オリジナルチキンボックスと四次元人

引間 涼


 警察署を出る頃には辺りは暗くなり始めていた。秋の冷たい風が腫れた頬を撫でると、チクチクと痛んだ。殴られて倍くらいに腫れ上がった頬は今まで興奮状態から麻痺していたが、安堵と共に痛み出した。それに脇腹もひどく痛んだ。肋骨が折れている可能性があると事情聴取をした警官が言っていた。そしてこの痛みはこれからもっとひどく痛むだろう。そんな痛みだった。

 病院には明日いこう。今はとにかく落ち着きたかった。日が沈みかけたグレーの街並の中にオレンジ色に染められたケンタッキーの赤い看板が浮かんでいる。


 俺はそこに引き寄せられるように店内に入った。ありがたいことに都心部の店舗にしては人はまばらですいていた。正面の大きなメニューの書かれた電気パネルを見るていると安堵のためか空腹感が襲ってきた。俺は少し迷った後に、オリジナルチキンボックスとバジルレモンツイスターを単品で注文した。

 ダイナーをモダンにしたような店内の壁にはポップアートにアレンジされたカーネルサンダースのパネルがあつらえられている。

 俺は奥の壁面に備え付けになっている黒いソファ席に座った。店内にはほとんど雑音にかき消されそうな音量で有線のカントリーが流れている。


 さあトリップの時間だ。俺はいつものフラストレーションを解消するための儀式を始めた。

 まず、前菜としてビスケットからいただこうか。ケンタッキーといえばこのビスケットだ。

 俺はまずビスケットを取り出して二つに割いた。

 そしてそこに慎重に全体に満遍なく行き渡るようにハニーメープルシロップをかけた。

 そしてカバンの中から常備しているパルスイートを2本取り出してそいつらにたっぷりと振りかけた。人口甘味料ってやつだ。

 その小さな白い砂粒が全て黄金色のハニーメープルシロップの中に溶けて消えるのを確認すると俺はそれにかぶりついた。

 溶けるような甘さになったハニーメープルシロップの甘みが疲れた脳に染み渡った。

 最高だ!

 砂糖の3倍の甘さのパルスイートで欧米の甘ったるいチョコレートのような甘さになったハニーメープルシロップ。

 そこにサクサクのスコーンみたいなビスケットの食感!

 最高だ!

 あっという間に2切れに分けられたビスケットは口の中で溶けて無くなった。

 まだ甘さが欲しい気分だがそれをグッと我慢して気持ちを切り替える。

 そしてチキンナゲットに取り掛かる。

 ケンタッキーのチキンは骨付きに限ると俺は思っている。だが、当たり前だが骨付きの難点は骨があって食べにくいことだ。

 それでも俺が骨付きが好きな理由は単純に超絶うまいからだ。

 ケンタッキーののフライドチキンは骨付きと骨なしじゃ使っている部位が異なるので、骨なしだとどうしてもささみなんかのあっさりした部位になってしまう。

 そして、ケンタッキーは普通の揚げ方じゃなくて圧力を使って揚げているので、鳥の旨みがクリスピーの中に凝縮されるんだが、その時に骨付きの方が骨から旨みが出て圧倒的に超絶うまくなるのだ。


 じゃあまずはリブからいただこうか。 

 俺は、この骨付きクリスピーにぴったりな緑色のハラペーニョソースを取り出して振りかけた。タバスコの酸味の効いた辛さとチキンのうまみと共にカリカリのクリスピーを齧ると、中から旨みの凝縮された熱々の肉汁が溢れ出す。

 最高だ!

 これだよこれ!

 これぞジャンクフードって感じの中毒性のある味わいだ!


 夢中になって素手で残りのチキンナゲットを貪り食っていると舌を思いっきり噛んだ。

 痛ってえええっ!!!


 あまりの激痛に思わず怒りが込み上げてくる。

 自分が悪いにも関わらずだ。

 急に手に持った骨付きのナゲットが憎たらしくなってくる。

 こんな食いにくくなけりゃ舌を噛むことなんてなかったのに!

