10://腹ごしらえ
「む、なかなかイケるのう」
「へー、ちゃんと美味しいじゃん。生き返ったあ……」
空腹を覚えていた二人は、ドックから近くにある赤色を基調とした内装の料理店に入っていた。
そこで提供されたのは汁のない麺料理で、パスタと担々麺の中間のような雰囲気であった。食べ方は自由なようで、各種調味料(中身は灯里にはわからない)が用意してあったり、食器にしてもフォークや箸、もっと複雑な謎の器具など選択肢は豊富に用意してあった。これも多種族の集まるステーションならではなのだろうか。
メニューには、星系名物・《バーター麺》とある。どの星系のどの民族の名物なのかはわかったものではない。
灯里は本当に美味しいのだろうかと思いながら注文したのだが、空腹に刺さるエキゾチックな香りも相まって美味しくいただくことができた。
「ひとまずご飯も食べられたし、あとは買い出しと、宿の確保かなあ」
灯里は道中で買った携帯端末をタップしつつ、地図を調べる。
操作感は灯里の知るスマートフォンより数世代先といった雰囲気で、非常に快適である。
「食料品は……航行用の保存食専門店がやっぱりあるんだね。じゃあそこは行ってみるとして、宿……、せっかくだし高級宿にでも泊まってみる?」
「ほう、そんなに贅沢のできる身分なのかや」
「まあ私達が女性だけってのもあるし、高級なほうがセキュリティ面でも安心じゃない? 値段的にも最上級を見なければそれほどでもなさそうだよ」
「ふむ、それは賢明な判断……ということになるのかの」
「あとは……そうだ、傭兵登録しなきゃいけないんだっけ」
「ああ、あの管理官がなんぞ言うておったな」
入港管理局で書類を書いていたとき、『このあたりで傭兵稼業をしたいなら傭兵登録が必要だから忘れずにしておけよ』と言われていたのだった。
登録自体は、ステーション内の行政区画のうち、傭兵関連を管理する傭兵ギルドで行うことができるようだ。
端末でギルドの位置を表示させ、マーク。すると自動的にこれから向かうポイントへの最適ルートを結んだ経路情報が表示された。
「じゃあ、ちょっと腹ごなしに歩くとしますか」
端末をタップして昼食代を払うと、二人は料理店をあとにした。
端末の案内通り、まず宇宙移動民御用達のスーパーマーケットに立ち寄った二人は、自分たちの好みのメニューを中心に好き勝手に食料を調達した。景色の変わらない宇宙空間では、食事はかなりのウェイトを占める娯楽である。そのため手を抜くわけにはいかなかったのだ。
そのマーケットには日用品なども売られており、灯里はキャンプの前のような気分で目についた商品を購入していったのだった。
その次に二人が訪れたのは、傭兵ギルド。
正当防衛を完全に証明できる場合を除き、戦闘をするためにはこういった戦闘系のギルドに所属しておく必要があるらしい。
機能としては、幅広い仕事の斡旋から新人教育、宙賊から奪った物資の買い取りなど多岐にわたる。
要は、傭兵仕事まわりの総合案内所といった雰囲気だ。
中に入ると、その雰囲気は役所に近いものであった。案内員が来訪者と対話し、それぞれのカウンターで取引を行っているのが見える。
その空気はあまりうるさくなく、すこしざわざわとしている程度である。
女性(しかもどちらも少女)二人組ということで多少の視線は感じつつも、特に問題なく登録カウンターに向かう二人。
前に何組か待っていたようだが、ほどなくして受付の順番を迎えた。
「傭兵登録を」
「はい、では駐留許可証と機体の設置ドック番号をご提出ください」
「えっと、じゃあこれで。番号は……」
どうやら、ドック番号がわかれば中の機体の情報が読み取れるよう連携してあるらしい。ある意味では覗かれているような気分にもなるが、宙賊だったりが存在している以上、この程度の透明性は仕方ないだろう。
「確認しました。メインパイロットはアカリ様、機体名はシロ、ヒューマノイドアーマータイプですね。メーカー情報がありませんが……」
「あー……ちょっといろいろありまして……」
「かしこまりました。必須情報ではありませんので大丈夫です。契約情報については、違反内容によっては権利剥奪の上再発行不可能といったものもありますので、端末のほうを一通り必ず御覧ください」
「りょ、了解しました」
具体的な違反内容をいくつか聞いてみたところ、『意図的なフレンドリーファイア』『敵組織への情報提供』といった裏切りに対するものがメインのようだった。
傭兵稼業は自由度が広い分、仕事中の不和は可能な限り無くしていこうという方向性らしい。
その内容に納得した灯里は、アイオライトを連れて依頼掲示板を眺めにきていた。
掲示板といってもファンタジー小説のように紙が壁に張り出されているようなものではなく、複数設置された専用の端末で一覧を検索、確認することができる。
外から端末で接続できないのはプライバシーに関わる仕事が多いためらしい。
「なんというか、結構想像通りというか。どこそこ宙域の宙賊討伐、資源の納品……、宇宙魔物の討伐? アオ、宇宙魔物って何?」
灯里の目は『宇宙魔物』という文字列で止まっていた。少なくともVoVには存在しなかった単語である。
「ん? ぬし、あれだけ戦闘慣れしておいて知らんのか。宇宙魔物の群れくらい、人類の勢力圏外とかでたまに見かけるじゃろ」
「群れ……?? そんなファンタジーな……」
灯里は端末の検索窓に『宇宙魔物』と入力する。
その検索結果に出てきた画像や映像は、有機物と無機物の融合体のような風貌だった。
あるものは獣のようなシルエットに鉱物を全身に生やし、あるものはロケットのような単純な形状をしているのだが、十数個の赤い目玉が輝いておりグロテスクな印象を受ける。
「この宇宙にはこんなのがいるのか……」
「宇宙魔物を知らんとは意外じゃったな。慣れるという意味でも、今度討伐依頼でも受けてみたらどうじゃ」
「そう、ねえ……」
依頼掲示板には、たしかに難度の高低の幅広い宇宙魔物の討伐依頼が掲載されている。
早くもVoVの宇宙との大きな違いに触れて、慄いてしまった灯里であった。
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