人の家で西部警察をやる奴は炎熱地獄へ連れ行くぞ

 さて、と、長兄ローマン、次兄コンスタンティン、三男アレキサンドリアは向き直った。

 五つ子である彼らの末弟、四男は参加していない。

「何ともはや! 今回ばかりは全員怒っていい!!」

 一番イライラしていたのは、ローマンだった。それを聞いて、残る二人は、少しバツが悪そうだ。

「何事にも時がある、とは確かにシラ書に書かれている。だが少なくとも人を模した以上には、俺達にも限度がある!」

「本題に入ろうよ、兄上様。東方教会僕たちも一枚岩じゃないんだよ。」

 そう言って、コンスタンティンはアレキサンドリアと目を合わせた。

「とりあえず、だ。西方教会俺のところは目下、。先生の写真を使って無断加工やりたい放題だ。まあ、ここ日本だし、ある程度は仕方ない。だがこればかりは、俺たちが信仰そのもの俺たちである為にも、譲ってはならない。」

「確かにそうです。ローマン兄上の仰る通り。信仰のあるところ、遍く存在する私たちが、今こそ本気を出すべきです。」

 一人だけ色黒のアレキサンドリアが大きく頷く。

「とはいえ、だ。実際のところ、資本主義の闇が作り出したものは大きい。からな。」

「…『プロテスタンティズムと資本主義の倫理』。」

「あれは理想論だから。」

 ぐぅの音も出ない。

「で、だ。俺としては勿論弟達のことが気がかりで仕方ない。だが、。」

 というわけで、と、ローマンは数枚のシートを取り出した。

「ん?」

「これは? なんですか? ローマン兄上。花が描かれているようですが。」

「お前らの家にも時々遊びに行っている、俺のところにいるのこと覚えてる?」

 すぐにピンと来た。

「ああ、饗すと全力で饗されてくれる彼女たち?」

「ふきょうのためって、とても熱心ですよね。私のところにも来たいようです。」

 実際のところを知っているローマンは何も言えない。

「で、そいつらが駆けずり回って、東方教会お前らに間に合うものを作ったんだよ。それがコレ。ちなみに俺の本棚の隣に、本棚より高く積み上がってる。」

「すごい量作ったね!? これ相当高いでしょ!?」

「元々業務用だからな。特別なレストランやカフェで使うらしい。」

「大丈夫ですか? 彼女たちは普通の人間です。ただちょっと、ますが。」

「ああ、それは大丈夫。これな、注文したやつの半分だから。もう半分使うやつが費用出してくれたんだよ。」

「これ、あるけど、大丈夫なの?」

「ないない、の実家とは全く教義かんがえかたが違うしな。何より俺の聴聞ちょうもん司祭ならぬ、聴聞僧侶が作ったんだ。日本は4月に花祭りっていう、シッダールタの誕生日があるんだよ。それに託つけて、一緒に作ってもらったらしい。」

 その二人は多分、このイラストを描きはしたのだろあが、おそらく一銭も出していないだろう。少なくとも二人を饗したことのあるコンスタンティンはそう思った。興味の赴くままに、リスクもタブーもマナーも蹴っ飛ばして、そして元に戻して綺麗にするスタイルだからだ。

「んで、だ。俺が仮に止めても、あいつらは何とかして絶対これを届けようとするぞ。」

「止めよう。」

 二人の声が重なった。人の身に余りすぎる。

「と言うわけで、お前らをとりあえず呼んだわけよ。アリ? ナシ?」

「…そういうのって、普通作る前に聞きませんか?」

「うん、俺もそう思う。」

「彼女たちらしいね。その、なんというか、その辺が。」

 正直ローマンも、このフィルムの束、いや、箱を貰ったときには面食らった。事情を説明している間、途切れることなく運び込まれてきたからだ。

「あ、でもこれ、のところでも使えるの?」

「使えるはずだぜ。セルロースだから。ゴボウと一緒。」

「さすがですね、抜け目ない。では、伯父上のところでも?」

「無論だ。」

「…なんであの子達、無力な人間に産まれたの???」

 コンスタンティンの素朴な疑問に、残り二人は指を指して同意した。

「まあ、ほら。弱いものが強くされるからじゃないか? 知らんけど。」

「ま、まあ、彼女たちはいいとして…。本当に問題として、どうやって持ってくんですか? 全員、今呼んでいる暇も呼ぶことも、思いつかない程ですよ。」

「親父にも聞いたんだけど、親父が行ける条件が揃っていないらしい。」

「そしたらお手上げじゃないですか。」

「いや、以外な抜け道があった。」

「さすが矢追町。」

 引っ越してきたばかりのアレキサンドリアは、この信仰の坩堝に恐怖した。

「要するに、だ。あそこは政治屋の領域になっていて、どうしようもない。信仰俺たちも、それぞれ呼ばれてないからいけない。なら、。」

 正直、ローマンたちから見れば、政治屋なぞ碌なものではなく、そしてどうしようもなく愛おしい信者仲間である。アラヒトカミ? と、顔を見合わせていると、どこからか鈴の音が聞こえた。慌ててローマンが立ち上がり、扉を開ける。

「申し訳ない、言い出すのが少し…。」

 何か話し声が聞こえる。なのは分かるが、感じたことのない気配だ。

 ローマンが戻ってくると、ちりん、ちりん、と、優雅な足音がした。なんとなく二人は、姿勢を正す。白い神職の和装に、烏帽子のような髪の結い方をした、子供だった。

「ふむ、ぬしらがローマンの弟とやらか。そちらの天色そらいろの御仁、名はなんというのじゃ?」

 コンスタンティンはいきなり指名されたことに驚き、戸惑いつつも答えた。

「コンスタンティン・カトリックです。」

「ふむ。コンスタンティンとはどのような意味じゃ?」

「不変、という意味ですが…。」

 なぜそんなことを、と言う前に、子供はうむうむ、と、頷いた。

カトリックあまねく全てにある不変なるもの、それがぬしか。真に良い名じゃ。」

「は、はぁ…。」

「さて、そちらの鈍色の御仁。名はなんというのじゃ?」

「あ、私はアレキサンドリア・カトリックと申します。い、意味は…アレキサンドリアの元々の意味は、戦士の守護者、です。」

「ほう! カトリックあまねく全ての防人たちの要、それがぬしか。真に当世に必要な名であるな。真に良い名じゃ。」

 元々アレキサンドリア三世の駐屯地だったから付けられた名前だったが、お気に召されたようだ。

 さて、と、子供はふっくらと笑って言った。

「わしは礼和あやにぎみ神褻あやなれ。元は矢追神社におったのじゃがな。ちとので、急拵えの体に、ぬしらの兄がわしに名付けてくれてのう。礼儀、平和、そして俗の中のカミと、実に労を割いてくれたのじゃ。とても良い名付けであろう? あとでぬしらの兄を労うがよい。」

 ぷいっとローマンが顔を背けた。さて、と、礼和は言った。

「この荷物を、政の戦場に届ければよいのじゃな?」

「え、あの、しかし…。」

 同族なだけあって、小さな見かけとは裏腹に、ひょいひょいと荷物を積み上げて持ち上げる。

「矢追神社にいたということは、?」

「ふぁっふぁっふぁ。如何にも「神」の言いそうな事じゃ。よきこと、よきこと。しかしの、わしはそも、なのよ。故に、まつりがある場であれば、どこでも現れることができる。…まぁ、導いたり何だりは出来ぬ故な。わしが出来るのは、導き手を連れてくることだけじゃ。」

 では行ってくる、と、眼の前が全く見えないどころか、立っているのも難しそうな量の荷物をバランスよく持ち、礼和は行ってしまった。


 今はその身朽ちるとも、父祖の喜びを伝え祝う花と共によみがえれ。

 天罰を過ぎ越された恵みを祝う祭りににがなを。

 復活の約束を見た記憶を繰り返す祭りにフィルムを。

 節制により磨かれた魂が食すスープの上に可食フィルムを。

 彼方より此方へ、彼岸より此岸へ、揺らめく命よ、永遠の花園に行ってはならぬ。

 朽ちゆく命とともに、その命を愛する者達と生きてゆけ。


 あめくがと あふみのはざまに

 ひかなるものより とほかみたまふ あゑかなるもの

 いやさかましませ まかるがへすとも

 ―――われは、やちよにねぐ なれのかむがたりなば

 なれのひとよがおもわぬことさらでは なほねがいぬ

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Alleluia MOEluia BLuia!〜イテ・ミサ・エスト2 PAULA0125 @paula0125

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