第3話 チュートリアル修了


 モンスターとの戦いを始めて体感2カ月が経過した。

 俺が今相手しているのは鬼のような形相をした背丈が3メートルほどの大男だ。拳を固めてみぞおちにパンチを食らわせてやると、パンチが大男にめり込む。すぐに拳を引いた俺は体幹を軸に半回転しながら飛び上がり、みぞおちの痛みにうずくまる大男の側頭部に回し蹴りを決めた。


 ゴキッ。


 痛そうな音と一緒に首の骨が折れたみたいで、大男は顔をねじったまま口から泡を吹いて倒れてしまい、それっきり動かなくなった。


 チョロい。チョロすぎる。俺って人外決定じゃないか?

 われに七難八苦を与え給え!


 チュートリアルフィールドには星はあったが月はなかったせいで七難八苦が与えられることはなさそうだが、いちおう願っておいた。


 次に現れたのは、真っ赤な毛並みをした大型のオオカミの群れ。9匹が俺の周りを探るように回り始めた。俺の隙でも突きたいのだろうが、俺はそんなことは構わず、正面にいた赤オオカミに向かって走り寄って、右のフックをオオカミの左頬に決めた。俺の拳はオオカミの頬にめり込みオオカミは首を向こう側にまっすぐ向けたままその場に倒れ伏した。

 残りのオオカミたちが一斉に俺に向かってくる。

 近寄ってきた順に、パンチとキックで片付けていく。10秒ほどで赤オオカミの群れは全滅してしまった。


 こういった死骸だが、不思議なことに翌日同じところに行ってみると消えている。腐ってもらっても困るので実に衛生的だ。今のところモンスターだから1日経てば死骸が消えるのか、チュートリアルフィールドだから死骸が消えるのかは不明だ。何となくだけど、たぶん後者だと思う。


 さらにそれから体感3カ月が経っていた。


 俺の目の前にいるのはどう見てもドラゴンだ。頭の大きさだけで子牛ほどあり、頭の先から尾の先までは30メートルはある正真正銘の怪物モンスターだ。


 俺はドラゴンに向かって肉薄していく。


 ドラゴンの口が開き、青白いブレスが俺に向かって放たれた。


 俺はドラゴンのブレスを躱しながらさらにモンスターに迫っていく。ドラゴンは、ブレスでは俺に命中しないと悟ったのか、近づく俺に大口を開けて噛み付いてきた。ドラゴンといえども見ようによってはたかが大型トカゲだ。トカゲごときの動きなど完全に見切っている俺はひらりと宙に舞い、トゲの比較的少ないドラゴンの頭頂部に膝立ちになるように着地。そこからドラゴンの脳天に向けて右こぶしを突き下した。


 俺の右拳はドラゴンの頭蓋を破壊し、右腕の肘までドラゴンの頭の中にめり込んだ。

 俺は右手をグーパーしながらドラゴンの脳みそをまさぐってやったら、ドラゴンは一度痙攣してバタリと地面の上にうつ伏せになって伸びてしまった。しっぽの方はその後も少し動いていたが、そのうち動かなくなってしまった。


 チョロい。チョロすぎる。俺って人外どころか生物の埒外決定じゃないか?



 それから一週間ほどチュートリアルフィールドを走り回ったのだが、ザコモンスターは俺を見て逃げ惑うばかりで俺に向かってくるモンスターはドラゴン?だけになっていた。ドラゴンを超えるモンスターはいないようだ。戦闘訓練は十分と思っていいだろう。



 肉体関係の強化はこれくらいで許してやるとして、俺に足りないところはあと何だろうか?


 俺に足りないところはこれから行くことになる世界の情報だ。


 そこで俺は神さまにそこのところどうにかならないか? と聞いてみたところ、プレハブ小屋のパソコンを使って自由に検索しろと言われた。使い方は、普通に日本語をローマ字で打ち込むだけだそうだ。漢字変換くらいつけて欲しかったが、これはこれで使いやすい。ような気もする。


 パソコンは得意ではないがキーボードでローマ字入力くらい俺にもできる。左右の人差し指を使って文字入力だ。


「まずは、

 ORENOIKU SEKAI?(俺の行く世界?)」


 ふむふむ。


「HITONOSUNDEIRU TAIRIKUHA?(人の住んでいる大陸は?)」


 ふむふむ。


「OKANENO TANIHA?(お金の単位は?)」


 ふむふむ。


 ……。


 こうして俺はこれから行くことになる世界の基礎知識を学んでいった。



 パソコンで検索したところ俺のいく世界の名まえはアテナ世界というようだ。


 アテナ世界には定番の冒険者ギルドがありそこでモンスターを買い取っているようなので向こうの世界に行ったとき少しくらい役に立つかもしれないから、バックパックに入るだけモンスターの素材を持っていこう。



 あまり大きなものは無理なので、逃げ惑うザコモンスターのうち適当なモンスターをたおして、パソコンで解体方法を調べながら包丁**で解体し、毛皮などをバックパックに詰めていったところ、かなりの量の素材をバックパックに詰め込むことができた。売ればそれなりの額になるだろう。バックパックにはまだ空きがあったので冷蔵庫に入っていた飲み物や冷たいままの弁当をそれなりの数バックパックに入れておいた。



 準備万端整った。少し名残惜しいような気もしたが、新たな世界への期待もあり、俺は背中にバックパックを背負って神さま?に準備ができたと告げることにした。


「準備できました」


『了解。ほう。ずいぶん鍛えたようだね。これなら大丈夫だろう。

 それじゃあこれからきみにシステム操作をインストールするよ。便利そうな定番マクロも入っているから』


「はい」


 特に何も起こらないと思っていたのだが、


『<システム>と頭の中で言ってごらん』


 言われるまま<システム>と、頭の中で言ったら、システム操作の方法がすでに自分の頭の中にあることが分かった。


 同時に俺はアテナ世界の全貌のようなものを悟った。アテナ世界は向こうの世界の管理者が管理するアテナシステムというシステムの中に造られた仮想現実のような世界と言ってもいい。アテナ世界に存在する全ての物はシステム上の変数として定義されているようだ。ある人物が動けば、その人物を表す情報のうち位置情報が変化する。逆にその位置情報をシステム操作で書き替えられれば、その人物の位置は変化する。俺自身はアテナシステムで管理されているわけではないが、俺の存在だけはアテナシステムで認識しており、その中の位置情報を書き換えられればいわゆる転移テレポーテーションも可能となる。


 システム操作は、アテナシステム内の巨大なデータベースから情報を引き出して参照できるだけでなくデータベースの情報も書き換えられるというものだった。



 システム操作を得た俺は、鬼に金棒ならぬ鬼に核兵器だ。


『うまくインストールできたようだね。それじゃあ、きみを向こうの世界に送ろう。自由に生きてくれたまえ』



[あとがき]

宣伝:

宇宙SF『宇宙船をもらった男~』https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641の前史。

SF短編『宇宙船をもらった男、もらった宇宙船は☆だった!?0、惑星型宇宙艦アギラカナ』

全1話7000字。カクヨムコン用短編。よろしくお願いします!

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