第14話 結婚式と戴冠式

よく晴れた日。

今日は王宮内にある教会で結婚式、戴冠式をする為、朝から大忙しだ。


ユーリス様が、『延期になった結婚式をさらに伸ばせなんて言わないよな』と、国の重役達に圧をかけた結果、午前中に結婚式を親族や仲の良い人達で簡素ながら済まし、午後から戴冠式、パレード、夜にはパーティーという鬼ようなスケジュールが完成した。


(私達は良いのだけど――使用人の人達や、準備に追われる人達には申し訳ないわ……)


とはいえ、王宮で人気のあるハリス殿下の一声と、ユーリス様の情熱に皆絆されたようで、貴族の家からは応援で使用人を寄越してくれるほどの協力を得られた。


「我が娘ながら、なんと綺麗な!あいてて……」

「あなた……はしゃぎすぎですわよ……」


両親は教会の私にあてがわれた控室で、待機している。

父が3日前、はりきりすぎて乗馬中に止まった馬から落馬。

命に別状はなく、本人も元気なのだが、足を捻挫。

花嫁の介添人として歩くといってきかなかったが、母の『セラの結婚生活がいきなりつまづいたら、貴方のせいですわよ!』という説得により、その役目を泣く泣くお兄様へ譲るというハプニングが発生したのだ。


ラミア商会のウェディングドレスを身に包み、私はことの顛末を聞いている。


(私の結婚を喜んでくれているのは嬉しいけど、少し複雑な気分だわ……)


「じゃあ、私達は行くわね。セラ、私達がついてるわ」

「お母様……」


お母様の優しい言葉に、私はつい涙ぐみそうになる。


「セラ、しっかりユーリス殿下をお支えしなさい。お前は1人ではないからな」

「お父様……」


「さあ、行きますわよ」

お母様に支えられるように歩き、両親は出て行く。


入れ替わりに入ってきたのは、正装をしたレミアム。


「えっ?!レミアム?」

「シリウスが、介添人お前がやれって。ユーリスへの1番の牽制だろうってさ」

「……お兄様ったら……」


お兄様は私達の仲の良さを1番側で見ていて。

婚約者ではなくなっても、幼馴染ではある。

その縁は一生消えないのだ。


「――よろしくお願いします」

「喜んで」

レミアムは満足そうに微笑む。


「そろそろ、時間」

ミーの言葉に私は立ち上がると、ドレスの裾がふわっと広がる。


「――とっても綺麗だ、セラ」

そう言うと、レミアムはエスコートのために手を差し出した。

そっと触れ、彼の肘に手を置き歩き出した。


音楽が流れる教会の扉が開き、中にいた人が一斉にこちらを向く。

一瞬ざわついたように思えたが、ユーリの前まで歩くと、レミアムから離れた。


「セラを不幸にしたら許さない」

3人だけにしか聞こえない声で、レミアムはユーリを睨んでいる。


「全力で守るよ。側で見ていろ、レミアム」

ユーリは一瞬だけ鋭い目線をレミアムに向ける。

だけど目線を私に移すと、蕩けるような幸せな笑顔を見せた。


「やっと――」

「こほん」


大神官様の咳払いで、私達は2人で前を向いた。





「――シリウス!お前……」

「え、父上もそのおつもりだったでしょ?」

「まあ、貴方……」

最前列の席にに戻ってきたシリウスは、飄々とした態度で、両親を見つめる。


エスコート役のことを文句言われる覚悟はしていたけど、レミアム以上の適任はいないと思ったから譲った。


(これで、あいつも前に進んだら良い……)





レミアムは席に戻ると、溜息をついた。

 

(とても緊張していたから)

 

だけど、心はとても落ち着いていて。

幸せそうに微笑む2人を見ていたら、こちらも嬉しくなってきた。


「――レミアム……」

隣に座るのは、フルール。

不安気な顔に見えるのは気のせいじゃない。


(彼女となら――)


「フルール、僕たちの結婚式はいつにする?」

僕の言葉に、フルールの目は大きく見開かれ。

そして溢れるような眩しい笑顔で答えてくれた。



 

「――永遠の、いや今世だけではなく、来世まで愛してる」

誓いの宣誓は、俺自身の心だ。


「――ユーリ、私も」

真っ赤な顔をして、恥ずかしそうに微笑むセラのベールを持ち上げると、唇に触れた。


教会の鐘が鳴り響く。


「こほん」

少し長い時間触れていたからか、また大神官の咳払いが聞こえた。

先を促されるように、手を取り合い退場する。


ライスシャワーと花びらが舞い、王宮の手のあいたものが皆、教会の前で俺たちを祝福してくれている。


「皆に迷惑をかけるが、この後もよろしく頼む」

「「はい!」」


俺達は、そのまま控室に向かう。

この後は戴冠式とパレードに、パーティーだ。

今よりも責任も、ストレスも大きくなるだろう。


だけど――。

俺は最愛の人を手に出来た。

もう片時も離れるつもりはない。

俺の癒しであり、原動力であり。

彼女と共に暮らす国を、慈しみ愛する。


彼女が、あの時レミアムの不貞疑惑だと思わなければ。

俺があの時、あの通りを通らなければ。


(この幸せはなかった)


「ずっと一緒だ、セラ」

「はい、ユーリ」




ロッソ国は、即位した若き国王と王妃によって、さらに繁栄していく。

賢王、賢妃として、多くの国民に愛され、そして愛した。


2人の功績は次代に語り継がれていく事となる――。

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