第30話

振りかえる事なく部屋を後にするユスティアに、愛する姉も嫁ぐときはこんな感じだったなと、思い返す。

フレデリカの美しさは世界的に有名で、婚姻の申し込みがとにかく多かった。

姉を溺愛していた親弟妹達は、ずっと傍にいてほしくて、他国からの申し込みはことごとく断っていた。

そんな中での、突然の結婚宣言。

それは他国の人間で、しかもその容姿は凡庸。

当然、皆が反対した。

女神の如き美しい姉には、誰もが認める美丈夫でなくてはいけない。誰もが、そう叫んだ。

だが、当のフレデリカは彼にベタ惚れで、初めは彼の良さを訴え結婚の了承を得ようとしていた。

どんなに言葉を尽くしても認めてくれない親族達。

その理由が容姿なのだというのだから、腹が立つ。

フレデリカはあまりにくだらない理由に、駆け落ちを決行しようと計画。慌てた親弟妹達が、ようやく結婚を認めたのだ。


今日のユスティアの様子は、まるでフレデリカそのものだった。

懐かしくて、ついつい意地悪をしてしまった。


「もう、この国には来ないと言われても困るからね・・・・」

彼は何処か寂しそうな笑みを浮かべ、静かに目を閉じたのだった。



翌朝、ユスティア達はこの国を後にした。

煩わしい挨拶など抜きにし、さっさとこの国を離れたかったのだ。

「まったく、あの人たちにも困ったものだわ」

未だぷりぷり怒っているユスティアが可愛くて、エドワルドは彼女を抱き寄せその頬に口づけた。

「まぁ、正直ティアとの時間を無駄に削られて、僕もキレる寸前だったけど、こうして乗り心地の良い広い馬車を贈ってもらったし。

国に着くまでずっとくっ付いていられるし、僕は今とても幸せだよ」

「むっ・・・確かにこの馬車は揺れないし、最高の乗り心地で嬉しいけど・・・・」

大叔父から謝罪で受け取ったこの馬車は、国で流通しているものより、はるかに素晴らしい技術で作られていた。

昨日の経済戦争云々は、正直茶番の様なものだった。この国は盤石で何があっても揺るぎない、強国。

大叔父がユスティアの言葉に乗って、王太子達が仕出かした事での落し処を見つけてくれたにすぎない。


当然のことだけど、こんな小娘にあわせてくれるなんて・・・・流石おばあ様の弟よね。

まぁ、あのままだと、やりすぎ王太子と王女に何らかの罰を与えなくちゃいけなくなるものね。


エドワルドに寄りかかりながらユスティアは、まだまだ精進しなくては・・・と、一人思う。

これから夫は今まで以上に義父と共に、本格的に外交の仕事をするだろう。

義母もそうだが、夫に帯同して各国を回る事になる。


この美貌だもの・・・今回みたいなことがまだまだ起きるんでしょうね・・・・

多分、これまでもあったんでしょうけど。


仕事で外国から帰ってきた時、とにかく疲れたようにユスティアを抱きしめて離さない事が多かった。

浮気は心配していないが、やはり愛する人の周りをうろつく女達には警戒している。


「ねぇ、ルド。浮気は許さないわよ」

浮気は心配していないとは言いつつ、絶対はあり得ない。

だから、言葉で伝える事を欠かさない。例え鬱陶しいと思われても。

まぁ、エドワルドに関しては、鬱陶しいと思うどころか、もっと言ってくれ!というタイプなのだが。

現に、ユスティアの言葉に嬉しそうな笑顔を見せている。


「ティア以外を好きになるわけないだろ?毎日毎日ティアに恋していってるって言うのに。僕のティアを愛する気持ちに上限はないんだから」

そう言いながら額に口づけるも、どこか不安げな眼差し。

「どうしたの?ルド」

「うん・・・僕はティアが大好きだし愛している。さっきも言ったように際限なんてない位。でも・・・ティアはそんな僕を鬱陶しいと思わない?」

その今更な言葉に、ユスティアは目を見開いた後、吹き出してしまった。

「あはは!ルド、それこそ今更よ!」

「笑わなくてもいいだろ」

ちょっと拗ねたように唇を尖らせるエドワルドが、本当に愛しい。

「だって、私も毎日ルドに恋してるんだもの。お互い様よ」

ユスティアの言葉に、ぱぁっと花開く様な笑顔を浮かべるエドワルド。


あぁ・・・そういう顔を見る度に私はあなたに恋をするのよ。


どんなに年を重ねても、変わることのない愛情をお互いに注ぎあえたらいいな・・・と、顔を見合わせ微笑み合うのだった。













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