魔王の怠惰【完】

 邪神は倒した。

 正直、最初はアイリスやアーティリアに言葉を伝えていた女神と、邪神が同一の存在だと思ってたんだが、どうやら違ったらしい。

 アーティリアは結局、邪神を倒したことで魔王である俺との協力関係は終わったとして、そのまま王国へと戻っていった。アイリスも同様に、女神の言葉を伝える神官として国に戻った。まぁ、ミエリナは俺の能力の詳細を知りたがっているので、普通に魔王城に残った。


 邪神を倒して数週間もすると、王国内部では勇者を旗印とした革命の火が燃え盛っているという情報も流れてきた。このまま数ヵ月もすれば、王国が革命によって倒れることだろう。

 魔族の中にも、人間が内輪揉めしている間に攻め入って滅ぼそうと言っている奴らもいたが、俺が直々に新魔王派を半壊させたこともあって誰も大きな声では言っていなかった。

 魔族にとって力は絶対。反乱を起こした魔族を俺が鎮めたのならば、黙って従うのが魔族の美徳……というよりも生き方なんだろう。なんとも面倒な生き方しているな、というのは俺の感想だが。


 四精霊との契約も終わり、そのまま不可侵状態となった。と言っても、タイタニスは今も魔王と言う存在に忠誠を誓っているし、トレイスも殴り合って勝った俺のことを認めてくれているので、あまり不可侵という感じではない。


 戦争は終わった訳じゃない。と言っても、王国軍も壊滅的な被害を受けているし、魔族側も魔王である俺が反戦派であることは周知の事実なので目立った動きはない。王国は軍隊の壊滅以上に、自国の革命の方が大事件だろうな。だから戦争は休戦状態、とでも言えばいいか。

 恐らくだが、王国が倒れてしまえば次に人間の代表として立つのは真の勇者であるアーティリア・セラフィムだ。どのような政治形態にするのかは知らないが、アーティリアは間違いなく、魔族との戦争を終わらせるだろう。そうなると講和が行われるまでは俺も死ぬ訳にはいかないし、隠居する訳にも行かない。


「それで、ロイドさんの能力は夢から現実に持ってくる……」

「感覚的にはな。でも、実際は現実を書き換えてるんだよ」

「現実を書き換えるって感覚がよくわからないんですよ」

「そりゃあそうだろ。俺だってよくわかってないんだから」

「仕事をしてください」


 能力もバレたので大人しくミエリナの実験に付き合ってやっていたら、メイドさんが仕事をしろと言ってきた。


「ロイドさんにまともに名前も呼んでもらえないし覚えられないメイドは黙っててよ」

「は?」

「普通に凄い怒るわね」


 失礼な。ここまで自分に仕えてくれているメイドさんの名前ぐらい覚えてるわ。

 メイドさんの名前……アリス、だっけ?

 やばい、ちょっと自信なかった。


「魔王様、私の名前はアリス・アスタリートです」

「名乗ってるってことは覚えてもらってないってことよね?」

「黙ってください外道魔法使い」

「倫理観なんて持ってたら真理の探究なんてできないわよ」


 それはそれでどうなんだ?

 言ってることもやってることも魔族より魔族らしいぞ。まぁ、ミエリナがマッドサイエンティストなことなんて知ってたけども。それでも、実験の為に人を殺したりしないだけまだマシだと思う。


 アリスとミエリナの仲がいつまでも悪いのは、性格的なことが原因なんだろうか。

 規律を重んじるタイプのアリスに対して、結果の為なら倫理観も放り投げるミエリナでは性格的な相性が良くないのはわかるけども。


「部屋で騒がないでくれますか? うるさいので」


 流石に我慢できなかったのか、ソファに座って本を読んでいたパウリナの額に青筋が浮かび上がっていた。

 魔王の伴侶だからと、基本的には同じ部屋で過ごしている俺とパウリナだが、別に甘い雰囲気になったことはない。基本的にはパウリナは物静かに過ごし、俺は寝ているかどっかに出掛けているかの二択だから。意外だったのは怠惰な生活を送りたいだけ、という俺の思想にもそれなりに共感してくれたこと。まぁ、不死の身体で数百年生き続けていると色々とあるのだろう。


「正妻面しないでくれる? 不愉快なの」

「……望んでしている訳じゃないわ。でも、事実として私が正妻だから」

「待て待て。そもそも俺は妾なんていないから、正妻とか言われても知らんぞ」

「ロイドさんは黙っててください」

「……魔王様、仕事をしてください」


 アリスはこの状況をガン無視してるし。

 ミエリナが俺に対して好意を向けてくれているのはわかっているが、俺は別に応える気は特に無い。クズと言われようとも、俺は自分の安定した生活を求めている。本音だとこのままパウリナと仮面夫婦を続けながら誰とも深く関わらずに隠居したい。ただ、ミエリナもアリスも、なんならアーティリアも骨もそれを許さないという感じなので困った状況だ。いっそのこと、全てを放り出して逃げ出した方がいいのではないかと、最近は思い始めてる。


 魔王になれば自分より上の存在がいなくなるから、引き籠っていても許されると思ったのに、別にそんなことなくて結構萎えてる。


 あー……仕事もせずにずっと寝てたいな。





【後書き】


少し早いですが、これで完結としたいと思います。


本当は色々とやりたいこともあったのですが、どうしてもこの設定を広げきることができなくなってしまったので、ここで終わらせておきたいのが作者の都合です。


ここまで読んでくださった読者の方々に感謝を申し上げます。

私の小説を読んでくださってありがとうございました。




この小説には関係ない話ですが


「陰キャコミュ障ぼっちで影の薄い俺、世界最強のダンジョン探索者です ~世間ではダンジョン配信なるものが流行ってるらしいので、そういうのはよくわかりませんが、流行りには乗りたいと思います~」


という小説を現在毎日0時に更新中です。


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魔王様は怠惰に過ごしたい 斎藤 正 @balmung30

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