 とりあえずこの事故の戦犯をナゲットの骨に決定して俺は落ち着きを取り戻す。

 痛みに顔をゆがめながら口を拭うと手に結構な量の血がついていた。

 口の中いっぱいに血の味が広がる。

 台無しだ!

 一体どれくらいの強さで噛んだのか?舌がちぎれていないか洗面所で確認しようとして席を立とうとしたその時、俺はようやく気がついた。

 向かいの椅子に誰かが座っている


 よくよく考えれば確かにこれは予想できた事だ。前回の現れ方を考えれば、こうやってまた現れることだってありうるだろう。だが嫌なタイミングだった。誰だって満身創痍でこんな訳のわからない現象に遭遇したくないはずだ。


 そして現在までの経緯で、俺はこの女が幻覚ではないことを知っていた。確かにあの銃はただの銃ではなかったが俺の予想は全て外れていた。教室で俺が取り押さえられた後も、誰一人あの銃に気がつくことも、それを拾い上げることはなかった。

 そして結果だけを認識していて、誰も俺が何をやったのかはわかっていなかった。そう俺を取り押さえたあの男はしきりに『あいつが何かやった』と到着した警察官に話していたが具体的に何をやったのかは何一つ説明することができなかったのだ。

 そして奇妙な力はその後俺が警察に連行されてからも働いた。警察署に連れて行かれて、警察が俺を取り調べているとき、突然警察の上層部からの指示が入って俺はお咎めなしで釈放されたのだ。この場合『因果関係に作用しない』と言えるのだろうか?

 それは神秘的な何かの力というよりも、権力による揉み消しに近いイメージだった。もしかしたら俺たちが神秘的だと思っているような全てのことは蓋を開ければこんなものなのかもしれない。


 俺の心臓の鼓動は早くなっていた。女の指示に従わずに、勝手な実験を行った俺に対してなんらかのペナルティを与えにきたのか?俺は警戒しながら食べかけのチキンナゲットを手に持ったまま静止していた。なんとなくそうしていたら、事がこのまま進まないような気がしたからだ。


 しかし俺のそんな幼稚な幻想は打ち砕かれ、女は相変わらず奇妙な動きで見覚えのある動作を繰り返した。またゴトリという音がして、テーブルに黒い塊が置かれた。そう、あのベレッタだ。

 そして自動音声のような喋り方で言った。


 「お前の兄を殺してほしい」


 ガブリエルの無機質な声にも関わらず、そこに並々ならぬ執念のようなものを感じる。置かれたそのベレッタの銃口はこちらに向いている。


 吐き気が込み上げてきた。口の中に残った辛いはずのナゲット達は、粘土を噛んでいるみたいに味がしない。ただ口の中に溢れくる自分の血の生臭さだけが感じられた。ふっと気怠さが襲ってきて、コイツを無視してすぐにここから立ち去りたいと思った。

 しかしもしそうしたら状況はもっとひどくなるような予感がして、その不吉な予感が俺をソファに釘付けにしている。

 俺はなんとか声を発した。コイツがこの銃を置いて立ち去る前に聞いておきたいと思っていた事があったのだ。

 なんとか声を発したが、その声はひどいものだった。本当に発する事以外の全てが欠落していた。低く、ぶっきらぼうで、滑舌は悪かった。


 「なんで俺が兄貴を殺さなければならないんだ?」


 ガブリエルは黙って俺を見返した。相変わらず、眼球は明後日の方向を向いているにも関わらず、俺は観察されていると感じる。奇妙な視線だ。


 「お前の兄は、時空間の法則を破り殺人を犯している」

「だから私は四次元からその歪みを是正するために働いている」


 四次元?四次元だって?あの四次元ポケットの四次元?もしこれがSF小説なら主人公はポップに驚くのだろうか?しかし数多のSF小説にあるような夢も希望もそこには感じることはできなかった。ただただ張り付いたような緊張と不安、そう自分がずっと目を背けてきた暗闇を引きずり出されるような緊張と不安だけがそこにはあった。

