第37話 天使ミック

俺がミックと出会って一週間が経った。


両足が粉砕骨折し、内蔵のダメージが残っている俺はベッドに横たわり動けなかった。

今ではミックよりも世話の掛かるけが人となっている。


一方であれだけ痩せこけていたミックだが、白桃の調合した薬でたちまち元気になっている。

それと、病気のせいで立つことも歩くことも一切してこなかったミックだが、何とかつかまり立ちが出来るようになっていた。


それを見た侍女たちは大はしゃぎ。


「キャーミック様がお立ちになられたわ」

「きゃわいいです」

「ちょっと、転んだ時のために毛布よ!毛布を持ってきて!」


ちなみにミックの肌艶は綺麗に戻っており見た目は公爵子息として申し分ない。

姉と同じ真っ赤に燃える赤毛と整った顔立ちが将来のイケメンを示唆している。


2歳児であの破壊力はやばいな。


「もう、本当にみんな過保護なんだから」


俺の隣で侍女を冷静に見ているローズ。

だが、シスコンのローズが見るミックはどう見えているのだろうか?

まあ、少なくとも侍女たち以上だろう。


「ローズ、鼻血が出ているぞ」

「あら、いけない。ミックの可愛さにやられたみたいね」


おいおい、弟に対して興奮しすぎだろ。


ローズも薬を飲んで食欲が増したと言っていたな。

そのせいで少し太ったなんて嘆いているらしい。

アンネリーゼさんの情報だけど。

ってかさ、俺的にはローズはもう少しふっくらしても全然、ストライクど真ん中なんだけどなぁ。

むしろそっちのほうが……


「ねえ、サム」

「ん?どうした?」

「なんであたしの胸を見て考え込んでいるの?」

「滅相もございません」

「ほんとう?」

「はい、神誓ってもいいです」

「なんだ、最近、ごはんがおいしいから胸も成長しているのよね」

「やっぱりそうか!」

「……あら、神への誓いは嘘だったのから」

「くっ……図ったな」

「ええ、そうね……興味持ってくれていることが分かった」


俺はローズの胸の話をしたので怒ってくるかもしれないと思っていたのだが、なぜか上機嫌。


「怒らないのか?」

「まさか、寝たきりのサムなんて怒る気も失せるわ、それに……」


ローズは顔を真っ赤にしているのが自分でもわかっているのか、俺の視線から顔を逸らす。

決して、不貞腐れているわけではない。

照れているのは俺でも容易にわかった。


「ありがと」

「どういたしまして」


背を向けたままお礼を言うローズ。

そんな様子の彼女を見て自分がやったことに間違いがなかったんだと改めて思う。


その後、ミックがおねむの様子なのでローズが寝かしつけるために部屋を出ていく。


俺は侍女のアンネリーゼさんと二人きりで部屋に残されることになった。


「サミュエルさん、まだ、痛みますか?」

「いえ、大丈夫ですよ」


白桃のナノマシン治療が始まればすぐに治る予定なので俺は心配していなかった。

だが、アンネリーゼさんは俺のことをとても心配してくれているようだ。


俺の手を握り優しく声を掛けてくれる。


「何かあったらいつでも仰せて下さい。お力になれる事があれば何でも致します」

「な、な、何でも?」

「はい、何でもです」


こんな美人が何でもしてくれるって……いかんいかん、その発想はやめておこう。

しかし、妄想でぐらいならいいよね……うん。


「あ、そうだ、少しお待ちください」


アンネリーゼさんは柏手を打つ。

すると、ゾロゾロとメイド服を着た女性が俺のベッドの周りを囲む。


「バタバタして今までお礼を言う機会がありませんでした。改めてヴィンダーソン公爵家のメイド一同とはいきませんが、集まれるメイドにてお礼を言わせて下さい。サミュエルさん、ありがとうございました」

「「「「ありがとうございました」」」


アンネリーゼさんが頭を下げるとメイドさん達も一斉に俺に向かって頭を下げてくれる。

俺は寝たきりで動けないので逃げることも出来ずに照れる姿を晒すのが唯一できることだった。


「それで、サミュエルさん」

「は、はい、なんでしょうか?」

「この中に好みのメイドはおりますでしょうか?」

「え?」


アンネリーゼさん……それは勘違いしてもいいやつですか?


「あ、あの、アンネリーゼさん、それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味ですよ。サミュエルさんの勇敢な行い、有名な錬金術師様よりも優れた技術、皆……サミュエルさんを尊敬しているのです」

「いや、そんな、俺なんて」

「ご謙遜を。その一人に決めれないならば……複数人でも構いませんよ」


え?メイドさんを嫁にできるどころか一夫多妻?

待て、落ち着け。落ち着くんだ……マグナムサム!


