第11.5話(外伝1)

白桃が準備するから待ってくれと待つこと15分


白桃からお呼びがかかる。




「接続完了しました」


「お、おう」




目の前にあったポータルの中心が眩く光り輝く。




「これに入るのか?」


「はい、学園に一番近いポータルにつないでます」


「そ、そうか……」


「ではいってらっしゃい、マスター」


「なんだ、付いてきてくれないのか?」


「ええ、私はここから離れるわけにはいかないのです」


「はいはい、超高性能AIは忙しいんだな」


「エッヘン、ただ回線はつなげておきますのでどこにいても通話などはいつでもできますよ」


「どこにいてもか?」


「はい、この銀河内なら遅延のないレスポンスが可能です」




これでもかとふんぞり返る白桃。


それにしてもこの船といいAIといい誰が作ったんだ?という疑問が浮かぶ。




「なんというかすごい進んだ文明で作られたのか?」


「はい、私が作られた時の文明は既にレベル5でした」




レベル5ってどれぐらいなのかよくわからないが……まあ、すごいのだろう。




っていうか、本当に戻れるのかちょっと不安になってきたな。




なぜなら目の前のまばゆい光の中に入る必要があるのだ……大丈夫なのか?


この光の中、正確にはポータルで移動するのだろうけど、原理がさっぱりわからん……信用していいのか?




「よぉぉぉし、いくぞ」




俺は気合を入れるために声を上げる。


しかし、その掛け声を茶化す白桃。




「掛け声はいいのですが、腰が引けてますよマスター……早く入って下さい」


「うるさい、心の準備が必要なんだよ」






こうして俺は命を取り留め、無事に学園の近くへと戻ることができた……はずだった。


しかし、光を抜けた先は薄暗い空間だ。


見回して見ても辺り一面何もない場所にポツンとある転送装置。


天井も高く土というか岩に囲まれた……まさに地中の巨大ドームといった感じだ。


だが、俺が驚いたのはその空間というよりも……




「なあ、白桃聞こえるか?」




振り向きざま転送装置に向かって話しかける。




「何でしょうか、マスター」




すると、左肩付近にウィンドウ画面が開き脳裏にテレパシーのように白桃の声が響く。


不思議な感覚で面白いのだが、今自分が置かれている状況が面白くないので血の気が引いていた。




「ここは……?」


「学園の近くにあるポータル施設です。ジャスミンの船とここをつないで転送しました」




その説明は入る前に聞いたな。




「いや、そうじゃない」


「どうしました?何か問題でも?」


「大ありだろう!」


「ポータル施設ですか?ここは遥か昔に栄えた文明が残した遺産のようなもので」




俺が期待する回答から離れた解答が返ってきたので再度、質問する。




「だから、そういうことじゃない」


「ではなんだというのですか?」



目の前の状況に緊張しており、呆れたような白桃の姿にイラっとする。



「なんでダンジョンの中なんだよ!」




白桃は首をかしげる。

何が問題なのか分からないといった感じだ。




「それは、長い時間をかけて魔力がたまりダンジョン化しているだけです」


「だけって、あのやばそうなモンスターどうするんだよ」




俺は数メートル先にいるヤバイ奴に指をさし、ウィンドウ画面の白桃に唾を飛ばした。




「モンスター?あのわんこですか?」




わんこ?確かに眠っている寝顔は可愛いかもしれないけど、図体の大きさからヤバイ感じがヒシヒシと伝わってくる。




「わんこってあんなドデカいわんこ?見たことねえよ」


「あれはフェンリルというわんこですね」




フェ……ン……リルだと?