 それに現実に実の兄が殺人を犯していると告げられたらどうだ?俺と兄との曲がりなりにも綺麗な部分があった記憶に、真っ黒いタールが塗りつけられたみたいな気分だ。

 だけどそれでも兄が実際に殺人を犯しているのかということに関して俺はなぜか全く考えようとしなかった。そのことを考えるのが億劫だったから俺の精神が考えるのを拒絶したのかもしれない。

 それよりも自分の義務の方にしか注意が働かなかった。自分勝手な判断だと思うが、結局人間は自分のことで精一杯でそれが解決されない限り、他人のことを考える余裕なんてない。そうだろう?



 「なんで俺なんだ?」


 ガブリエルはまたジッと俺を数秒観察した。


 「お前が罪人だからだ」

 「そう決められたからだ」


 二つの言葉が並列的に投げられた。


 俺は黙った。至極理不尽な答えだったが、二番目の方の答え『そう決められた』という答えに俺は妙に納得してしまった。その理不尽がこの現象に、いや俺の人生にピッタリとはまってガチリと鈍い音を立ててハマった。その感覚はとても身近で覚えがあった。何度も経験してきたからだ。

 そうそれは『何かを諦める時の感覚』と相似だった。


 才能だとか、生まれ持った能力だとか、そういうものと、その理不尽は同種に感じた。そう。『決められた』のだ。抗いようがないじゃないか?


 そして罪人というもう一つの答えにその『決められた』理由を求めた。

 ポケットの中にあったレシートの端を折りながら俯いたまま聞いた。


「俺の罪っていうのは何なんだ?」


 そこに何か人生の理不尽を受け入れるための答えがあるのを期待した。俺は哀願するような上目遣いで顔を上げた。

 しかしそこにはもうガブリエルの姿はなかった。


 出水でみず 夏弘なつひろ


 タイマーが0になるとその装置は動き出した。その男は目と口を塞がれてただ助けを待っていた。

「ピー」という小さな電子音と共に、その歪な機械は動き出した。その音はその男、出水夏弘にも聞こえたが、もう出水は何の反応もしなかった。

 出水はただひたすら去り際に言われた。大丈夫という言葉を信じて待っていた。


 ピストンが一つずつ動いて、その連鎖反応はゆっくりと、ナイフの固定された腱に伝わった。その腱は勢いよく上下運動して、それに合わせてリズミカルに低い呻き声が漏れた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 引間 涼


 朝からひどい頭痛がした。口の中がカラカラだったので、俺は水道の水を直接口の中に放り込んだ。そしてふと横を見ると電気コンロの上に昨日置いた銃がそのままの形で置かれていた。俺は帰ってくるまでにそれが消えていてくれないかと願いながら家を出た。


 病院の待合室の赤茶色のソファにそっと腰掛けると、かなり慎重に腰を下ろしたにもかかわらず脇腹に激痛が走った。やはり折れていたみたいだ。すぐに痛み止めが効いてくるだろうと医者は言った。しかし顔を殴られた後の頭痛の方はどうしようもなかった。昨晩は痛みで一睡もできなかったから唐突に睡魔が襲ってくる。しかし眠れそうになるところで頭痛で目が覚める。また眠れそうになると、頭痛で目が覚める。 待合室のテレビからはニュースが流れている。

「港区の倉庫で男性の遺体が発見されました。」

「警察は、自殺の可能性が高いと見て調べています」

 俺はそれをぼうっとみながら、睡魔と痛みの繰り返しの中で昨日ガブリエルが言った言葉を考えていた。

 自分の頭の中で何度ガブリエルの『罪人』という言葉を繰り返し続けても、マシな回答は何一つ得られなかった。俺は誰かに相談してみようと思い至った。そうだ相談してみよう。別に全てを話さなくてもいい。たとえ話でもいいから自分以外だったらどうするのか他の誰かに聞いてみたかった。