「い、いやいやいや、アンネリーゼさん、あのね」

「……え?私……ですか?」

「へ、いや、声を掛けただけで」

「お声がけ頂きありがとうございます」

「ちょっと、待ってアンネリーゼさん、暴走してません?」

「暴走?そうですね、すぐにでも子作りをなさいますか?」


うん、暴走しているね。

参った。俺は全くと言っていいほど動けない。

アンネリーゼさん、メイド服の第一、第二ボタンをはずす。

ローズと同じぐらいスタイルの良いアンネリーゼさん。

しかし、決定的な違いはミカンとマスクメロンという差だ。


「ゴクリ」


俺は迫力のあるマスクメロンに喉が鳴る。


ゆっくりと目の前に迫るマスクメロン。


体が動かないのが悔やまれる。

だが、このまま身を任せることに何の躊躇いもなかった。


アンネリーゼさん、俺、覚悟は決まりました。

ゆっくりと目を閉じて、アンネリーゼさんを受け入れる心の準備に入る。


ドタドタドタドタドタ


何やら廊下が騒がしい。

バタンとドアが勢いよく開く。

息を切らして入って来たのはローズだった。


「アンネリーゼ!」

「あら、お嬢様」


どうやら肩で息をするほど走って来たみたいだ。

どうした?

何かあったのか?

俺はこの状態だから何もしてやれないかもしれない……が、最悪は痛覚を遮断してもらって動くか?


「サムに何しているのかしら?」


ローズは胸に手を当て息を整える。


「何って、これからナニですよ」


ウインクをしながら可愛くこれからの予定を語るアンネリーゼさん。


「ダメ、絶対にだめ!サムだけはダメぇぇぇ」


俺だけはダメってなんだよ一体……あれ?

なぜかアンネリーゼさんはローズの反応に笑顔。

そして、周りのメイドさん達もにやけ顔を堪えることが出来ていない。


「あら、お嬢様、サミュエルさんだけはダメって、ひょっとして?」

「はっ」


みるみるうちにローズの顔はゆでだこのように真っ赤になる。


「……アンネリーゼ、それにみんな、図ったわね」


ふむ……鈍感な俺でも流石に理解した。

どうやらローズの素直な気持ちを出させるためにメイド一同で芝居を打ったということか?

そうか……あのマスクメロンはお芝居だったのか。


「お嬢様、もしよかったら私、2号というポジションでも構いませんよ」

「アンネリーゼ!!!」

「うふ、サミュエルさん、考えておいてくださいね」


俺にはアンネリーゼさんの言っていることが本当なのか冗談なのか見当がつかなった。


「えっと、あは……あはははは」


俺が出来る事は適当に笑ってごますぐらい……かな

しかし、それを怖い目でにらみつけるローズ。


「サム……」


ローズの睨みつけるその目からは明らかに殺気が感じられた。


色々とすっきりしたアンネリーゼとメイドさん達はその後、一斉に部屋から出て行く。


「なあ、ローズ」

「なによ」


からかわれたこともあって若干不機嫌なローズ。


「ありがとうな」

「え?何言っているのよ。お礼を言うのはこっちよ」

「いや、この状態の俺を世話出来る人なんて寮に戻ったら絶対にいなかったからな」

「……だって、それは私を……」

「いや、俺が勝手にやったことだ……まあ、感情のまま動いてしまった結果だけど。だから、自業自得な部分もある」


ベッドで仰向けの俺は天井を見ながら自分のやったことを見つめ直す。

しかし、今ここにローズが生きているという事実を感じ、現状迷惑を掛けているが後悔という気持ちは微塵もない。


「それでも、私は……うれしかった」

「そっか」

「私は逃げようとしていた。でも、引き留めてくれた」


ローズは両手の指を合わせて人差し指をくるくると回している。

そんな仕草、初めて見たんですが……ローズさん、なんかキャラが……崩壊していませんか?


「私、サムならいいよ」

「え?それってどういう……」


俺は意味を分かっていて白を切る。

なぜなら、俺すらも照れ臭いからだ。

だが、彼女は更に大胆になる。


チュ


頬にキスをしてくる。


「ねえ、私、本気なの」

「……俺でいいのか?」

「サムがいいの」


しばらくの間、見つめ合う。

ローズは潤んだ瞳を閉じると唇を重ねてくる。

俺は目を閉じ、ローズを受け入れた。


体が動かないのが残念だが、今後に期待しておこう。


唇が離れ、再度見つめ合う二人。

ただ、ローズは慌てた様子で


「あ!そろそろミックの様子みてくるね」


急に恥ずかしくなったのか慌てて部屋から飛び出す。


「さて、早いところ直して……ローズを幸せにする準備でもしますか。なあ、白桃」

「なんですか?」

「見ていたんだろ」

「お粗末様でした」

「手伝えよ」

「何をですか、マスター」

「もちろん……」


俺はローズを幸せにすると心から誓う。

それと、白桃にはこれからも世話になるだろう。

なんたって俺がこれからやるのは普通じゃない方法だからな。

そりゃあそうさ、なんたって公爵令嬢を嫁に貰おうとしているのだ。


「まだまだ、これからよろしくな相棒」

「はいはい、了解です。マスター」

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