第28話 最終話

「久しぶりやな兄さんあの時はゴチソウサマでした菅原分太一(すがわらぶん

たいち)や。」

>  両手を合わせてこちらを向いて会釈をした。だが、こちらを睨む蛇の目級の

眼光は亮一も、ぞっとした。

>  どうやら礼儀正しいのかなと思った刹那、「もう姐さんに悪さ」しないと誓

うか?」

> 状況から見て誓うといわなければ! 今日は妻のお手製ギョーザだから帰って

食べなきゃあ!早く帰りたい!

> 「ち、誓います、神に誓います。」これで開放されるならお安いもんだ。と、

過ぎる!

> 「姐さんに誓わんかいっ!」まだ足らんのかい。嘗めていた亮一。

>  ギラついた眼光で睨まれた! 背中に悪寒が走り全身が縮み上がった。

> すぐさま後部座席の内奥つばさを振り返り、「つばささんに誓います!二度と

悪さしません!」

> 思った通りだ!悪魔の顔を見せている。

> 「極道の妻とは早く手を切れ!ワタシの知人で同じような過ちを犯した男が両

眼を潰されたんだぞ!?」野瀬川所長の声を思い出していた。

> 「二度と姐さんに悪さ出来んように四本の指とポコチンをハサミでちょん切れ

い茂!ハサミとギロチンや! 出せ!」ハイッ!固まっていたが動きは機敏だっ

た。

>  兄貴の威力は絶大だ。

> つばさの兄貴はもっと怖いんだろうな・・・。

>  ぼんやりと考えていたらリヤトランクから刃渡り30センチ級の刃物の着い

た木製の台を抱えて持って来たのは高倉茂だ。重そうだった。

> 「磨いて置きましたからよく切れますよ。」青褪めた。

>  余計な事をしやがってと怒鳴ったが声に為らなかった! 

> 口にタオルを入れられていたからだ! 

>  丸坊主が刃物を90度まで上げた!ランドクルーザーの薄暗い所作は車外か

ら観ても何も分からないだろう・・・。全ガラスに真っ黒なプライベートフィル

ムが貼られていたからだ。絶望的な亮一はこれから起こる事態を想像出来たが、

結末は想像出来なかった。

>  亮一の五本の指を揃えて切断器に合わせる。

> 四本の指を真っ直ぐにして揃え親指だけ掌中へ折り曲げ入れられた。

> 「親指は助けたる。」重低音が優しく響いた。

> 「ありがとうゴザイマふ。」タオルを突っ込まれた口腔は発音は判然としなか

ったが、歯を食い縛って礼を言う。丸坊主の眼を見た。眼を見開き感情が伝わる

様に相手を観た。

>  営業双子中亮一の癖だった。

> 「イエイエ、どういたしまして。」顔を赤らめた丸坊主がコクリと頭を下げた。

照れていた。

>  底抜けに明るく間抜けな会話のやり取りが成された。

> しかし、明るいのはそこまでだった!

>  次に丸坊主の兄貴が中腰になって全体重を掛け刃物に乗っかった! 

> ブーーンサクッ!

>  ブチブチブチ、ブチ!と、四本の指が跳ねた! モノクロの砂嵐が見えてや

がて眼の前が真っ暗になった。「痛い!」と言う暇も無く、亮一は気絶して痙攣

を併発し、口から泡を噴出していた。

>  やっと丸坊主の兄貴の力んだ身体から毒々しいパワーが脱け出て行った。

> ホーッと溜息をつき、「姐さんお疲れ様でした。これで平和が訪れますわ。」

>  安堵した顔をつばさに向けた丸坊主は、悪魔は悪魔だった。

> 「シゲルハヨ! チンポコをハサミでちょん切れ!」

> ハイッ! 高倉茂は、ハッキリと元気良く返事をした。素早い対応だった。

>  亮一のズボンとパンツを降ろすと、プ~ンと小便の匂いがした。

> 恐怖で小便をチビって居た。パンツはびしょびしょに濡れていた

>  しかし、高倉茂はわき目も振らずテキオパキと亮一のイチモツを摘み枝切り

ハサミでヂョギン! 鮮血が迸り、車内には亮一のヌメヌメとした真っ赤なイチ

モツが転がって異様な程の鉄分の匂いと鮮血の匂いが充満していた。全乗員は勿

論血だらけだったが・・・。

> 「リョウちゃんもざまあ無いネエ。」憎々しげな視線を遣ったが、身体の力は

抜けていた。

> 繁々と状況を見詰めて動じず女は出血に強いと思わせていた。

>  つばさは状況に応じてツイートしたがその顔は何だか寂しそうだった。

> 岐阜救急医療センターの三階外科フロア。

>  亮一が目覚めると妻と子供が一枚の用紙を置いて病室から出て行く刹那だっ

た。

> 「助かった様ね。」マジマジと声のする方を見た。

> 「ナオミ・・・。」

> 意地悪な眼をした女の子が救急車を呼んでくれたのよ~。

>  歌うように言うナオミ。

> いつだってそうだ、亮一の側に居てくれる。心を癒してくれる。

>  依存していたから、そう思えた。

> 「酷い。」ナオミが見下ろして謂う。

> 「うん酷い目に遭ったよ。」

> 「これからは僕と一緒だ。」

> 「いいえ、それは違う。」透き通る様な直美の声は 病室の隅々まで響き渡っ

た。

> 「酷い目に遭ったのは貴方の奥さんと子供ちゃんよ。」

> 「そしてワタシにも酷い目に逢わせようとしていた。」

> 「酷すぎるわ・・・。」

> 「この申請書は離婚届よ?」

> 「奥様が置いて行ったわ。子供ちゃんは泣いていた。」

> 「あなた言ったわね、付き合ってお互いが必要としたら結婚しようって・・・。

> 「でももう無理、貴方は必要ない。結婚の前に離婚するわ!婚前離婚よ!」

> 「アナタは必要ない! サヨナラ。」クルリと踵を返し病室の引き戸を開け、

痛み止めと抗生剤を置いて病室を出て行った上善寺ナオミは二度と振り向かなか

った。

>  病室を出て行く途中に亮一の慟哭が届いたが、構わず二度と振り返らなかっ

た。

> そして通路の壁に凭れて直美を待っていた男に腕を絡めて一緒に幅広の通路を

コツコツ、と足音を立てながら歩いて行った。

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極道の妹・女の報復 しおとれもん @siotoremmon

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