11://宇宙魔物とは、宇宙の魔物である
諸々の処理を完了して、二人は宿のベッドに飛び込んだ。
灯里が借りた部屋は、平均よりも数段高級なホテルである。
余裕のある広い部屋には大きなベッドが二つ置かれ、その他にもソファやテーブルなどが設置されており、ゆったりと過ごす分には何も不自由なさそうな環境である。
チェックインやチェックアウトを対面なしのセルフで行えるというのも楽なポイントだ。電子決済がどこでも使えるというのも技術の進歩を感じる。
「うん、セキュリティもしっかりしてそうだし、いい部屋だね」
「今日はやはり、そこそこ疲れたのう」
「結局、かなり付き合わせちゃったね」
「いや、わしも自分の目でこのステーションの雰囲気を見ておきたかったのでな、全く問題はない」
「……というと?」
「わしをさらった奴らの情報がないとも限らんじゃろ」
「まあ、それもそうかな……。ところで、ようやく落ち着いたから聞きたいんだけど……アオって何者なの? 出身とかは?」
聞かれたアイオライトは、うーむと唸った。とはいえその雰囲気は話したくないというよりも、どう話したものか考えているようだった。
「そうじゃな……。世話になる以上、ぬしには話しておくべきじゃろう。改めて、わしの名はアイオライト。自己進化能力を備えた人工生体演算装置の、あの研究所においては唯一の成功例じゃ」
「…………はい?」
灯里は、ぽかんと口を開けたままアイオライトの言ったことを反芻した。
「えっと……人工生体演算装置ってことは……人間じゃないってこと? その外見で?」
「うむ、その通り。まあ人間を模した生体部品を用いたオートマタなど珍しいモノではなかろう? その『ガワ』に他より賢いOSが載っているようなものじゃよ」
珍しくないだろうと言われても、その事実すら灯里には初耳である。確かに、道中見かける人たちは全員が生身というわけではなく、片腕が機械化されていたり、両脚が義足になっている人々というのも珍しくなかった。
アイオライトはその逆パターンで、完全に生身にしか見えない身体に、機械の中身と人工的に作られた魂が宿っているということらしい。
あまりに急展開すぎて、灯里は混乱しっぱなしである。
「じゃあ、アオが宙賊に狙われてたりするのも、それが理由?」
「うむ。わしは機械と生命のちょうど中間に生まれた、現時点で唯一の存在じゃ。……少なくともこの近辺の宇宙ではな。ゆえに、その産業的・軍事的価値を嗅ぎ取った連中に追われているというわけじゃな。
……加えて言えば、わしの存在を欲する者は宙賊だけではない。正規の国家や企業体であっても、このことがバレればどんな手を使ってくるか、わからんということじゃ」
「なるほどね……。なんとなくは理解したよ。アオの中身は機密の塊、それを前にしたらみんな涎が出ちゃう、と」
「……わしを見捨てたくなったかや」
自嘲気味につぶやくアイオライトに、灯里は笑って見せた。
「ふふ、私がその程度で見捨てると思った? そのくらい大変な仕事の方が、日常にハリが出るってもんでしょ! 言ったよね、……私が、最後まで面倒見るって」
「……うむ。では改めて、よろしく頼む」
二日間を高級宿で過ごした二人は、整備ドックに戻ってきていた。
アイオライトにはいい休息になったようだし、灯里としても常識のすり合わせに時間を使えたので実りある休息期間となった。
「とりあえず、近所の宙域に居座ってるっていう宇宙魔物の討伐依頼を受けてみたよ。難度的には初心者向け、だって」
「ふむ、ぬしも慣れておいたほうがよいだろうし、良い選択じゃろう」
傭兵ギルドに提示された報酬は灯里からすれば取るに足らない金額ではあるが、どうせ宇宙魔物と戦いに行くなら傭兵ギルドと関係を深められたほうがいいだろうという判断である。
「さて……
『損傷していた電装系を含め、全機能問題なし。システムオールグリーンです。
