響。

Rotten flower

第1話

これでもう、僕は犯罪者だ。ペンチで廃れた鉄柵を破壊する。森の中、きっと誰も見ていないだろう。草は生え、線路は錆び、静かな風景だけが僕の視界に流れる。すべてが非現実的で涼しく感じた。

今日も月明かりが綺麗だ。淡く光っている月が一層に僕の世界を美しく染めていく。単純で単色な世界、まるで塗り絵の原画のようなもの。それが僕の心の中、そしてそこに色鉛筆のように書き込まれていく周りの風景は何とも言い難いものだ。

はっ。今日はそんなことで来たわけではない。暗い中で懐中電灯をつけると光を吸収する洞穴が見えた。トンネルだ。僕はそんなトンネルに向かって歩いていく。ただ単純に。

トンネルの中で僕の足音が響く。新しい世界に踏み入れたそんな感覚が頭に響く。だんだんとトンネルの内部は暗くなってくる。大丈夫。怖がらない。この先には極楽浄土が待っている。体が浮遊している感覚がし始める。ここまで来たことは12回目だ。ただこのトンネルは僕自身、どこまで続くかわからないもの。きっとここまでは序盤なのだろう。

ベルの騒がしい音がする。後ろから引っ張られる感覚も発生する。いいや、後ろに引っ張られる。まただ。


いつも通りの朝が来てしまった。空のガラス容器がそこら中に転がって。机には「デロトイン」がいつも通り置かれていた。僕はベルを止めるとあのうざったらしい朝に向けて出発することにした。

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