灼光のソルバー

シンカー・ワン

エージェント、夜を駆ける

 夜の都会、ビルの谷間の暗闇、ハイウェイの高架下。誰も知らない街角を何かを探るように巡る二十代半ばの青年。

 精悍さあふれる若者、彼はある使命を帯びてこの地へとやって来ていた。

 彼の使命、それは宇宙犯罪結社アクトーを見つけ出し、奴らの悪行を阻止することである。

 地球は今、悪質な異星人たちから狙われていた。

 生体素材として優秀な地球人、特に日本人を中心に全宇宙規模の闇取引が横行、その取引を一手に仕切っているのがアクトーなのだ。

 被害を未然に防ぎ、捕らわれた者たちを助けるため、銀河連邦保安機構から秘密裏に派遣された地球日本国専従捜査官、それが彼。 

「……今夜も奴らの動きは無しか」

 銀河連邦保安機構が動いていることはアクトーも知っており、そう簡単にはしっぽを掴ませてはくれない。

 抑止となっていることは良いが奴らも商売。このままじっとなんかしてはいないだろう――。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ」

 闇を切り裂く怪しい悲鳴! 声の出所は近くの公園か? 駆けだして行く若者。

 深夜の公園、気を失って倒れ伏している男と涙を浮かべ寄り添う女。

 状況から、先ほど悲鳴を上げたのはこの女性だろう。

 ふたりを囲む奇怪な全身タイツ姿の集団、アクトーの下級構成員・シタッパーである。

「キュルキュル、キュル」

 シタッパーたちが意味不明な掛け声と怪しげな動きで女ににじり寄る。己が行末を察したのか、女は絶望の表情を浮かべたまま動かない。

 幾何学模様の顔をしたシタッパーたちが女に迫ったまさにその時、

「そうはさせない!」

 威勢の良いセリフとともにあの青年が飛び込んで来た。

 青年はシタッパーたちを蹴散らすと女を立たせ、

「連れは俺が何とかする、君はここから逃げろ!」

 一瞬ためらう女だったが青年の気迫に押され、恋人であろう倒れた男を気にしながらも公園の外へ向かって走り去る。

 女を追おうとするシタッパーたちの前に青年が立ち塞がり、

「おっと、追わせはしない。お前たちの相手は俺だっ」

 キックだ、パンチだ、ストレート! 青年の卓越した体術にシタッパーたちはあっという間に掃討された。

「よし、今のうちに彼を……」

 倒れている男を担ぎ上げた瞬間、強烈な圧を感じ抱えたままその場から飛びのく青年。

 同時に彼らのいた場所が派手な爆発を起こす。

「ほほぅ、かわしたか」

 からかうような声とともに暗闇からゆっくりと姿を現す異形、アクトーの中級構成員・シャテーだ。

「く、シャテーか……」

 青年は気を失っている男を茂みに隠し、彼から距離をとってシャテーと対峙する。

 "強烈な拳圧、こいつは打撃が売りの……"

「ステゴロシャテー、だな?」

「ワシを知っている? ――フフン、そうかお前が我らを嗅ぎまわっている連邦のか」

 名を口にしただけで青年の正体を察するステゴロシャテー。

 暴力の化身のくせして頭も回る、さすがは中級といったところか。

「――だったらどうする?」

「知れたこと。生かして帰すわけにはいかんなぁ」

 問いかけに殺意で答えてくるステゴロシャテー、一撃致命の拳圧が乱れ飛び青年を襲う。

「てぇい」

 飛来する拳圧を交わし、隙を見て懐に飛び込んで攻撃するも、

「かかかっ、効かん効かんなぁ」

 強靭な肉体に弾かれてしまう。

 反撃を喰らう前に素早くステゴロシャテーから距離をとる青年。

「さすがに手強い……」

「どうした犬? しっぽを丸めて退散するか? ――まぁさせんがな」

 彼我の戦闘力差を見切ったのだろう、ステゴロシャテーが威圧的に言葉を放つ。

 "……確かに勝ち目はない"

「――ならば対等にさせてもらおうか」

 青年はそう口にするやステゴロシャテーに突進しながら、変身コードを叫ぶ。

「――灼光しゃくこう!」

 瞬間、青年は赤い光球へと姿を変えステゴロシャテーを弾き飛ばす。そのまま飛んで公園施設の屋根に降り立ち、光が弾け飛ぶや人の姿に戻る。

 すっくと立つのはメタリックな赤い装甲をまとった戦士!

 ポーズを決め青年は己が名を叫ぶ!

特別機動捜査官エージェント、ソルバーッ!」

 エージェント・ソルバーが灼光する時間はわずか一ミリ秒。では灼光プロセスをもう一度見てみよう!

 大気圏外で待機しているソルバーの活動拠点、超空間戦闘艦プロミネンの反応炉で灼熱の太陽エネルギーが増幅、赤いソーラーヒートメタルへと転換され、ソルバーに転送されるのだ。

「く。貴様、ただの犬ではなくエージェントだったか」

 真紅に輝くソルバーのボディを見、ステゴロシャテーが唸る。彼にとってもままならぬ相手ということだ。

「トォッ」

 掛け声とともに宙を舞ったソルバーが大地に降り立ち、ステゴロシャテーとの闘いが再開される。

 互いの能力、技を駆使した筆舌しがたい激闘!

 それもついにクライマックスを迎える。

「ソルバー・ブレード!」

 一太刀二太刀、紅く輝く刃が重ねる斬撃にステゴロシャテーがついに膝をつく。今だソルバー、繰り出せ必殺技を!

「ソルバー・クリムゾン・スラァッシュ!」

「ギャアアアア――」

 紅光一閃、両断され断末魔をあげ爆散するステゴロシャテー。

 剣を一振り残心するソルバー、脅威を退けた勇姿が眩しい!

 数日後、病院から出ていく男女の姿が。笑顔を交わすふたり。

 それを物陰から優しいまなざしで見送るソルバー。背を向けて歩きながら決意を新たにする。

 "アクトー、貴様らの悪事、必ず俺が食い止める! この星の平和は俺が守る!"

 救え!戦え!エージェント・ソルバー!

 エージェント・ソルバー、次の活躍にご期待ください。

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