 俺は携帯を取り出して電話帳をスクロールしてみる。しかし相談するような相手はなかなか見つからない。電話帳は連絡先だけ交換してその後合わなくなった同級生や、不動産管理会社、大学の生協なんかで埋められている。そして電話帳の下の方まで来て予想通り渡辺の名前が目に入った。

 結局こいつか…こいつから何か有益な回答が得られるとは思えないけど他に誰もいない。

 ラインで連絡を取ってみる。既読で返事がない。どうせゲームでもやってるんだろう。そう思っていたら家に着く直前になって、渡辺から略された暗号みたいなメールが返ってきた。

 

 今日だったら家におr

 明日はバ


 もう少し早ければ、帰り道に途中で下車して渡辺の家に寄れたんだが。また電車に乗って引き返すのが無駄に思えた。だけどそれでも俺は渡辺の家に向かった。このまま誰もいない家に帰りたくなかった。


 渡辺は、俺の怪我を見て驚いて言った。

 「どうしたんだよ!それ!」

 その声には心配そうな響きがあった。


 大学生活で一年の入学したての頃はみんなお互いに友人を探す時期があり、その時期の間であれば割とスムーズに友人関係を築くことができる。

 しかしそのタイミングを逃してボッチのままでいると、そこからコミュニティの仲間入りをするのは難しかった。渡辺はそんな時期に仲良くなった友人の一人だった。しかし仲良くなったものの俺たちは日常的に罵り合っていた。

 だからそんなこいつでも流石に怪我をしている相手を見たら心配するんだなと思った。罵り合うのは仲良しグループの儀式みたいなものでこいつは意外といいやつなのかもしれないと思い直した。


 渡辺と俺はYouTube チャンネルも一緒にやっていた。始めたきっかけは漠然とした『何かやらないといけない』という焦燥感からだった。なぜなら世間では俺たちとそう変わらない年齢の学生達がクラウドファウンディングやら何やらで起業したり、特技を活かして芸能活動のような事をしている様なニュースがひっきりなしに流れていた。そういうのを見ていると俺たちも何かやらないといけない様な気になってくるじゃないか?そう思って渡辺とYouTubeチャンネルを始めたのが去年のことだった。しかし実際にやってみると、全然思い通りに行かなかった。実際に設備を揃えて撮影してみると、素人が撮ってるように見えるyoutubeの動画撮影も実際はめちゃくちゃクオリティが高いことに気が付かされる。それに彼らのようにとんとん拍子に登録者数が増えていくこともなかった。

 それから方針の違いで俺たちは随分と喧嘩した。俺の何か意義のあることをしようとするスタンスと渡辺のただ趣味のゲーム実況を暇潰しにやりたいっていうスタンスが合わなかった。

 結局、俺の方はすぐにやる気をなくしてしまった。チャンネル登録者を増やそうとしてサバイバルをやってみたり、電車と競争してみたりしたが、そういう企画が全部空回りして全く受けなかったからだ。今では再生数が二桁の俺の動画は黒歴史として底の方に埋もれていて、チャンネルの動画のほとんどが渡辺のゲーム実況になっていたし、三桁に満たないそのチャンネル登録者の大半がゲーム実況の方を見にきていた。


 俺はこの怪我のいきさつを軽く説明した後本題に入った。慎重に言葉を選びながら、奇妙なSFストーリー仕立てに、仮の状況を物語った。

 とは言っても、状況はほとんど作り話じみていたいたので、それほど脚色する必要もなく事実と相違ない内容が伝わったと思う。


 「バレへんのやったら殺したらええやん?」

 渡辺がたまに出る大阪弁で返した。

 これは大阪のブラックユーモアなのか?それとも本気で言っているのか?俺はたまにこいつが宇宙人か何かなのかと思うことがある。

 「いやいや倫理観ってあるじゃん」

 俺が呆れがちに突っ込むと、

 「なんやそれ意味わからん」

 と渡辺はちょっと拗ねたように言って横になってゲームを始めた。

 渡辺のパソコン周りは、大学生にしては贅沢にこだわって揃えられていて、ディスプレイを囲んで、虹色に光る黒い機材たちが城のように構えられていた。


 大阪人のノリみたいなのについていけなかったのか、俺が倫理クイズでも出したと思ったのか、それとも俺がなんか隠してると思って拗ねたのか、一年ちょっとの付き合いで大阪人のノリもわからない俺にはその真意を汲み取るのは困難だった。

