第2話 登校えくすぷろーじょん
今朝はひどい夢を見た。中学生時代に浴びた罵詈雑言の数々のフルコース。そして、思い返せば、青く恥ずかしい自分の決意。良くもまぁあんなバカな事を、恥ずかしげもなく思っていたもんだと思う。
流石に高校生になった今では、ある程度分別はついているつもりで、あんな鼻息荒く誰かに趣味を押し付けようなんて滅多に思わない。
ただ、そういう世界がある事を知って、そういう世界を好む人がいて、そういう世界に生きる人もいて、そういう世界を否定しないで欲しいとは思う。それだけが、私の望みです。
なんて悟ったような事を考えつつ、自前の黒髪に枝毛を見つけながら、この春に入学した我が学舎への通学路を歩いていると、私の百合☆センサー(ポンコツ)が、私と同じ制服を着た目の前の身長差のある女の子たちに反応を示した。
ブラウンのスカートにアイボリーのブレザー、うんうん良く似合っておる。ナマモノは節度を保つべしとは思っているんだけど、頭の中で夢想する事くらいは許して欲しい。私はそういう世界でしか生きられない、深海魚みたいな生き物なんだ。許してくれ。
しかし何故私のセンサー(ボロ)が反応したんだろう。女の子が2人いれば百合! なんて暴力的な事を言うつもりはない。
百合とは関係であり、行為であり、世界であって、女の子が2人いれば百合、などと言う事になれば、夢に出てきたあの子と私も百合って事になってしまう。だからその線引きは、しっかりと、ね?
改めて2人を見てみる。距離感としては……ふむ。手を繋いでるわけでも、腕を組んでいるわけでもない。見た目には一見して判断しかねるけど……あぁ、わかった。この2人、『離れない』んだ。
ある程度仲良くなった女子間であれば、手を繋いだり、じゃれて腕を組んだりなんて言うのは日常茶飯事。そういう単純な肉体接触も目の保養としては良きではあるものの、目の前の2人は違う。
決して触れ合う事はない。しかし、歩く時も、信号待ちする時も、どんな時も必ず隣り合っている。歩幅がずれて、多少前後するような事がない。これは、どちらかが殊更に意識しなければ絶対にあり得ない。特に2人は身長差がそこそこあるから、なおのことだろう。
会話の頻度も多いわけじゃない、けど、少し歩いては言葉を交わし、少し歩いては視線を交わす。それは正しく、『一見して距離があるのに、実は互いのことを想いあっている百合の形』……と、と、尊……。
まて、まだ早いな。さらによく見て……あぁ、あの、満足そうな顔。少し背の高いスラっとした女の子に対して、背の低い女の子が向ける、あの幸せそうな顔はどうして生じるだろうか。
会話が多いわけではないのに、あの顔が生まれる理由。そんなもの決まってる。『隣り合っていると言う事実』、それそのものがあの無垢な輝きを放っているんだ。そんなもん、そんなもん。
「と、尊い……っ!!」
あぁきっとあの小柄な女の子は、本当はもっと距離を近づけたいんだろう! 他の女子がそうしているように、手を触れさせたいんだろう!
けど奥手な彼女はその性格故にそうする事を躊躇って、しかし、気になるあの子が隣に居るだけのことが夢のように甘く感じてしまって、それが表情に表れてしまっているんだ。そんなの、そんなのさぁ……!
「し、死ぬぅ……!」
あぁ、もうダメだ。根來和歌、享年16歳。死因は『百合仰げば尊死』で確定だ。司法解剖をしなくたって、マッハで葬儀屋がやってくるレベルでわかりやすい死因だ。喪主は頼んだ、我が友、ひなたよ。
「あの、大丈夫……?」
「良かったらこれ、飲んでください。まだ封を切ってなくて、冷たいのでっ」
「……ふぇ?」
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