「おいこら……ちょっと待て、フェンリルって空想のモンスターじゃねえのか。絵本でしか見たことねえよ!」


「実物が見れてよかったですね」


「良くねえよ……ってかこうやって正面から会いたくなったなぁ」


「まあ、出会ってしまったので仕方ありませんね」


「お前は安全な場所にいるから気楽いいよな」


「私も忙しいのです。それよりもいいんですか?」


「何がだ?」


「あのわんこ、やる気ですよ」


「……っえ?」




わんこがやる気になっている。


その事実から一刻も早く逃げ出したい。




「ガルルルルルッル」



臨戦態勢のわんこ……

あっ、俺、終わった……




「あ、そういえば、マスター忘れ物が……」




何か白桃が言っているが俺はそれどころではなかった。


死相が見える。ってか、死ぬよな俺……




「白桃……忘れ物なんてどうでもいいよ……ってか、この状況を何とかして……く……」




俺の言葉よりも早くフェンリルは動き出す。


銀色に光り輝く毛並みが逆立ち強化魔法を纏う。


この世界に来てあそこまで完璧な強化魔法は見たことがない。


まさに伝説の生き物……




「では、ポータルから大きいの出ますので離れてくださいね」




白桃が何か言っている。


だが、もうどうでもいい。


勢いよくこちらに向かってくるフェンリルに俺は死を覚悟した。




「うわぁぁぁぁぁぁぁ」




俺は頭を抱えて身を低くする。


そうしたいと思ったわけではない。


反射的に体が動いたのだ。


惨めな格好であることは認める。


だが……怖いものは怖いのだ。




「……あれ?フェンリルは?」




恐る恐る自分の体を見るが何も変化はない。


自分の体に変化がないと確認した視線をゆっくりと上げるとそこには巨大な狼の体を受け止めるアドバンスカラーのロボットがいた。




「マギネス……ギヤ……」


「なんとか間に合いましたね」




脳に直接響く白桃の声に安心したのか強張った身体から力が抜けるのを感じる。




「は、白桃……」


「何ですか?マスター」


「こ、これは?」


「マギネスギヤですよ」


「ああ、そうだな……」




目の前ではアドバンスカラーのマギネスギヤが伝説の生き物であるフェンリルと戦っている。




フェンリルは身体強化の魔法によって超高速移動にてマギネスギヤの背後を取る。


しかし、マギネスギヤはアクロバティックな動きであっさりとフェンリルの攻撃を避けることに成功。




「俺は夢を見ているのだろうか……」




現実離れした高次元な戦いに俺は身動きを取ることができなかった。




「マスター、ぼーっとしてないで乗ってください」


「え?乗るの?ってか乗っていいの?」


「当たり前です」




その言葉に俺は興奮していた。




本来なら恐怖でしかない命のやり取りだが、なぜか白桃が付いてくれていれば大丈夫という楽観的な感情も持ち合わせていた。


そのため、「憧れのマギネスギヤに乗って戦闘が出来るかも……」っという子供の頃からの夢が実現し、ワクワクしている。




「というか、戦闘中にどうやって乗ればいいんだ?」


「ちょっと待っていてください」


「分かった」




すると、マギネスギヤは俺に向かって移動してくる。


それを真っ直ぐに追いかけてくるフェンリル。


あまりに直進的な動きだったためマギネスギヤはタイミングを合わせて回し蹴りにてフェンリルに強烈な一撃を放つ。


その蹴りがヒットして盛大に吹き飛ぶフェンリル。




「さあ、乗ってください」


「わかった」




移動しているマギネスギヤに合わせて俺も走って移動して、動きながらマギネスギヤに乗り込む。




ただ、乗ってすぐに俺は驚いた。




「これが……マギネスギヤのコックピットだと?」


「ええ、少しばかりですが改良いたしました」




乗り込んだマギネスギヤは俺の知っているマギネスギヤとは全くの別物だった。


本来のマギネスギヤなら目の前に小さなモニターがあり頭部のカメラと連動しているのが普通なのだが、


こいつは完全マルチビューで360度すべてがコックピット内に映し出されていた。




「これが少しって……全く別物じゃないか」


「いえ、そんなことはないですよ、コックピットはユニットで交換可能なので大したことではありません」




俺は憧れの……前世のロボットアニメで出てきそうなコックピットに興奮していた。




「いや、すごい、すごいよめっちゃすげー!。なあ、これってやっぱりジャスミン……宇宙船に備え付けのマギネスギヤなのか?」


「いいえ、マスターの近くに落ちていたので回収しておきました」




俺はふと我に返り冷静になり始める。




「俺の近く?それって学園のモノじゃない?」


「そうなのですか?てっきりマスターのモノだと」






「「…………………………」」






少しばかり沈黙ののち俺たちは何もなかったかのように話を進める。




「そういえば、これってどうやって動いているんだ?ちなみに俺は魔力なんてないぞ、いやもしかして超人になった俺に魔力が……!」




そう、マギネスギヤは魔力で動くロボット。


だから魔力が皆無の俺はパイロットではなくエンジニアを目指したのだ。




「マスターに魔力なんてありませんよ」


「なんだよ……期待したのに……っというか、ほんと、どうやって動かすの?」


「超人うんぬんというより魔力も要はエネルギーの一種ですから、代替エネルギーがあればこの手のモノは動かせます」


「……で、どうすればいいんだ?」


「普通に戦ってください」


「白桃がサポートしてくれるんだよな」


「いえ、必要ないでしょう」


「待て待て待て……俺……マギネスギヤで戦闘なんてしたことないぞ」


「あ、大丈夫ですよ、マスター」


「何が大丈夫なんだよ」


「戦闘プログラムをインストールしますのでしばしお待ちください」


「は?」




え?俺にインストールされるの?