 多分、こいつは真面目な話をするのが気恥ずかしいところがあるんだろう。きっとそうに違いない。俺が渡辺をじっと観察しながらそこに何らかの結論を出そうとしてしていると、気まずくなったのか、渡辺が話を振ってきた。

 「この曲ええやろ?」

 渡辺がゲーム画面を切り替えて、YouTube で最近アニメの主題歌になった曲を流した。

 そこから聞こえてくる渡辺おすすめのその音楽は確かに耳感触のいい音だった。でも俺はそれがあまり好きになれなかった。

 それはなんだか決められた人間が、決められたままにミュージシャンになって、決められた曲を、決められたように演奏している。そして決められたようにヒットした。

 俺にはそんなふうに感じられたからだ。その曲の歌詞とは裏腹にそこには夢も希望も感じられなかった。

 俺は何かそこにケチをつけたくなって渡辺に皮肉っぽく言った。

「このボーカルおかまみたいな声だな」

 渡辺はそれを聞いて嬉しそうにケラケラと笑うと俺の容姿をバカにしながら反撃してきた。 

「血色の悪い加藤諒よりはマシやろ?」

 渡辺は俺を馬鹿にする時は大体、芸人の加藤諒に似ていると言っていた。

 俺は加藤諒より背も高かったしあんなにしたぶくれじゃないと思うが、確かにほんのりとパーツだけで言ったら似ているところがあった。

「いや、全然似てないだろ」

 そう言った後、俺はわざとあのグリンスマイルで加藤諒のモノマネをしてやった。

 そうすると渡辺はいつものように喜んでケラケラと笑った。そうして気を良くしたのか。渡辺はさっきの話を蒸し返した。

「もしそんな銃があるんやったら殺し屋になって儲けるか、死んだら株価が下がるやつを殺して儲けるかやな?」

 正解は?という顔でこちらを見る渡辺を見て、ああそういう方向で受け取ったのねと納得した。

 そうだ、ついこないだまでの俺たちにとって倫理観なんていうものは今考える必要のない遠い世界の話だったじゃないか。でももうそれは、『俺にとっては』そんなふうに楽しめる話ではなくなっていた。

 帰りの電車の中で、俺は「倫理観ってあるだろ」と渡辺に突っ込んだ自分の言葉が自分の本心のような気がして行動することにした。

 一度兄に会って、確かめるべきことを確かめるのだ。


 引間 秋平


 その男は、肩を左右に振りながら堂々と入ってきた。パリッとしたオリーブ色の軍服の左胸は無数の勲章で埋め尽くされている。陽気に片手を上げて、スターバックスの店員を一瞥すると軽く右の口角を上げた。そして私の座っている向かいの席に文字通り、ドカッと腰を下ろした。


 その振る舞いは私が抱いたダグラス・マッカーサーのイメージと完全に重なった。もちろん、あの官帽にアビエイターのサングラスもしっかり装備している。

 それからもったいぶった仕草であの木槌のようなキセルを取り出すと、堂々とマッチを剃った。そして、小さく頬を動かして神経質に息を調整し、満遍なくキセルに詰まったタバコに火を入れていく。私たちの席は禁煙席だったが、無論誰一人この四次元人を気に留める者はいなかった。

 そして一服すると、どこからかいつものカードとナイフを取り出して机に置いた。そして、上目遣いでこちらをみてまた少し口角を上げる。サングラスの奥の眼光が私に「解っているな?」と語りかけた。

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