第1話 魔女さんとお弟子さん

 魔女さんはちょっぴりお馬鹿です。私の型番が覚えられないって言って、いつも間違えます。

 私はS-05719863、古いので、短くてそんなに難しくないと思うのですが、いつもいつも忘れています。

 魔女さんの処理能力がすこし心配です。

 今日は魔女さんが困ったような顔をして、私にこう言いました。

「あなた、名前を付けてもいい?」

 名前というものは、ニンゲンがつけるものだったらしいです。ひとりひとりについていて、個体を識別するためのものなのに時々同じ名前になったりして、不便だったと聞きます。

 でも、魔女さんのお家に行くのは私だけなので、その心配は少ないと思って、いいよって言いました。魔女さんは、

「最後が63だから、ロサにしましょう」と言いました。そんなに短くしては確かにほかの個体と沢山同じになってしまっただろうなぁと思いつつも、短くしたら魔女さんの処理にも負担をかけにくいならそれでいいって思って、良いよって言いました。


 魔女さんは私に「私はただのニンゲンだよ」なんて言うだけあって、ニンゲンのことや終末のことにも詳しいです。私や新しいみんなと頭の中でおしゃべりする機能もついてないみたいで、いくら試しても魔女さんと遠くからおしゃべりすることはできません。それはお弟子さんも一緒です。だから、私よりももっともっと古い時代からのアンドロイドだと思います。本当なら、そんなに古いアンドロイドが今も正常に稼働しているわけが無いのでおかしいですが、魔女さんは魔女さんなので、魔法で上手く動かしているのだと思います。

 魔法が使えるアンドロイドなんて聞いたことがなかったので、魔女さんやお弟子さんの型番を聞こうとしたことがありますが、魔女さんは全然話そうとしてくれないです。

 お弟子さんのことも、「彼は、チョウリツシ、なんだよ」としか言ってくれませんでした。

 私の型番も覚えられない魔女さんなので、もしかしたら自分の型番もお弟子さんの型番も忘れちゃったのかもしれません。

 もしくは、魔法のためにたくさんの機能を犠牲にして稼働しているのかもしれません。

 私の機能で魔女さんのお手伝いができたら、魔女さんももっと楽しく魔法使ってくれるかなぁって思いました。

 だから、明日もまた来ようと思います。

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魔女と調律師 @SenaYukigi

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