私は電気ポット
流雪
全1話
私はポット。電気ポット。
今、電気屋さんに展示されいる。
箱入りの私の仲間は次々に買われて店を出ていくけど、私はまだ買われていない。
そのうち『展示特価』という値札が貼られた。
数日経つと、ある夫婦が私を「かわいいね。それに安いみたいだし」と言って買ってくれた。
箱詰めされて車に乗せられ、揺られること30分。家に到着した。
私は箱から出されて小さなワゴンの上に置かれた。ここでお湯を提供するんですね。
奥さんは私の中に水を入れ、電気をつなぐといつも「はい。よろしく」と言う。
お湯が沸いてクラシックのメロディーを鳴らすと、奥さんは「はーい!」と毎回返事をしてくれる。楽しい奥さんだ(笑)
この家には二人だけで暮らしているみたい。
よくお茶を飲んで二人で会話をして楽しいお家だけど、奥さんはお湯使った後お湯の残量を確認しないことがある。
たまに空焚きしそうになることがあるんだよね。
今、まさにもうすぐ空焚きしそう。危ない。
いつものメロディーとは違う警告音を鳴らしてあげた。
「何?今の音……ポットが鳴ってるのかな?」
リビングにいた奥さんが私のところへ来て、蓋を開けて中を覗く。
「あっ!お湯がない!空焚きしちゃう!」
奥さんは慌てて電源コードを抜いた。
奥さんの声に旦那さんもやってくる。
「奥さん……気をつけてくださいよ」
「何言っているのよアンタ。あなたもよく自分でお茶入れているんだからあなたも気をつけるのよ」
「……はい」
「さっきのは空焚きの警告音だったんだね。ありがとう。もし、また何か危ないことがあったら教えてね。ポーちゃん」
ポーちゃん?私のこと?
「なんだよ、そのポーちゃんって(笑)そのポットの名前かい?」
「そう。せっかく我が家のために尽してくれているんだから、名前を付けて呼んであげたいなぁと思って」
「そうか(笑)……いいねぇ。じゃポーちゃん、よろしくね」
嬉しい!ありがとう!
私ポーちゃんは改めてこの夫婦のために頑張ると決めた。
私の機能、お湯が沸いた時は予め組まれたメロディーしか鳴らせなかったけど、がんばって自分の機能を改造して他のメロディーを鳴らせるようした。
奥さんに旦那さん、驚くかな。
給水してもらい、お湯を沸かす。
昨日はクラシックの『エリーゼのために』だったから、今日は童謡の『チューリップ』にしよう。
お湯を沸き終わったので、そのメロディーでお知らせ。
「今日は童謡の『チューリップ』なんだ。最近お知らせメロディーが毎日替わるようになったんだ。ポーちゃんすごいねぇ」
てへへへ。
「なぁ、ポットの説明書読み返したら、こんなにいろんなメロディー鳴るようには書いていなかったぞ」
「まぁいいんじゃないの。何かの手違いで付いた機能とか?ラッキーだったってことで(笑)」
「そうか?……それ以外には別に問題ないみたいだからいいか?」
「うん。問題ない(笑)」
ポジティブな奥さんだなぁ(笑)
それからも毎日、私はお湯を沸か終えたらいろんなメロディーを鳴らしてお知らせした。
ある日曜の夕方、奥さんが料理で揚げ物をしている最中にスマホが鳴った。電話だ。
奥さん、台所から離れて電話で話し始めた。
揚げ物している時に台所から離れないでよ。危ないんだから。
電話すぐに終わって戻ってくるんでしょうね?
……しかし奥さんはなかなか戻ってこないぞ。
やばいよ!やばいよ!このままだと天ぷら鍋だいぶ熱くなっていそうだよ。
あぁ……なんか少し煙が立ってきたよ。このままだと火が着くよ!
もう!大音量のアラームを鳴らしてやる!
ピッピッピッ! ピーーッピーーッピーーッ! ピッピッピッ!
すると空焚きの時とは違って、旦那さんと奥さんが慌ててやってくる。
「あーっ!鍋の火が着けっぱなしだったー!」
慌てて奥さんコンロの火を消した。
「何やってんだよ!あぶないじゃないか!」
「ごめん。ホントごめんなさい。だけど鍋から火が出なくてよかった……ポーちゃんが教えてくれたんだね。ありがとう」
あぁ、よかった。間に合ってくれた。
「しかし、電気ポットって火災報知器の機能ってないだろ?それにまだ小さな煙の状態だったのに」
「いいの!ポーちゃんは優秀だからいいの!知らせてくれてありがとうね、ポーちゃん」
「それにさっきのアラームの音って、確かSOSのモールス信号じゃなかった?」
旦那さん気付いてくれたんだ。
「そうだったの?そこまで分からなかった。ポーちゃんスゴイね。ついでにそれに気付いた私の旦那も(笑)」
「ついでにかい(笑)しかし揚げ物料理するの気を付けてくれよ」
「はい……ごめんなさい」
その後、無事に料理も出来てあがり、食事も終わった。
奥さん食器を洗った後、私の体も綺麗に拭いてくれた。「ありがとうね」と言いながら。
ある日の夜、旦那さんが仕事から帰ってきた。
「ただいま。そしてお誕生日おめでとう」
そう言って旦那さんは奥さんにプレゼントを渡した。
「わーーっ、ありがとう♡」
今日は奥さんの誕生日だったんだ。
今、お湯は保温中で沸かすことはないけど、アラームを鳴らした。
ピッピッピーーッピッ ピッピッピーーッ
「ポーちゃんがハッピーバースデートゥユーを歌ってるよ♪ポーちゃん、ありがとう(笑)」
「ポーちゃん、ありがとう(笑)」
私はいい夫婦に出逢えて嬉しいな。
私は電気ポット 流雪 @ryusetsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます