エピローグ

庭には子供達の声。


私は、リリー、フルールとローサと庭でお茶会を楽しんでいる。


ユーリが国王になり5年。

子宝にも恵まれ、今や双子の2児の母になり。

現在、第三子を妊娠中だ。


リリーのところは4年前に女の子が、フルールは3年前に男の子、ローサは私と同様に今は妊娠中だ。


フルールは子供を産んでも護衛騎士として側にいるし、ローサも私付きの侍女として、まだ勤めてくれている。

クレアはなんと、チェスター様と結婚し、現在は産休中だ。


普段は皆働く女性なので、私付きの使用人達が普段は子供を見てくれている。


今回はリリーが王都を訪れたので、久しぶりのお茶会となったのだ。


「そういえば、ラミアさんはお元気かしら?」


リリーや、ミラ様は、アドバイザーとして、まだラミア商会の繋がりがある。


「王妃様に会いたいって、つい最近も言ってたわ」

「ふふふ、お元気そうでよかったわ」


王都にも店を出し、ラミアさんにも中々合う機会がない。

現在妊娠中の為、公務をセーブしているので余計に会う機会がないのだ。


(ユーリったら、過保護なのよね……)


公務はセーブさせられているという言葉がぴったりくる。

双子を妊娠中に、初期の頃だったからか貧血で倒れて以来、過保護に拍車がかかった。


(私だけ、楽させてもらっているようで悪いわ……)


「あー!セラちゃん!」

「まあ、アルファード皇帝」


庭がざわつき、何事かと思っていたら、なんとアルファード皇帝がこちらに向かって手を振っていた。


立ち上がり、側に行こうとするけど、臨月近い体は機敏には動いてくれない。


「ああ!こっちから行くからそこにいて!怪我でもさせたらユーリスに殺される!」

アルファード皇帝は焦ったように言うと、足早にこちらにやってきた。


全員で立ち上がり、頭を下げた。


「いやー、みんな、すっかり母の顔だねぇ」

急遽椅子を追加して、アルファード皇帝は座る。


「今日はどうしてこちらに?」

「ああ、シリウスの嫁の斡旋だよ」

「お兄様の?!」


私は驚いて、思わず立ち上がりそうなったけど、やはり機敏には動けなかった。


「そう。俺の妹を降嫁させようと思ってね。今日は打診と根回しに。勝手にやるとさ、ユーリスが煩いからさ」


なんとお兄様は、アルファード皇帝の実の妹から、求愛されていたらしい。

だけど、お兄様もお父様から代替わりした為、現在多忙であまり王都にいない。

なので痺れを切らした、アルファード皇帝が直接動いたのだという。


「お兄様がご迷惑を……」

「こんなの迷惑のうちに入らないから、気にしないで。みんなの顔も見るつもりできたからさ」


アルファード皇帝はにこやかに笑う。

この5年で苦労したのは、この人も同じであろう。


「――まったく、何処へ行ったかと思えば。突然来といて、迷惑な奴だな」

「5年ぶりに会った親友に、その塩台詞。変わりなくて安心したよ、ユーリス」

「――親友になったつもりはないぞ」


昔と変わらぬやりとり。

その場にいた全員が笑ってしまう。


(幸せって、こういうのを言うのだわ)


