第4話〈兄的存在〉
翌朝。リビングの椅子に腰掛けてくつろいでいる暁に対し、その傍の床に座り込み、体育座りの格好で震えている友人の姿があまりにも滑稽でため息を吐く。
そんな快を見て、暁が太めな赤ぶちメガネのズレを指で直しつつ苦笑した。
「落ち込んじゃう気持ちはわかるよ」
快のパートナーである、彼――芹沢暁は見た目は癖のある茶髪に、メガネのインテリ優男という風貌で、普段は派手な柄のスーツを着用している事が多い。
おしゃべりでもあり、快とは正反対と言える性格なのだが、これでも快の父親と同じ東郷組に属するヤクザなのだ。
十も年上なのもあって快は兄のように感じてはいるが、服のセンスの無さと落ち着きの無さには苛立ちを隠せない。世話になっているのでなるべく我慢はしているが。
――今は、このへたれ友人をどうにかせねば。
とりあえず礼治を暫くかくまう事に決めたのはいいのだが、今後については暁を頼らないと先に進めない。
腕を組み快は暁に視線を向けると、承知したという様に話を切り出す。
「礼治君も知ってるとは思うんだけど、優劣認定試験を受けるのをおすすめするよ」
その言葉にびくっと礼治は反応してやっと顔を上げた。
視線を暁と快の交互にさまよわせて「無理だよ」と再び膝を抱えて丸くなってしまう。
しかし告知書を持参している筈なので、ひとまずはそれを快が礼治からふんだくると、暁に突き出して読ませる。
「コミュニケーション不良ってマジかい」
「へえ、そんな理由なのか」
大きな文字でそう書かれているすぐ下に、詳細の理由が記載されていた。
年齢に対して周囲との意志疎通が芳しくなく、このまま社会に出ることは難しいと判断。
優劣認定試験を希望の場合は下記日時に――。
やはり試験についても記述されている。
十六歳以上になると国民は誰しも監視されるようになる。
それは小遣い稼ぎ目的や、学校の教師が気にくわない生徒を、あるいは会社の同僚や上司が気に入らない社員を政府機関に密告して、ガービッジが認定される事が多いとされているが、実情は明らかにされていない。
暁から広げた告知書を受け取り、礼治に見せた快は強い口調で伝える。
「試験を受けろ」
「……だって、なんの試験なんだかわからないし」
暁がノートパソコンで調べ上げ、ひとまずの対策について礼治に提案し、時間が過ぎる。
いつの間にか空は夕焼けに染まっていた。
大きく伸びをする暁を尻目に、二人の未成年はすっかりソファで寝こけていた。
「説明長すぎたかなあ」
暁の声に反応した礼治が目を覚ます。
「おはよう」
「……暁さん」
「夕飯にするか。快! 起きろ!」
「あ~……」
寝ぼけ眼をこすりソファから起きあがった快が二人に向き直る。
夕食は近所の蕎麦屋『燕』から出前を取ることにした。快と暁はこの蕎麦屋の店主「貴一」とは長い付き合いである。
昔、快の家族は快が産まれてから約十年間、この辺りの一軒家に住んでいた。
快が十歳の頃運命の事件は起こる。ファングの集団は逃げるガービッジを執拗に追い回し、途中で多くの人間に怪我を負わせ、まだ八歳だった貴一の孫「紗世」は運悪くファングの放ったナイフが喉に突き刺さってしまったのだ。
烙印モラトリアム 青頼花 @aoraika
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