unknown

大和あき

side1

私のクラスには、「オウムちゃん」とみんなから呼ばれている子がいました。


奥武杏(おうむ あん)。それが彼女の名前なのです。


とても沢山喋りそうな名前に反して、オウムちゃんは静かな子でした。


静かな子、というよりも、話しているところを見たことが無いのです。休み時間には本を読み、昼食の時間になるといつもどこかに行ってしまいます。


なので、彼女の声がどういう声なのか、クラスのみんなは知りません。


何をしても喋らない子として、学校ではたちまちオウムちゃんの名は広まりました。

どうしたら喋るのか知りたくて、いじめを始める男子もいました。


先生も、問題を出しても答えないオウムちゃんに対して圧をかけました。なんでも、生徒指導室に呼び出して、カウンセリングを始めたのだそうです。


カウンセリングでもオウムちゃんは何も喋らないと思われました。しかし、「どうして何も言えないの?悩みがあるなら言ってごらん」という先生の言葉に、「私の…名前…は、オウムアン」とだけ、答えたそうなのです。


オウムちゃんの周りには人がいなくなりました。いや、最初からいなかったのですが、それでも先生は、たしかにオウムちゃんに連絡事項を伝えてコミュニケーションを取ろうとしていたのです。しかしこの一件で先生にもとうとう見捨てられてしまったのでした。


私以外は。


私は学級委員長なので、オウムちゃんを見捨てるなんてこと、絶対にしません。


オウムちゃんが悲しまないように、毎日話しかけました。


もちろんオウムちゃんが答えてくれることはありませんでしたが、それでも根気強く話しかけていると、確かに瞳で私を見てくれているのです。


オウムちゃんは話せないだけであって、心が無いわけではないのです。


人間である以上、心は誰にだってあります。


 ある日、いつものように学校に行くために家を出ると、オウムちゃんがいました。


オウムちゃんは恥ずかしがり屋さんなので、電柱の陰に隠れてしまっています。


私は、優しく元気よく「オウムちゃん、おはよう!一緒に学校行こ!」といって、オウムちゃんと並んで歩こうとします。


しかし、オウムちゃんは一向に電柱から動こうとしません。


「オウムちゃん、どうしたの?」声をかけると、オウムちゃんは口を開いて、


「私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン私の名前はオウムアン」と、立て続けに言い出します。


私は動揺しているのが気づかれないように、「うん、そうだね」と言うとオウムちゃんは、「オマエヲコロス」と言いました。


私はびっくりして、そして笑いました。


「あははは、オウムちゃんってやっぱ面白いんだね!今度はどうされたい?」そう答えると、オウムちゃんはまた黙りました。


どうやら、鎖はとれたようです。少しオウムちゃんの腕に血はついてしまいましたが、オウムちゃんは喋らないので大丈夫でしょう。


私はオウムちゃんの手を引っ張り、「ほら、学校遅刻しちゃうよ~!」と言って一緒に走り出しました。


私の平穏な日々が始まりそうです。


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unknown 大和あき @yamato_aki06

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