週末のレイトショー
三咲みき
週末のレイトショー
『僕は、なんにも上手くできなかった。どうして僕はこんなに生きるのが下手くそなんだってずっと苦しかった』
スクリーンに映る男子高校生は、目に涙を浮かべながら、目の前の青年に自分の気持ちを打ち明けていた。主人公が初めて自分の気持ちを吐露するシーン。普段は物静かな彼が涙ながらに訴えているそのシーンは、観ているこちら側の涙を唆るには十分だった。
自分と未来に絶望した主人公が、自己を立て直していく青春アニメ映画。劇場の隅っこで、時間を忘れて私は夢中で物語の世界に浸っていた。
***
劇場を出ると、湿気を帯びたぬるい夜風が頬を撫でた。
六月はシンプルにしんどい。GW明け・梅雨・祝日がない。この三セットは、気分を憂鬱にし、どんどんやる気を削いでいく。せめて有給がとれるなら、話は違ってくるのだが。
新卒で入社した会社は一年で辞めた。現在、二社目である。まだ有給をとれるほど勤務していなく、この六月は、有休無しでなんとか乗り切るしかない。
どうやったら頑張れるか、ストレス発散できるのか。そう考えた先にたどり着いたのがレイトショーだ。
私はこれまで、レイトショーとやらに行ったことがなかった。「夜に映画? なんでわざわざ夜? 昼行けばいいじゃん」と、まあ鼻で笑っていた。
ところが残業続きの週末、ふと「映画でも観て帰ろうかな」と思い、適当に作品を選んで観たところ、その魅力に気づいてしまった。
まず、お客さんが少ないというのが、かなりいい。ほぼ貸し切り状態だ。身体が疲れているからか、背もたれも心なしかいつもより心地良い気がする。料金も昼間よりかは安いし、今までなぜ夜に観に来なかったのか、逆に疑問に思うほどだ。
それからは二週間に一度、金曜日の仕事終わりにレイトショーを観に来ている。
観る映画は、基本的にはそのとき気になっている作品だ。しかし疲れた身体と一番相性がいいのは、静かにひっそりと泣けるような作品だ。
ちょうど、先ほど見てきた映画のような。
涙を流す瞬間、自分の心まで洗われるような感覚になる。観終わった後は、心がスッキリし、どこか満ち足りた気持ちに。これだけで一週間の疲れが吹き飛ぶような感じがした。
映画を満喫したあとは、コンビニに寄ってから帰る。
本当は外食してもいいんだけど、それだと帰るのが面倒くさくなってしまう。それなら、夕飯を買って家で食べるのがいい。
普段自炊する身としては、コンビニ飯でもかなり贅沢だ。カツ丼と、今日はデザートもつけちゃおう。
こうやって、次の祝日が来るまでの間、週末に少しばかりの贅沢をして、この憂鬱な毎日を乗り切るのだ。
週末のレイトショー 三咲みき @misakimaru
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