第7話 囮
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ジェネラルの剣が来た。
ぼくは、ますます重く感じる剣で何とか受けた。
受けたり、避けたり、逸らしたり、流したり、のらりくらりと相手の攻撃を喰らわずに逃げ回る行為が、ぼくは得意だ。
探索を続けてもぼくのランクだけ上がらない中、『同期集団』の仲間たちは記録的な速さでランクを上げた。
当然、相手にする魔物の強さも瞬く間に上がっていき、ぼくは、ぼくなんか一撃で倒せる圧倒的な魔物ばかりを相手にしなければならなくなった。
反対に僕から攻撃を当てたところでダメージはほとんど入らない。
本来の討伐適正探索者ランクなんか全然関係ない戦いをしているのだから当然だ。
ぼくは何とか相手の攻撃を喰らわないように受け流して、相手がぼくに夢中になっている隙をついてノルマルが後ろからぶった切る。
この三年間そうやってどうにか生き抜いてきたんだ。
自分より強い相手と一対一や一対多の状況になるのも一撃入ったら死ぬであろう修羅場も、残念ながらぼくにとっては毎回だった。
だから相手がオークジェネラルだからといって相手に委縮して、ぼくの動きが鈍るということはまったくない。
ただ単純に腕力がもっとほしかった。
ロングソードが重い。
先端が地面を向きそうになる。
何度も斬りかかってくるオークジェネラルの剣を、のらりとくらりと、ぼくは剣で受けた。
だからといって、ずっとそうやっていられるわけではない。
ロングソードが重い。
ジェネラルの背後に詠唱をしている魔法職とスレイスがいた。
『同期集団』だったらヘイトを受けているぼくがこうやってしのいでいる間に、今頃は誰かが相手の背中に攻撃を入れてくれていたはずだ。
ぼくの腕力がそう長くは持たないことを、ノルマルたちは知っている。
ようやく詠唱が終わったのか、魔法職の炎の魔法がジェネラルの背中にぶちあたった。
粘着質のねとっとした炎がジェネラルの背中で燃えあがる。
ジェネラルが素早く振り返った。
そこへスレイスの突き。
ぐおぉぉお、と、オークジェネラルが吠えた。
ウォークライ。
相手を怯ませ自身を鼓舞する威嚇の吠え声だ。
スレイスが一瞬びくりとした。
突きこそ止まらないが動作が遅れた。
オークジェネラルが剣を薙ぐ。
スレイスの剣を跳ね飛ばした。
威嚇で握りが緩んでいた。
返す剣で無防備になったスレイスを斬る。
スレイスが地面に転がった。
ジェネラルの背中では、まだ、粘着質の魔法の炎が燃えている。
ジェネラルは油断なく剣を構えて、ぼくたちを牽制したまま手近な木の幹に背中を擦りつけた。
消火だ。
さすがに地面を転がってまでの消火はできない。格好の的になる。
スレイスの皮革鎧は、ざっくりと胸が裂けていた。
どくどくと血が流れ出している。
ぼくはスレイスを庇うように、木に背を擦りつけるオークジェネラルの前に出ると、相手と対峙した。
剣が重い。
「回復を」
背中で魔法職に指示を出す。
魔法職がスレイスの半身を起こすように両脇の下に手を入れると回復職のもとまで引きずりだした。
吹き飛ばされた戦士職に治療魔法をかけていた回復職が慌てて駆けてきて魔法職に手を貸す。
そのまま二人でスレイスを一息にひきずり、倒れたままの戦士職の元まで距離を取った。
地面にスレイスが引きずられた血の線がつく。
回復職による治療開始。
畜生。
未練でぼくがスレイスたちに探索場を案内しようなんて思わなければ、こんな状況にはなっていなかった。
今頃、ぼくは実家へ向かう馬車の中のはずだ。
スレイスたちは探索後の休養日だったはずだろう。
「何かあいつをしとめきる、とっておきの魔法があったりする?」
ぼくは再び駆け戻って来た魔法職に声をかけた。
前衛二人が動けなくなり、回復職は治療につきっきり。
残った前衛職のぼくは、のらりくらりしかできなくて攻撃力がゼロときた。
ぼくが魔法職の立場だったら泣くところだ。
自動的に彼の魔法が、
「さっきレベルの火を、あと二発」
魔法職が答えた。
全然、無理だ。
ぼくはリュックサックを素早く外した。
重たい荷物を背負ったままでは全力で走れない。
リュックサックが、ぼくの背後、魔法職の前に落ちた。
ぼくは魔法職に中身を伝えた。
「ポーションと薬草が入ってる」
木に背中を擦りつける動きをジェネラルが終えた。
ジェネラルの背中で燃えていた炎は完全に消えていた。
大したダメージではなかったようだ。
ぼくはジェネラルにロングソードを振って牽制した。
とても、重い。
「ぼくが
返事を待たずに、ぼくはジェネラルに斬りかかった。
もちろん、のらりくらりだ。
ぼくじゃ勝てない。
「すまない」
魔法職は、ぼくのリュックサックを片手に駆け戻った。
ジェネラルは自分に火をつけた魔法職より、ぼくのほうを目先の敵と認識したようだ。
ぼくに斬りかかって来た。
適当に受け流す。
ああ、剣が重い。
斬り結びながら、ぼくは何となくスレイスたちから離れる方向へジェネラルを誘導する。
視界の端に治癒魔法と薬草とポーションで無理やり立ち上がれるまでになったスレイスと戦士職の動きが見えた。
回復職と魔法職がそれぞれ肩を貸し、四人で去っていく。
よし。
あとは、ぼくの番だ。
ぼくはジェネラルに突きを入れる真似事をすると素早く身を翻して、スレイスたちからさらに距離を取る方向に走り出した。
森の奥へ。
予想通り、ジェネラルは、ぼくを追ってきた。
まったく、そんなにヘイトしてくれなくても。
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