とある人物の日常の一コマを切り取った短編。
なんの変哲もないその一瞬は、解釈の数ほど新たな横顔を見せる。もしかすると、私たちの日常もそんなことの連続なのかもしれない。ある者にとっては、またある者にとってはと。夜をこえた先、そこにはなにがあるのか。それは主人公のみぞ知る。
非常に短い作品ですが、それゆえに読了後の衝撃が強かったです。いえ、本来は文字数が少なくなるほど作者の技量が問われるはずなのですが、本作はそんなことに意識が向かないほどに流麗な仕上がりでした。この文字数でこれほどまでの余韻を読者に与えられるのかと。正直、反則です。散りばめられた単語と、それにあえて深く言及しない話運び。それらが作用した結果、自然と内容への想像が膨らむ物語になっていたのだと思います。全体的に脚色なしのリアルさが目立つ作品ですが、だからこそ理解を深めやすくもありました。
短い時間で上質な読書体験を味わいたい方に一推しの作品です。