第8話「ミッション・レンポッシブル」
今、俺・天野 恋と友達の光森 雪也は学習塾の体験授業に来ている。
「いや、恋恋俺もいるよ?」
それと俺の下僕の美波 生。
なんでこの三人で学習塾に来ているのか…。
時は数時間前に遡る。
「頼む!あたしが好きな人と両思いになれるよう協力してくれ!」
「なんでだよぉ!?」
俺は屋上から絶叫する。
頼んできた主・下牧 歩は土下座する。
「お願いだ!あたしには時間がないんだ…」
「嫌だぁ!それなら美波と放課後過ごすほうがマシだ!」
その美波は、どうでもよさそうに「空が、キレイだなぁ…」と遠い目をしている。
横にいた雪也はオロオロと困った顔をしているだけだ。
「とにかく俺は断るからな!!!!!!」
今にも舌が三等分になりそうな勢いで声を上げる。
俺の勢いに歩は奥歯を噛みしめる。
「…お願いします。あたしに協力してください。」
歩は静かな頭を下げる。
これには俺だけじゃない、美波と雪也も目を見張る。
「何だよ……お前根性も覚悟もあるじゃねえか、そういう君の気持ちをそのまま好きな人に伝えればいんだよ。」
俺は昔の苦い思い出を思い出す。俺だって周りにいたらそうだったかもしれないと、恋の神様にすがっていたかもしれないと。
「え…」
「わるいな…」
俺は歩に背を向ける。
「ま、待ってくれ!」
俺は華麗に去っていく。
「報酬を用意している、お前が好きだという美女の紹介をしようじゃないか!」
俺は光の速さで振り返った。
「何!!!!????」
「解説のユッキーさん!奴が食いつきましたよ!」
急に美波は実況を始める。
「ぐぬぬ、僕の番なのに他の女に……!」
なぜか解説担当の雪也はブツブツと怒っている。
「え、そうなの?(笑)この物語、いつからBLになったんだぁ!」
「いや、なってねえよ!?俺が世界中のカップルを破滅に追い込み、奥さんと新婚旅行に行くまでの物語だろ!」
恋の言い分に反論するように皆が掴みかかる。
「あたしが彼氏と両思いになって子供を作るまでの物語だ!!」
「ち、違います!僕と番がお互いの好きなものを語り合って、愛の試練を乗り越え、式をあげるまでの物語です!」
「雪也、キャラ崩壊してんぞ!お前は控えめ真面目キャラじゃなかったのか!」
どんどん修羅場と化してきた。
「まあまあ皆さん落ち着いて。この物語はね、オレと愛ちゃんが両思いになり、生涯寄り添い合う感動純情派ラブコメだよ。」
「「「んなわけねえだろ!?(そんなわけないでしょう!?)」」」
歩が無理やり話を戻す。
「とにかく天野 恋、お前が無類の女好きということはもう分かってる!諦めて協力してくれ。」
「なんでそんな解釈になっているんだ…」
「Yahoo知恵袋からの受け売りだ。」
歩は素朴なスマホの画面を恋に見せる。
鮎の夢さん
『愛私輝学園高等部に通う天野 恋の好きなものを教えてくれ。』
ベストアンサー
SでありMでもある男さん
『女』
「いやなにこれ、このベストアンサーどうなってんだ!?」
既にツッコむべきことが多数あるのだが…!?