もう俺、ロボットじゃん……なんか自分が怖くなってきたよ




「では、マスター操作を預けますので……って何落ち込んでいるんですか?」


「いやさ……なんでもない」


「?」




俺の目の前のプログレスバーがいっぱいになる。


それと同時にフェンリルが再度、こちらを目掛けて突進していた。




「こえー、でも、やるしかない!」




俺は操作ボールを握りマギネスギヤを動かす。


まるで熟練者のようにフェンリルの攻撃を避けることに成功する。




「あれ?俺って……すごい?」


「いえ、戦闘プログラムが優秀なのです」


「そこは誉めろよ」


「いえ、事実です」




可愛げのない白桃はさておき……これは少し、いやかなり面白い。


フェンリルの攻撃は音速を超えているのだろう。


マギネスギヤの測定ではマッハ3だ。


しかし、俺にはスローモーション撮影のようにゆっくりと見える。




「た、た、た……」


「た?」


「楽しい!」


「マスター戦闘中ですよ」


「いや、これ……最高にすごいじゃん」


「そうですか?もっとカスタマイズできれば良かったのですが、何分エネルギー不足だったために」


「いやいや、これ最高だよ、伝説の生き物倒せちゃうよ」


「まあ、あの程度なら楽勝ですね」




俺はとても良い気分になっていた。調子に乗った俺は腰に装備してあった魔導ライフルを構える




「これで終わりにしてやるぜ……て、これもカスタマイズされている?」




これはマギネスギヤの魔力を使って弾丸を飛ばす魔導ライフル。


弾丸と言っても大きめの石を飛ばすと言ったほうがいいだろう。


と、本来の魔導ライフルよりも前世のアニメでみたライフル銃に近い気がするが……




「ですね、ただ、あまりにも非効率的なのでカスタマイズしておきました。連射も可能です」




カスタマイズ……そういえば、マギネスギヤもカスタマイズしたって……


少しばかりだが違和感があったので白桃に聞いてみた。




「カスタマイズってどこにあったやつを改造したのだ?もしかして学園の……」


「それもマスターの近くに落ちていました」






「「………………………………」」






俺と白桃は少し沈黙してすぐに両者とも頷き解決する。


そう、過ぎてしまったことだと。




「にしても、こんな魔導ライフルであのフェンリルを倒せるのか?」


「普通は無理ですね」


「ならもっと別の強力な武器ないの?」


「ありません、それで戦ってください。大丈夫、レクチャーは行います」


「マジかよ」




俺は攻撃を避けながら白桃から一通りのレクチャーを受けてそれに従いフェンリルに挑む




「ここがああなってこうなって……」


「ふむふむ」


「で、こうしてああして……」


「ふむふむ」


「わかりましたか?」




白桃の問いに俺は自信満々に答える




「よし、ちょっとだけ理解した」


「全部理解して下さい」




ようは実践あるのみだ。




「よし、銃弾をセット。ロックオンしてトリガーを引く」




俺は魔導ライフルを勢い任せでぶっ放す。


しかし、弾丸はフェンリルの硬い皮膚に弾かれてダメージを与えることが出来なかった。




「あるぇ?おかしいな」


「マスター先ほど説明したとおりにやってください」


「やったぞ」


「全然違います」


「だってさ、加速?念動力?だっけ、よく意味が分からんぞ」




俺は事前に加速状態に入って念動力で出力を調整と言われても意味がよくわからなかった。


戦闘プログラムがインストールされていると言っても理解できていないので体もいまいち反応が悪いのだ。




「んー、そうですね。よし、ではこうしましょう」


「おう、どうすればいいんだ?」


「写経してください」


「は?」




すると、白桃は俺の目の前に光センサーのキーボードを用意する。


そして、ウィンドウにはかなり長いプログラムが映し出されていた。