「アルファード様!急にいなくならないで下さいよ!」

「お前がついてこなかっただけだろう?こうでもしないと、ユーリスはセラちゃんに会わせないしな!」

遅れてやってきた、ビオレス様は肩で息をしている。


「はあ、お2人とも相変わらずですねぇ」

穏やかな声でジャスが言うと、その後ろからレミアムとチェスター様、アーサー様もやってきた。


ジャスは、ハリス殿下の側近達が仕事を覚えた時点で、王都で合流。

お兄様は、本来の仕事である外務官に復帰した。


アーサー様は、実は現在王太子の座にいる。

ユーリ曰く、『俺達の子供が大きくなるまで』らしく、アーサー様は渋々了承。

頷いた条件は、『ユーリスの側近は辞めない』ということらしく、こうやって私達の側にいる。


そして、レミアムは――。


「れーちゃま!」

舌足らずの喋り方で駆けてくるのは、我が娘レイチェル。

双子の片割れは、なんとレミアムに1番懐いているのだ。


慌てて駆けてきた為、転けそうになるのをレミアムが抱き上げた。


「レイチェル様、そんなに急がなくても僕は逃げませんよ?」

キラキラした笑顔を振り撒くと、周りの侍女たちがほおっと赤い顔をしている。


レイチェルは顔の造形はユーリに似ている。

髪色は私に似て白銀だけど、瞳の色は黄金。

将来は、きっと美女になっているだろう。

 

その光景にユーリは深い溜息をついた。


「なに、なに。これってレイチェルの初恋はレミアムだな!」

アルファード皇帝の遠慮ない一言に、ユーリは顔を顰めた。

 

この様子だと有り得る話で。


「どうせユーリスは、初恋はお父様!って言って欲しかったんだろう?」

「――煩い、アルファード」


険しい顔をしたユーリスに、いつの間にか側にいた双子の兄であるレオンは彼の足元で手を広げた。


「おとうちゃまには、ぼくもいるよ?」

「ああ、そうだな。レオン」


途端に険しい顔は飛散し、柔らかな笑みを浮かべるユーリに、一同は安堵したことは言うまでもない。


「――シリウスの事は承知したが、お前はどうするつもりだ?アルフォード」


お兄様に縁談を持ってきたのは分かるが、アルフォード皇帝は今だに独身のままだ。


「んー、まあぼちぼち?」


本音を話すつもりはないらしいアルフォード皇帝は、言葉を濁した。


「もっと言ってやって下さいよ!この話をするとはぐらかす一方で……」

「煩いよ、ビオレス」


(ビオレス様は相変わらず、大変そうね)


国の立て直しには時間がかかる。

アルフォード皇帝は自分の事よりも、国のことを優先に動いてきた結果、周辺国との関係も改善されつつある。


「風が冷えてきた、セラ。中に入ろう」

ユーリはレオンを下ろし、私の手を握った。


結婚して数年経っても、私のことを熱い眼差しを向けてくれている。


(本当に、この人が夫で良かった)


この人から向けられる愛情は褪せることなく、むしろどんどん濃くなってきてるとも感じている。

勿論、私も――。


「はい、ユーリ」

私が手を握り返すと、ユーリはそのまま私を抱き上げた。


「えっ、ユーリ!?」

「段差は危ない」


そう言いながら歩き出してしまい、私は下りるタイミングを逃してしまった。


皆も、温かい目で私達を見てくれている。

リリーと目が合うと、軽く手を振ってくれたので、私も手を振り返した。


「――セラ、よそ見しないで?」

そう言いながら、軽くキスされた。


「わ、わたし、いま重いわ」

「これが幸せの重みなら、いくらでも引き受ける」


揺るぎない底知れぬ愛情に。

人前でキスされた恥ずかしさから、真っ赤になる私を。

ユーリはとても優しく見つめていて。


火照った顔に夜風が吹き、ユーリからの体温と心地よさと安堵を覚えるのであった――。




******


近状ノートにも書きましたが、おおよそ3ヶ月、お付き合いいただきありがとうございました!


私にとっても、皆さんがこんなに見て下さって、ハートやスター、作品のフォロー、私自身のフォローなどなど、こんなにいただけるのが初めてで、とってもとっても励みになりました!


書き上げた作品として、思い入れもひとしおです。


また機会があれば、ちょこちょこ番外編や、シリウスの話などなど、書いていけたらと思います。


本編は完結済みですので、完結済マークはつけておりますが、番外編をいれるときは一時的に連載中に戻すと思います。



次に書いております作品は、既に予約投稿済みで完結保証付きです!


「見ず知らずの私にプロポーズしないで下さい」も良ければお読みいただけたらと思います。


それでは、またお会いしましょう!



桃元ナナ

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【本編完結】婚約破棄をしたい私は残念王子と手を組むことにした 桃元ナナ @motoriayu

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