「そうですよ、そんな恋くんを女好きの変態クズ野郎犯罪者みたいに!」
雪也は頭のネジが外れたのか、ボロクソ言っている。
歩は驚く。
「てっきり、天野 恋の知り合いから返信が来たのかと…」
「いや、こんな奴知らねぇよ!?」
俺は全力で首を振る。
その後ろから美波が頭をひょっこりと出す。
「あ、それオレだよ〜」
「え?」
「は?」
「ん?」
一瞬沈黙が流れる。俺は軽蔑の目をハッキリと美波に向ける。
「お前のせいで俺がヤバい奴認定されているんだがどう言い訳をするつもりだ。」
美波は軽蔑をものともせずこう返す。
「事実だよ?」
衝撃でもない裏切り……
美波くんがどうなったかは、心中お察しください。
「さて、美波はおいといて…」
待っていた歩と雪也の二人は、ブルブルと震えながら何度も頷く。
雪也も美波と言う名の犠牲者を見て興奮が収まったらしい。
「報酬は一応もらっとくよ。お前の恋路を手伝ってやる。」
その言葉を聞いて歩は目を輝かせた。
「本当か!」
「ああ、二言はねぇ。でもな、最後はお前の口から直接気持ちを伝えるんだ。それが条件だ。」
「もちろんだ、ありがとう」
「美波もバツとして手伝わせるからな」
かくして、両思いミッションが始まったのだった。
そして今に至る。
学習塾の前で雪也と美波に耳打ちする。
「歩によると、この塾に毎週水曜と金曜に来ているらしい。名前は月島 瀧(つきしま たき)と言うらしい。」
「「なるほど」」
二人は刻々と頷いた。
「今日は、ターゲットと仲良くなり、連絡先を交換することがミッションだ!」
「「ラジャー!」」
「ってなんで雪也も来てくれたんだ?」
俺は今更ながら来てくれた雪也に聞く。
「それはね、オレがユッキーを脅迫したから♡」
代わりに美波が悪い顔をしながら答える。
「脅迫?」
「そっ。ユッキーの番がどうとかっていうの録音したから。」
俺は悪魔でも見るような顔で引く。
「と、とにかく乗り込むぞ!」
俺が先人きって前に出る。
「あの美波さん、僕脅迫なんかされていませんよ…?」
「だって、女の子に恋恋を獲られたくないからついてきたんでしょ?」
美波の指摘に雪也は顔を赤くする。
「吸血鬼は気に入った血の持ち主に独占欲を抱いてしまうんです。だからよく変な自分になってしまいます。」
「そんなに恋恋の血、美味しかったんだ?」
「はい、恋で血はどこまでも美味しくなるんです。」
「あ~、なるほどね」
美波は理解する。
恋のキューピッドと呼ばれる天野 恋だ。そりゃあ嫌でも美味しくなるだろう。
「二人して何してるんだ?もしかしてまた脅迫してんのか!?」
なんでだよ、と内心ツッコむが、自分を演じる。
「そうだよ〜、恋恋も脅迫しようかなぁ??」
「俺にやましいことはねぇよ!」
「えぇ、自分から言った!怪しい〜」
雪也は美波に向かって小さく口を動かした。
ありがとう、と。
ついに中に入る。敵情視察だ。
「体験授業を申し込んでいた天野、美波、光森です。」
受付の美人な女性に名乗ると、教室に案内してくれる。
この学習塾・コイヨリ塾は、20人ほど入れる教室で勉強を教えてくれる学校のような塾だ。
「皆さん高校生なんですよね?なんで今日はここを見に来てくれたんですか?」
受付の人が軽いノリで、聞いてきた。
「え〜っと、コイヨリ塾の月島さんが凄い!と噂で聞きまして。」
あらかじめ聞かれそうなことは回答を用意しといた。
「あ〜、彼ですね。私もよく知っています。ちょうど今日来ているはずなので、紹介しましょうか?」
思わぬところから、手伝いが入った。
「あ、ぜひお願いします!」
俺達は目を合わせてガッツポーズをする。
「それではこちらの教室でお待ちください。月島さんも呼んできますね。」
笑顔で女性が退室すると、俺は二人の席に向き直る。
「やったな。思ったより早く会えそうだぞ!」
「そうですね。いざというときはインスタとかも聞けるかもしれません。」
「年の近い男子だもんね。エロい話出せば一発だよ。」
「「それはダメ」」
二人で叱責していると教室のドアが開く。
「失礼します。」
受付の女性、ではなく筋肉質の男性だった。大学生くらいの年だろう。今日教えてくれるであろう先生だと、三人は察する。
「俺が月島 瀧です!嬉しいなあ、俺のこと褒めてくれて!今日は楽しんでいってください!」
「「「!!!???」」」
その言葉に俺達は目を見開く。
「ま、まさかあなたが月島 瀧さん…?」
「そうです!よろしくね。」
わなわなと震えながら指を指す。それを月島は勘違いしたのか、握手してくる。
「年の差ありすぎだろう!!!!!!!??????????」
大学生と中学生だとは思わん!
次回、月島 瀧から連絡先を聞き出すことはできるのか!
恋が憎いキューピッド~Love Wars~ 藤中美奈 @huzinakamina
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