「おいおいおい、まさかこれを写せと?」


「はい、理解できないならプログラムを写経するのがマスターには一番かと」


「だって、マイクロスコープ現象?がどうとかこうとか言われてもわかんねえよ」


「だから、写経しましょう」


「……戦闘中に?」


「もちろんです」




俺はもうやけくそになりキーボード入力を行い始めた。




「まずは加速から」


「ぬおおおおおお」




カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ




兎に角、手を動かせ!という勢いで写経を始める。




「なあ、白桃」


「なんですか、マスター」


「コピペしたい」


「ダメです」


「ちくしょおおおおおお」




カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ




その後、フェンリルのひっかき攻撃やしっぽグルグル攻撃を避けながらも俺はタイピングを続けた。




カタカタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ




「出来た!」




ターンと、最後のエンターキーを打つ力に力が入りキーボードの良い音がした。


って、このキーボードもよく考えればすごいよな。


空中に浮かんでいる光をタッチしているだけなのにキーの打鍵感が最高に気持ちいいからな。




「なるほど、ここの部分で微小な粒子や波動の相互作用を計算するのね」


「それで念動力が使えます」


「ならば、最後にこのプログラムを弾丸にインストール」




全ての工程が終了。


しかし、フェンリルの攻撃がやむことはなかった。


ただ、写経中もフェンリルは攻撃を続けていたせいでかなり疲れているのか舌を出して息を切らしていた。




「これで終わりだ!」




俺はフェンリルに向かって魔導ライフルを構えた。


そして、トリガーを聞く瞬間に白桃が話掛けてくる




「マスター、弾道補正しました?」


「あっ!」




ターン!




俺が放った弾丸はフェンリルのこめかみを掠めて奥の壁にぶつかる。


その弾丸は壁にぶつかったぐらいでは勢いは衰えることなく次々と壁をぶち抜いていった。




「あー、えっと」


「マスター」




白桃が俺を白い目でみる。




「大丈夫……次は大丈夫だ」


「マスター、あのですね」




何かもの言いたげに話しだす白桃。


だが、お前の言いたいことは分かってる。




「大丈夫、次は絶対に当てるから心配するなって」


「いえ、違います……相手が怯えていますよ」


「え?」




フェンリルはいつの間にかマギネスギヤと距離を取っていた。


そして、いつ逃げ出そうかと後退りをしている。


右後ろ脚を一歩……左前脚を一歩……少しずつ後退していた。




「クゥゥゥン」




まるで捨てられた子犬のような鳴き声をして、怯えているのが分かる。




「マスター」


「なんだよ、白桃」


「それ撃ちます?」




白桃はマギネスギヤが魔導ライフルを構え銃口をフェンリルに合わせていることに疑問を投げかける。




「バカヤロウ……無理だろ」




俺は戦闘状態を解除して魔導ライフルを煽り向こうへ行けとゼスチャーを送る。




「ほら行けよ」


「…………」




フェンリルはゆっくりと元居た場所へと戻っていく。




「はあ、なんか疲れた」


「ご苦労様です、マスター」


「ホント……ご苦労様だよ」




この後、俺たちは無事にダンジョンを脱出した。

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悪役令嬢の婚約破棄に巻き込まれたモブ「連載版」 バカヤロウ @Greenonion

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