さいわいなことり

卯月

さいわいなことり

「さようなら」青い小鳥が言いました。「ぼくはこれから旅に出るんだ」



いつの日か行こうと決めていたのです。自分の翼で、ただ飛ぶために。



「わがままはおよし」と母はさとします。「ここがいちばん幸せなのよ」



かないで」赤い小鳥は泣きました。「あなたがいなくなったら淋しい」



なぜだろう。それでもぼくは、果てしなく広い世界を見てみたいんだ。



この窓の向こうの空は青くって、どうしようもなく心がさわぐ。



とおくまで、力の限り飛んだなら、ぼくは必ず帰ってくるよ」



りん、とした空気を胸に吸いこんで、小鳥は空へ飛び立ちました。





「そのあとは?」子供がパパに聞きました。「青い小鳥はどこへいったの?」



りたいかい?」パパが子供に聞きました。「小鳥はどこへ行ったと思う?」



てん高く! それからきっと、山の向こう! えっとそれから、海の向こうも!」





かぜに乗り、小鳥は空を飛びました。力の限り、はるか遠くへ。



永遠えいえんに流れるような広い河。雪を抱いた高い山並み。



つきの夜は海辺で羽を休めつつ、長い旅路を振り返ります。



てん高く、山の向こうもぼくは見た。今、目の前はきらめく海だ。



きたいわ)声が聞こえた気がします。(広い世界を全部教えて)



たくさんのことを、ぼくは語りたい。語るためにも、ぼくは帰ろう。



えてきた空をまた飛ぶ長い旅。見えてきたのは、あの家の窓。



びながら、「待っていたわ」と懐かしい赤い小鳥が歌っています。



りょうの目で小鳥は見つめ合いました。そこにあるのは幸いでした。

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さいわいなことり 卯月 @auduki

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