ある日の日常(夜)
キッチンで夜ご飯の準備をしていると
〈トントントン〉
階段を降りてくる音が聞こえて来て、時計を見ると家に帰ってきて2時間が経ってた。もう起きて来ちゃったかぁ〜もう少しだけ寝ててくれてたらありがたかったんだけどねぇ〜
「おか〜さ〜ん」
呼ばれた方を見ると幼稚園の制服ままの詩織が今にも泣き出しそうな顔をしながら立っていた。
「あらあら、どうしたの」
「…………えっとね…………その……………」
「怖い夢でも見ちゃった?」
「…………うん」
「そっかぁ、怖かったねぇ。もう大丈夫だよぉ」
そう言いながら優しく詩織を抱きしめて背中をさする。そうしているといつの間にか詩織の目から涙は消えていた。
「もう大丈夫かな?」
「………うん!」
すっかり笑顔になった詩織は嬉しそうな表情を浮かべていた。
「じゃあご飯まで好きなことしてていいよ。何かあったらすぐに呼んでね」
「あいっ!」
そう言うと詩織はトコトコと歩いてリビングの隅にある箱から紙と色鉛筆を取り出すと机に紙を広げてお絵描きを始めた。
最近の詩織の中の流行りはお絵描きで、今日も幼稚園の帰りにむつみ先生から沢山の絵を渡された。そして決まってその絵には
◇ ◇ ◇
「ただいま〜」
夜6時、仕事から帰って来たお父さんを詩織がお出迎えをする。詩織はいつも8時前に玄関の前に立って(明かりもつけないで)お父さんの帰りを待っている。お父さんは「最近は慣れて来たからいいけど、心臓に悪いからやめてほしい」と言ってるけど、詩織は聞く耳を持たず毎日のようにお父さんを出迎える。
「おかえりなさい!!」
「おぉ〜ただいま詩織。ちゃんといい子にしてたか〜?」
「うん!今日ね!……………」
詩織は帰ってくるなりお父さんの今日あった事のマシンガントークのように話し続ける。楽しそうに話す詩織の話をお父さんは本当に嬉しそうに聞いているとこっちまで笑顔になってくる。
「ほら詩織〜お父さんお仕事で疲れてるんだからそれくらいにしときな〜」
「ははっ大丈夫だよ。詩織の話だったらお父さんいくらでも聞いてあげるからね」
これが私達の日常。
◇ ◇ ◇
「しーおり!お父さんとお風呂入ろっか!」
夜ご飯も食べ終わって夜の8時、この時間はいつもお風呂の入る時間になっている、そして今日もお父さんは懲りずに詩織と一緒にお風呂に入るように誘う。結果は最初からわかってるのに………………
「やっ!しーちゃんはおかーさんと入る!」
「とほほ………………やっぱり『お母さん』には勝てないかぁ」
詩織は小さい頃からずっと私と入っている。まあ本当に小さい頃はお父さんもお仕事で忙しくて帰ってくる頃には赤ちゃんだった詩織はすっかり夢の中だったしね。
「じゃあお母さんと入ろっか」
「うん!」
詩織が嬉しそうに返事をしてくれる。まったく、それだけで今日の家事の疲れが吹き飛んじゃうよ。
「じゃあお父さんはお酒飲んじゃお〜っと♪」
拗ねちゃったお父さんはそう言うと冷蔵庫からビールを取り出して来た。お酒を飲むってことは今日はお風呂に入らないってことでいいんだよね?
「明日は朝イチでお風呂入ってねぇ〜」
「はいは〜い」
うちには家族ルールというものがある。まあ大したルールはないんだけど【お風呂は絶対に入る】これだけは何がなんとしても守ってもらう。どれだけ疲れてても絶対に入ってもらう。どうしても入れないなら次の日の朝イチに入ってもらう。なんでこんなルールがあるかって?そりゃあ………………なんか嫌だから?
◇ ◇ ◇
「ほ〜ら、冷たいよ〜」
「えへへっ冷た〜い!」
今は夏、夜でもかなり暑くてお風呂に入ってすぐは冷たいシャワーを浴びる。(もちろん勢いは弱めてだけどね)
詩織はこの冷たいシャワーがお気に入りらしく、ちょっと当たっては逃げてまた当たりに行くというのを繰り返している。
「ほら、髪洗うから座って」
詩織の髪を洗うときは椅子(詩織専用)に座ってもらう。椅子に座ると頭の高さがちょうどいいところに来るんだよね〜。みんなも小さい頃はこうじゃなかったんじゃないかな?
「えへへ〜くすぐったいよ〜」
「こ〜ら、逃げないの」
髪を洗うのと同時に体もボディソープで洗う。別々に洗うよりもこうした方が効率が良いし、のぼせちゃうことも防げるしね。
「はい、おしまい」
「ありがとう!」
「じゃああがろっか」
自分の髪もすぐに洗ってお風呂を出る。
お風呂を出て体も拭いてリビングに戻るとすっかり出来上がってしまったお父さんがソファーで横になっていた。
「……………寝るなら布団で寝てって言ってるのに〜!」
いっつも『寝るなら布団で』って言ってるのに〜!!!…………………もういいや、今日はここで寝てもらおう。うん、だってお風呂にも入ってないから臭いし、しょうがないよね。
「しーちゃん、髪の毛乾かすよ〜」
「は〜い」
この後は髪を乾かして、詩織の歯を磨いて、あとは寝かしつけるだけ。そうすれば………………あとは私の時間。
「ほら、お布団行くよ〜おいで」
屈んで詩織の目線に合わせると、詩織はトコトコと歩いて来てぎゅ〜っと抱きついてくる。私はそのまま詩織を抱っこして2階の寝室に運ぶ。
寝室に入ってすぐにエアコンを点ける。流石にこの真夏日にエアコンなしで寝かせようものなら私が寝に戻って来た時に詩織が干からびちゃうよ。
「今日はなんの本読もっか?」
「う〜ん……………今日はいいやぁ〜」
いつもは何か本を読んであげないと寝ようとしないのに、どういう風の吹き回しなんだろう?
「あら、そうなの?」
「うん!あっ、けど“おねがい”いい?」
「いいよ。なんでも言ってごらん」
「えっと…………その…………おやすみのちゅう………して?」
「……………………いいわよ。じゃあおめめつぶってね」
「………うん」
私は詩織のほっぺたにそっと唇を添える。
「おやすみ、詩織」
「おやすみ〜お母さん」
キスをし終えると詩織はすぐに瞼を閉じた。元々眠かったのかな?
しばらく詩織の隣にいてしっかり夢の中に入ったのを確認して布団を離れる。
ふふっこんな可愛らしい寝顔を浮かべちゃって、いい夢を見るんだよ。
私の天使 リアン @556514
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます