あおいはる
藤泉都理
あおいはる
ずっとずっと、トンネルの中を歩いて来た。
時折、頭上に空いている穴から光は注ぐも、光はそれだけ。
入口の光も出口の光も、横道の光さえ見えない暗いトンネルの中をずっと。
許されない恋なんだ。
許されない恋なんだよ。
ずっとずっと自分自身に言い続けて来た。
明日また会えたら。
ずっと思い続けて来て、けど、当日会えても言えなくて。
いつかは。
この繰り返す日々から抜け出してみせるって、決めていたのに。
彼は違う国に引っ越すことになったけれど、何度も何度も会えるよと言い合い、住所も教えてくれたのでそこまで悲観的にはならなかった。
彼が引っ越した国で加入したアイドルグループが有名になるまでは。
私の国のテレビでも徐々に彼が、彼が加入するアイドルグループが出演する歌番組やバラエティ放送されるようになっていった。
放送される回数が増えていくにつれて、ファンもどんどんどん増えていった。
もう彼は私の手の届く人ではなくなった。
現に手紙もラインも全く来なくなってしまった。
再会を果たせたと思ったら、彼は瞬く間に遠くへと去って行く夢を見続けた。
眠れぬ夜が続いた。
そもそも千歳という年齢差もあったのに。
そもそも魔法使いという異種差もあったのに。
その上、アイドルとして超有名になるって。
彼は一体何を目指しているんだろう。
世界征服?
もう世界征服しか考えられない。
まあ彼がこの地球の支配者になったら、争いはなくなり、そうじゃないかな。
今だってマネージャーが彼の加入するアイドルグループのコンサートチケットを購入する為に苛烈な争い(アクセスが集中しすぎていてHPが繋がらない、繋がったとしてもすぐに弾き出される最悪と鬼の形相になっている)を繰り広げている。
何かもう色々と違い過ぎて腹が立った一時を通り過ぎてしまった今、虚無だ。
あーなんかもうすごいなあと虚無顔で思う。
もうテレビでしか見れないんだろうなーと。
「あ、そうだ。れなちゃん。今度の舞台の主役が「え?主役!?」「うんごめん。主役はだめだったけど、主役の相棒役が決まったからね」
「相棒。うん。わかった」
主役をやってみたかったなあ。
のんびりゆったりとした少年の魔法使いの役。
少女の私だけど、性別年齢共に不問だったのでオーディションに挑んだのだが、だめだったらしい。
けど、気持ちをすぐに切り替えて渡された台本を読み始めた。
相棒は確か、花の妖精。いたずら好きで泣き虫で怒りっぽくて、魔法使いが大好きで。
あーもう、せっかく虚無になれて、その内、諦められるはずだったのに。
「あ、そうだ。れなちゃん。まだマネージャー業に勤しんでるうちの父親からこれをれなちゃんに渡してくれって」
マネージャーとマネージャーの父親は仲が悪いらしく、言葉に棘があった。
「ありがとうございます」
白詰草と蓮華草の花束、かと思ったら。
違う。
これってもしかして。
「うちのクソ父親ひどいのよ。私がクソ父親が今担当しているアイドルグループのファンだって知っているのに、コネでコンサートチケットを取ってくれなくてって。れなちゃんどこに行くの!?」
「ごめんすぐに戻る」
私は走った。走って、走って、走った。
彼が引っ越す前に二人でよく遊んだ野原へと向かって。
彼がよく作ってくれた白詰草と蓮華草の箒を持って。
これのおかげだろうか。
すごく身体が軽い。
莫迦だな。莫迦だ。
彼がいるわけがないのに。
わかっているのに。
「ごめん。有名な舞台俳優の君と交際するには、ぼくも有名になる必要があると思って。千歳差だし、魔法使いと人間だけど。ぼくと「私と付き合ってください!」
いるはずのない彼に飛び込んで、ぎゅうっと強く抱きしめて、わんわん泣いた。
ずっとずっと、トンネルから出られないと思ったのに。
今こうして、私はトンネルから出ることができた。
「「幻じゃないよね?」」
私と彼はお互いにぎゅうぎゅう抱きしめて、わんわん泣いて、泣き続けた。
そして涙が枯れるまで泣き続けた後、ひそやかに笑い合ったのであった。
(2023.5.21)
あおいはる 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます