The Surly Woman
金魚と猫とビックマック
引間 涼
その床に寝ていた女はそうだ、あのいつも行くマックの店員だ。
俺は視線を少し下に向ける。俺の目にDカップの胸で膨らんだローゲージのニットが飛び込んできた。
女は俺を怪訝そうな目で見ている。
俺がしばらくそのまま固まっていると。しばらく喚き散らしていた水谷がやっと落ち着いて、こちらに歩いてきた。俺は何か妙な違和感を感じる。
「君は誰かに殺されそうになったんだ」
水谷がそういうと、女は何か納得したようにそれ頷いた。
そして俺も思い出した。
そうだ、俺たちは事件の捜査をしていたんだった。何か靄がかかったように、俺は事態をよく整理できずにいた。
その様子を見ていた水谷は何か思案して手を顎に当てて言う。
「一度事務所に帰ることにしよう」
俺はマック店員を立たせようと脇に手を当てた。体は冷たく小刻みに震えていた。
「事務所に戻って体を温めた方がいい」
俺が水谷の方を見てそう言うとマック店員は俺を少し見上げると、促されるままに立ち上がった。
俺たちは無言のまま事務所まで車を走らせた。大して時間は経ってないのに、街のネオンが見えてくると妙に懐かしさを感じた。
後ろを振り返ると女は、窓の外を眺めている。車の中は暖房がガンガンに効いていたから、寒くはないと思う。水谷はずっと何も喋らない。怪我をしていないか聞いた方がいいんじゃないか?俺はそう考えたが見る限りどこも怪我はしていないように思える。
じゃあわざわざそんなことを聞くのも変だろうか?結局俺たちは何も言わないまま事務所から少し離れた立体駐車場に着いた。
俺は後部座席のドアを開けて言った。
「着きましたよ」
俺はなるべく紳士的に振る舞おうと敬語を使うが、訝しげな目つきが俺を敵視しているのが伝わってくる。
女は少し警戒した様子で、こちらを見ると車を降りた後少し距離をとって言った。
「あなたたちは誰なんですか?」
俺はそう言われて、少し傷つく。
まあそりゃそうだよな、覚えてないよな。
店員側は何百人って客を相手にするが、客からしたら店員は一人だからな。だが覚えていたとしてなんなんだ?俺はなんでこんなことで傷つくのか。
「私たちは探偵だよ」
水谷が運転席から降りてきて言う。そして名刺を取り出して女に渡す。俺に渡したものではない、堅い感じのやつだ。
「しばらく君を警護させてもらう。とりあえず中で話そう」
水谷が有無を言わさないようにそう言った。
事務所に帰りつくと、水谷が石油ストーブに火を入れる。
俺は水谷に頼まれてお茶を淹れる。
その間水谷は女にいくつか質問し、健康状態を確認していた。
そうして大丈夫そうだと判断して言う。
「今日は君はここに泊まるといい、明日少し聞きたいことがある。」
俺は明日バイトがあったので、始発まで水谷の車で仮眠してから家に帰った。
四谷 美春
なんだか頭がぼうっとしていた。
私はなんでここにいるんだろう?どこかの倉庫だろうか?剥き出しの鉄骨に、白い光が反射している。
美恵と別れてからどうしたんだっけ?
ひどく寒くて体が小刻みに震えていた。嫌な感じだ。
見覚えのある男が私の顔を覗き込んだ。そのどこか虚な眼差しには見覚えがあった。なんだろう大して重要じゃない記憶だ。
それからその瞳が、私の胸元に動く動きで私は思い出す。
シャカポテだ。
これはは夢なんだろうか?夢だったらもう少し寝たい気分だ。
だけどこの凍えるような寒さは現実的な感じがする。
「君は殺されそうになったんだよ」
後ろにいた男が私にそういった。メガネの金具だけが少し光って見える以外は真っ暗でよくわからない。
そうだ、そうだった。
私は殺されそうになったんだ。
それから私は、車に乗せられた。すごく古い車だ。
少し非現実的な感じがする。やっぱりこれ夢なのかな?
車は夜中の空いた道路を走っている。他の車といえばたまに大型トラックが過ぎ去るくらいだった。
だんだんと都心に入ってくると、人がまばらに見えてくる。
深夜の道路工事の警備員とその赤色灯が見える。たくさんの車とネオンが忙しく煌めいて、ざわめきが聞こえてくる。
そのリアリティに私はやっとこれが夢じゃないという確信めいた感覚を持つことができる。
見覚えのある街並み、新宿だ。
車は立体駐車場に入って行く。そしてくるくると螺旋状に登って行った。
これが現実だという感覚が戻ってくると私は一気に不安に襲われた。
私は殺されそうになった。
それは分かる。根拠はないけどその信憑性に揺らぎはなかった。
しかし彼らは一体なんなのか?
メガネの男は警察官にも見えなくはないけど、シャカポテは明らかにそんな感じではない。どちらかという捕まる方のイメージだ。
私は以前にシャカポテがデスゲームに参加する妄想をしていたのを思い出した。
何か犯罪に巻き込まれてしまったのかもしれない。
それとも私に何かするつもりなのかもしれない。
そうだとしたらドアを開けて逃げた方がいいかもしれない。
そう考えていたが決心が決まらないうちに車は目的について狭いパーキングスペースに綺麗に収まった。車が止まると、シャカポテが狭い隙間から不器用に降りて、また、不器用に後部座席のドアを開けた。
「着きましたよ」
そう言われても、ちょこっと空いたドアからでは私もスムーズには出られない。
ものすごい手際が悪い。
私は狭いスペースから出ると少し距離をとって少し強い口調で言った。
「まずあなたたち誰なんですか?」
「ここはどこですか?」
ショックを受けたような顔で狼狽するシャカぽて。何かやましいことがあるのだろうか?
「私たちは探偵だよ」
後ろから野太い声でメガネの男が言った。
そして胸ポケットから名刺を出した。
その白い名刺はシンプルに文字だけが書かれていた。
日本調査業協会加盟事業者
水谷探偵事務所代表
水谷 美弘
私はそれをおずおずと受け取る。
「しばらく君を警護させてもらうことになる。まあとりあえず中で話そう」
そう言われるとなぜか抗い難くなり、私は彼らに言われるがまま雑居ビルの一室に入って行った。
引間 涼
翌日俺は年末の有楽町の某ブラックチェーン店でウェイターの臨時雇をしていた。
忘年会シーズンの時だけの臨時雇で時給は1350円だった。
倉庫系の方が若干時給が高い、それに基本的に俺はあまり人と仕事して上手く行った試しがない。
なんでこんな仕事をしているかといえば、ついこないだ水谷との約束をすっぽかそうとした時に大量のバイトを入れて、その中の一つがこれだったからだ。
俺たちはホールに円を描くようにならばされた。俺含めて三人いた臨時雇にはなんの説明もなく、社訓と接客用語の唱和が始まる。
俺はよくわからないから、とりあえず口をぱくぱくさせて合わせる。
リーダー社員みたいなやつが今日の目標を読み始める。浅黒い色をした金魚みたいな顔のやつだ。体格はがっしりして頭は胴体にめり込んでるのに180センチくらいある。歳は25、6だろうか?
そしてその金魚はその日の目標を滑舌悪く読み終わると真っ先に俺を見た。
そして口をへの字にして言った。
「ん〜、なんかおまえ私服っぽいな〜、私服っぽいんだよな〜」
俺たちは、事前に黒いズボンと白いシャツを着てこいと言われていた。
だから俺は家にあったギャップの黒パンツと白シャツを着ていた。
黒パンツは膝のところが少し白っぽく汚れていたし、シャツにはハンディスチーマーでは取りきれなかったシワが残っていたが、それでも黒いズボンに白いシャツだ。
だがそれがなんか他の臨時の二人と違って、私服っぽく見えるらしい。
そりゃそうだろ、なんも支給されてない俺の私服なんだから、私服っぽいのは当たり前だろ。
他の二人の臨時バイトはなんか制服の下ズボン見たいな黒いスラックスに、形状記憶がついてそうな白いボリエステルのシャツを着ていた。こいつら二人はわざわざこのために買ったのか?ってくらい他の連中に馴染んでいた。
「いやー、これしか持ってなかったんで」
俺が苦笑いしながらそう答えると、どうやらその金魚は俺のことをいじりキャラ認定されたようでさらに調子に乗って言う。
「なーんか、見窄らしいしな。」
そして少し間を空けて付け加えた
「顔も」
レギュラーのバイトどもがどっと笑った。
なんだろうなこいつらって俺のどこを見てこういう認定を行うんだろうな?俺の額に『バカにしてもいい人間です』とでも書かれているんだろうか?
まあこんな事はよくある事だ、嫌なことがあると良いこともあるというが、ここ最近のガブリエル関連の嫌なことがあっても、別に俺に起こる普段の理不尽の度合いは変わらない。つまり残念なことに、嫌なこと理不尽なことの総量が一定である法則なんかないんだ。
ただもっと最低なことがあれば他の理不尽がそれほど気にならなくなるってだけで。
店は昼からの営業で俺たちは17時出勤だった。そして、19時頃になると、忘年会の客が増え始めて店は増員されたホールでも回らないほど忙しくなった。
そんな時だ。一人の猫みたいな顔の女バイトが愚痴を言いながら金魚に何か言っていた。
俺はそれをもうすぐ出来上がりそうなチーズ明太餃子が厨房から上がってくるの待ちながらぼーっと見ていた、するとふと金魚がこっちを見て俺と目が合った。
「おーいそこの私服君」
金魚がすぐさま俺に声をかける。全員が俺を見る。もう聞こえなかったふりはできそうにない。
嫌な予感がする。
しかし金魚は俺から目を離さずに、早く来いと言わんばかりに威圧的に手招きしながら言う。
「駆け足!」
「なんですか?」
俺はお印ほどに走ってみせて近づきながら言った。
金魚がわざとらしく笑顔を作っていう。なんていうのかなこう言う顔。あのニコッと笑いながらわかってるよなみたいな圧力をかけてくる顔だ。
「いやーちょっとなー西川ちゃんが変な卓で絡まれちゃってさ」
「そういう卓に女の子を行かせるわけには行かないだろ?」
「そう思わないか?」
俺は適当に答える
「はあ、まあ…」
そうすると金魚がすかさず言う。
「お前今日、その席の担当な!」
そして何が面白いのかギャハハハっと笑った。
なんで俺なんだよ?
我慢すれば我慢するほど、なんかこういう苦役って我慢したやつに回ってくるんだよな。
こいつはある程度強いから叩いても大丈夫みたいな感じで。
それで俺はその面倒臭いテーブルの給仕をやる感じになってしまった。最悪だ。こんな安い店に来るような客層は下の下だろう。
俺は諦めて、西川ちゃんこと猫娘の取ってきたオーダーを厨房で受けてそのクソ客の席に向かった。どうせ一日の臨時だ。細かいことは気にすんな。
座敷席の襖を開けると、まだ若い大学生くらいの集団だった。スポーツマンらしく全員ガタイがいい。こう言う若い酔っ払いタイプか…まあ男には絡んでこないだろう。
「失礼します。」
そう言うとお盆をテーブルの角に引っ掛けて給仕を始めた
俺が唐揚げを置いた瞬間
「お、おーーーーーーー!っお前引間じゃねーか!っ」
「ぎゃはははははははははハハハハハッハアッハ」
でっかいバカみたいな笑声が響き渡る。
その聞き覚えのある笑い声の主をみて俺は少しギョッとする。
那須だ。
那須は高校の同級生だ。
こいつは昔から人の言われたら嫌なことを掘り当てて指摘するのが得意だった。
その能力のおかげで、本人は大したことないのに、高校時代も中心的な位置にいて
いつも面白おかしく他人をこき下ろしていた。そして、そしていじりやすそうなやつを対象にする。
そしてそれがほとんどの場合俺だった。おかげで俺は高校時代同級生全員から一格下みたいにずっと扱われていた。いじめまではいかないいじりみたいな感じだ。
そのあと俺はクラスが分かれたが、こいつはサッカー推薦でそこそこの大学に入ったらしい。どうも今日はそのサッカー部の飲み会みたいだ。
那須はジャブがてら俺の容姿をバカにしてくる。
「おっおっ 店員さんザブングルの加藤じゃないですか?」
俺がノリで合わせるとでも思ったのだろうか?
「すみません、仕事中なので」
そういうノリには乗らないという意味で。俺はキッパリという。給仕の度にこんなテンションで絡まれたら面倒臭いことこの上ない。
こういう言い方をすれば、多少は社会常識を思い出すだろうと思ったが、那須はそんな分別はわきまえていなかった。
「何言ってんだ?引間のくせに?」
那須はオラつきモードに入る。自分の思い通りにいかなかったバツの悪さを勢いでどうにかしようとする。大分酔ってるのか?
俺は酒をほとんど飲んだことがなかったから、酔っ払いってのがどう言うものなのかわからない。俺は面倒くさいことになる前にその場から去ろうとする。
「じゃあ仕事があるんで」
しかし那須はそれを許さない。
「だいたいお前なんだよ、その態度は?引間のくせによ」
執拗に絡んでくる。
「お前酔いすぎだろ」
俺はそういってその場を離れようとした時、俺の近くにいた客の一人が俺の襟を持って引っ張る。
顔の近くに引き寄せてきてその茶髪のあばた面は言った。
「那須さんがまだ話してんだろうがー」
那須の後輩なら年下か?なんだコイツ?
那須はまだしも、なんで俺はこんな見ず知らずのやつにまでこんな扱いを受けなけりゃならないんだ?
俺は急に腹が立ってきた。この異様な空間での俺の扱いが、そのまま世間での自分の扱いの縮図のように思えてくる。
そして那須が俺の顔を見て言った。
「引間のくせに抵抗するなよ」
なんだよさっきから引間のくせにって?まるで俺が生まれながらに価値がないみたいじゃないか?そう言われていると考えると、その時の那須のアホ面とその時の空気と、襟首をもたれた情けない格好の俺と、そういうものが全部合わさって、何か全てが腹立たしくて、そして俺はそれを抑えられなくなった。
なんだろう今までこんなことはなかったのに、沈み込んでた何かがいきなり溢れ出て、表と裏がそのままひっくり返ったような感覚だ。
「何様だよお前」
そう言ったつもりだったがうまく喋れてるかわからない、俺はテーブルに飛び乗って、そのまま那須に覆い被さるように襲いかかる。ビールジョッキが割れる音がして、気がつけば俺は那須に馬乗りになってその顔を殴りつけていた。
俺は金魚に腕を掴まれて犯罪者のように従業員の控室に連行された。
しばらくの間そこで待たされた後に、ガタイのいい従業員二人と一緒に金魚が入ってきた。
そして開口一番金魚が俺に怒鳴り散らした。
「何やってくれてんだテメェコラァ!」
「お前どう責任とってくれんだよ!」
俺は黙っていた。俯いて自分の手を見ると、那須の歯で自分の手が切れて血が出ていた。
それからどれだけ他の従業員の迷惑になっているかとか、お前みたいな奴を雇ったせいでどれだけ店が損益を被ったかって話を延々と聞かされた。
そしてその後に那須のところへ連れて行かれて謝らさせられた。
その頃には那須たちの酔いも覚めたようで、那須は何か俺を危ない奴を見るような目で見つめていた。
そして最後に金魚が俺を軽蔑の目で見て言った。
「お前。終わってんな」
最終的に今回のことは全て俺個人の責任だという旨、店が損害賠償を請求された時に俺が全責任を追うという旨の念書を書かされて俺は解放された。
店から出ると俺は早足に歩きながら考えた。俺は何をやってるんだ?
道路脇のゴミ捨て場からは生ゴミの匂いがする。
何か一線を超えてしまったような気がする。金魚や那須の異常者を見るような目つきが鮮明に頭に残っている。
そして急に心細くなる。今日のことは当然連絡がいくだろう。そうしたらそういう情報が共有されて俺はこの世界から弾かれてしまうんじゃないだろうか?
俺は金魚が言った「終わってんな」っていうセリフを思い出す。
飲屋街から外れて、オフィス街に入ったところで、ふとマクドナルドの看板が目に入った。
俺はそこに吸い込まれるように入っていく。
何かが足りなくて耐えられなかった、だけど何で満たせばいいのかわからない。とにかく何か食べようと思った。ここのところ胃がただれてひどく痛かったが今日はそんなことはどうでも良かった。
俺は100円引きキャンペーン中のビックマックのセットを3セットそしてチーズバーガーとハッシュポテトを5個ずつ単品で注文する。
忘年会シーズンのためか店内は空いていた。端の席が空いていたので俺は階段の裏の小さいテーブル席に座った。
バットをテーブルに置くと、俺は斜めがけにしたポーターのカバンからブレキアーズのデスソースを取り出した。一番辛い青いラベルのやつだ。もう残り少なくなっている。
俺はビッグマックの包みを開けて上からデスソースをかける。今日はもう味なんてどうでも良かった。とにかく刺激があって、炭水化物と油と肉とカロリーがあればいい。
それをとにかくたらふく食べたい、もう食べられなくなるくらいまで食べたい。
なんでこんなことになったんだ?考え始めると一応、自分のやったことに対して脳みそがもっともらしい理由を探し出そうとする。しかしそれが成功しようと、難航しようと結局は鬱々しい気分になる。俺はそれをかき消すようにビックマックに齧り付いた。
辛さが俺の思考を麻痺させる。
炭水化物と塩分が脳に染み渡って血糖値が急速に上がっていく感じがする。
俺は無我夢中で齧り付いて、そしてそれをろくに噛まずに喉の奥にねじ込んでいく。
速攻で一つ目のビッグマックを食べ終えて、もう一つの包みを開けようと手を伸ばした時向かいの席に白い女が座っているのに俺はようやく気がついた。
胃がキリキリと痛み出した。
俺は少し前までなんとか事態に対処できるような気がしていた。水谷という銃を認識できる人間に合って協力をとりつけ、殺人を一度食い止めた。
しかし今、こいつを目の前にするとそんなことは、大河に小石を放り込むような些細なことで、いずれ川はもっと大きくなってそして俺は悪あがき虚しく流されて、薄暗いダムの底にただ吸い込まれていくだけの運命なんじゃないだろうか?そんな気分になってくる。
白い手が静かに俺のビックマックを払いのけて銃をテーブルに置いた。
銃口はこちらに向いている。
「引間 秋平を殺してほしい」
ガブリエルのその言葉を聞いてまた胃がキリキリと痛み出した。今度は腸の辺りまで腹部全体がねじれるように痛み出す。
俺はだんだん深い地獄の底に少しずつ引きずられていっている最中で、今日の事もその前兆なんじゃないだろうか?
俺はあんなことで暴力を振るうような男ではなかったはずだ?嫌味や皮肉の一つでも返してやればよかったんじゃないか?いつもだったらそうするだろ?
いや本当はそういう人間だったのか?
だから罪人なのか?
いずれにせよ死か殺人か、そういう禍々しいものに近づいていっているような気がする。
俺のやっていることはそれをダラダラと遅らせているだけで、いずれは引き金を引かなくてはならないのだ。
俺は拳銃に手を伸ばす、そこでガブリエルは消えていた。
しかし俺はその銃に触れた時に気がついた。何か妙な感覚がする。
なんだこの感覚、何か今まで経験した感覚に似ている。
ブレキアーズラベルが目に入った。青地に炎が揺らめいてその中にある骸骨の頭の目は土星と星になっている。そのポップなイラストを見つめながら俺はしばし考える。
そうだ!これはアレだ。
水谷との約束をすっぽかした時のあの感覚、認知バイアスってやつだ。
つまりこのガブリエルも消えるように去る時に認知バイアスを使ってるってことなんじゃないか?
俺は自分がすごくいいアイデアを思いついたんじゃないかという気がしてくる。
そうだ!もしガブリエルが認知バイアスで消えているなら、水谷に尾行して貰えばこいつの正体が分かるんじゃないだろうか?
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