天道虫になった話 🐞

上月くるを

天道虫になった話 🐞





「い~けないんだ~、いけないんだ~、そういうこと言っちゃ~、いけないんだ~」

 東側の窓を開けパソコンに向かっていたヨウコさん、小さな囃し声を聞きました。


 ん? よく耳を澄ませてみますと、沈丁花、百合、薔薇、ミニ紫陽花、ブッドリアなど濃淡の若緑が茂る一画から、ジャズの名曲『Summertime 』が聴こえて来ます。



 🎶   Oh your daddy's rich

    And your ma is good looking

    So hush little baby

    Don't you cry……



 父ちゃん金持ち、母ちゃん美人……なんというドストレート、あ、こりゃこりゃ。

 カラオケYouTubeで歌うとき、ついそう囃したくなる、いかにもアメリカ的な詞。


「金持ちはともかく、いまどきルッキズムなんか持ち出したら、大目玉を喰らうよ」だれかの抗議に「ですよね~、けど、そのあとの歌詞がこれまたシンプルですから」


「シンプルならいいわけ?」「っていうか、最強の両親が守ってあげるから、ぼうや泣かないで、ただ、おまえが自分の羽で飛び立つときまでだよって、すごくない?」

 



      🍼




 植栽の奥の会話を聞きながら、ヨウコさんは、うつらうつら居眠りを始めました。

 少女のころ、腕白坊主どもから「土手カボチャ」呼ばわりされたヨウコさん。🎃


 いつの間にか緑の地に赤いもようのあるてんとう虫に変身していて、赤地に黒や、黒地に赤or黄色、オレンジの地に紫色のもようがある仲間のひとりになっています。


「ま、むずかしいことはいいじゃない、それよか今夜のライブのリハーサルしよう」「だよね、だいたいからして見た目は人によって好き好きで絶対的じゃないんだし」


 そこへ全身が七色のレインボーてんとう虫がやって来たので、全員、黙りました。

 ヴォーカリストの羽は天使のようですし、そのうえ人(虫)柄も申し分なく……。


 天は二物を与えずっていうけど、あれ、うそだよね~。けど、ま、いっか、彼女のおかげで、てんとう虫バンドの人気が出て、ついでにカフェまで大繁盛なんだから。


 


      🎷




 植栽の入り口には、いつものwelcome犬たちが満面の笑みを浮かべて立っていて、首からさげた看板には「since1975 welcome」と白い文字が記されています。


 そのとなりに小さなグリーンボードが置かれていて「当店のパンケーキはオーダーいただいてからメレンゲを立てますので、二十分ほどお時間をいただいております」


 やだ、どうしよう、わたし、この世で一番パンケーキが好物なんだけどサックスも吹かなきゃだし、でも、口はひとつしかないし、どうする、どうする、どうする……


 どちらも選べず、汗をかきながら困りきって目を開けると、うわわわ、パソコンにwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww。💦




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