第6話
真剣な顔をして見上げてくる。私は、目を丸くする。正直、要らないとは言えなかった。それに、確かに家に置いておくと、また良からぬことが起こるかもしれない。
「そうですね。あの子のお見舞いの時にでも、着ることにしましょう」
兄は、ほっと息を吐いた。銘仙を包み直して、捧げてくる。
「そうですね。この銘仙が悪いという訳ではありませんからね」
私の小声に、兄が首を傾げる。
「この家も寂しくなりますねと言ったのです。私の弟も、外に出されるのでしょう」
「ああ…」
気の抜けた返答。兄には、弟より妹が大事。何だか、少しだけ嬉しくなった。
「あの子には、可哀想なことをしたね。元気になって、良い養い親が見つかれば良いのだが…」
心がこもっていないこと、この上ない。まあ、兄にしてみれば、同じ血の繋がらないのでも、十数年も同じ家に暮らした妹と、たかだか数年のつきあいの弟とでは雲泥の差なのだ。
「
「はい。お兄さまも、お身体には気をつけて」
振り返らない。初恋も、その証拠も、ここに置いていく。
「わあ、綺麗な銘仙」
兄と並んで、虫干しする銘仙を見た。
「私の母は言ったよ。この銘仙が似合う娘さんと、私は結ばれるだろうとね」
「お嫁さんってことかしら」
兄は黙って、それから、私の頭をわしゃわしゃとかき乱した。
「生意気言って」
私は、むくれる。
「私は、もらわれっ子だから、お兄さまとも結婚できるのよ。知らないの」
「お前が一人前の娘になるまで、兄さんは何年待たなくてはいけないんだよ。三十路だぞ」
でも、実際、兄は知らず待ってくれた。
私の父で、兄で、夫。母親にまでしてくれた。馬車の中で、風呂敷包みを抱き締めた。
「これまでも、これからも、ずっと愛している。いつまでも」
了
「六木君のこと」に続く
銘仙の悪魔 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho
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