「さすが、準備がいいね。じゃあ早速出発しようか」
パイロットスーツに着替えた二人は、シロに乗り込む。後部座席がアイオライトに合わせて先日より小さめに調整されているのは、シロなりの気遣いなのだろうか。
「積み込み物資、確認と。あとはドックを開放して……アオ、大丈夫そう?」
「うむ、こちらは問題ない。のうアカリよ、提案なのじゃが」
「どしたの?」
「シロと有線接続してもよいだろうか? 互いに利益があると思うのだが」
「有線接続って……アオ、そんなことできるの?」
聞きつつ振り返ると、アイオライトの左手首に小さな四角い穴が開いており、標準的な有線接続ポートになっているのがわかる。
「言ったじゃろ、わしは人工生体演算装置だと。接続すれば、わしはシロの戦闘データを得ることができるし、シロはわしの演算能力を間借りすることができる。どうじゃ」
「まあ……それでアオの役に立つなら、私はいいけど」
シロの戦闘データを学習してアイオライトの役に立つのかはわからなかったが、きっと演算装置なりの知識欲かなにかなのだろうと適当に納得した灯里。
「それではポートを一つ借りるぞ……と。よし、接続完了した。いつでも出てよいぞ」
「よーし、じゃああらためて行きますか!」
特に問題なく出港した灯里たちは、ワープドライブを使って件の出没宙域にやってきていた。
アイオライトが先に語った通り、このあたりの宙域は特に何のステーションがあるわけでもない、いわゆる空き地のような空間である。
特に目立つ資源衛星があるわけでもないので、人が寄り付かない場所である。
「静かだねえ……こんなとこに本当にいるんだか」
「まあ、言うても宇宙は広い。出会うときもあれば、出会えないときもあるじゃろうて」
「ま、そうなんだろうけど。……ん? あっち……何かいない?」
灯里の勘が右上方になんらかの存在を感知する。
「いや、まだセンサーには何も……む、反応が来た! ぬしの言う通りの方角、数は六。タイプは四足獣、スピードには注意せよ!」
「相手もスピード狂か……ちょうどいいじゃん!」
灯里はリボルバーマシンガンからエネルギー弾による牽制の弾幕を張りつつ、さらに加速。
初心者用の依頼だったのは本当のようで、特に考えなしに突っ込んできたらしき三体の魔物が弾幕にぶつかり、爆発。
残りの三体は偶然弾幕の間をすり抜けたようで、軌道はまっすぐ灯里狙いの猪突猛進である。
「たしかに、初心者ならテンパってもしょうがないかもだけど……ちょっと想像以下だなあ」
リボルバーマシンガンを収めた灯里は、エネルギーソードを両手に持ち、クイックブーストを吹かしつつ三回抜刀。
突っ込んできた魔物たちは吸い込まれたような軌道で刀身に吸い込まれ、赤黒い断面を見せながら爆発四散したのだった。
「これで終わり?」
「うむ、依頼文の通りじゃな。これでこのルートを使う輸送船も安心じゃろ」
「まあ、人間が乗ってるわけでもないから後腐れもないし、タイプによって動きも強さも違いそうで面白いかもね、宇宙魔物」
「本当に、色々な意味で危ないやつじゃな、ぬしは……」
「だから、褒めてもなんも出ないって……ん?」
灯里は少し機体をずらして、エネルギーソードを抜刀。
警告音が鳴ったあと、二発の銃弾が機体のそばを通り抜け、三発目はエネルギーソードの刀身によって蒸発する!
「この感触……こないだの賊と同じタイプのレールガン!」
射手の方角は弾丸からわかっても、その存在が隠蔽されており知覚できないのもこのあいだと同じである。
「宙賊退治したうえに儲かるから私はいいけど、もう少し平和にならないもんかねえ」
「なんというか、迷惑をかけるのう」
灯里は苦笑いしつつ、主推進機を起動した。
鬼神転移://例えば宇宙で彼女が彼女に出逢うだけの物語 @sen_matsuri
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