受けては、もう持たない。


 足。


 足。


 足。


 ジェネラルは、のらりくらりと、ぼくに躱されてばかりでイラついていた。


 段々と動きが単調になっている。


 ぼくはジェネラルが剣をぼくにいなされると剣を引き次の突きをすぐまたしてくるという単純なパターンに気が付いた。


 であれば読みやすいし合わせやすい。


 ぼくは突いてきたジェネラルの剣をいなした。


 ジェネラルが剣を引く。


 すぐまた次の突きがくる。


 いなして、


 今!


 ジェネラルが剣を引いた瞬間に、ぼくは踏み込んだ。


 狙うのは足首だ。


 ジェネラルの脛と腿には脛当てと腿当てが装備されている。


 その下には革のブーツが履かれていた。


 足の甲はともかく足首であれば曲がりを優先するだろうから、がっちりと固定した防御はされていないはずだ。


 足首を刺して相手を走れないようにしてから、ひたすら逃げる。


 ぼくはブーツごとジェネラルの足首を貫く勢いで剣を突きだした。


 ジェネラルは、さっと足を上げて下ろし、ぼくが突いた剣を踏んだ。


「え!」

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