第2話 ニュー大山源太郎爆誕、チュートリアルフィールド。


 本人は地球の管理者と名乗っているけど、今の俺にとっては神さまだ。その神さまの声が頭の中で響かなくなった。気付けば俺は、林の中の一軒家プレハブごやを前にして俺自身の体で立っていた!


 こうやって自力で立ったのは何年ぶりだろう?


 ウォー! ワッハッハッハ。


 なぜか腹の底から笑いがこみあげてきて大笑いをしてしまった。こんなに笑ったのも久しぶりだ。これも何年ぶりだろう?


 スーーー。ハー。


 林の中の空気を胸いっぱいに取り込んだ。空気がうまいと感じたことなど今まで一度もなかったが、今は違った。空気がうまい。うますぎるぞ!



 今の俺は、黒っぽい柔道着のような布製の服、いわゆる胴着を着ていた。足は裸足だ。素足の下に地面を感じるのは小学校の時以来じゃないか? 胴着の上からでも胸板の厚さが分かる。こぶしを握ると、ギュッと力が入る。軽くその場でジャンプしてみたら、おのれの身の軽さに驚いてしまった。


 大山源太郎、完全復活だ! いや、新たな体を得た以上復活ではない。爆誕だ!



 目の前のプレハブ小屋の扉を開けて中をのぞいてみると、そこには冷蔵庫を始めとした現代日本の家財道具一式が揃っていた。冷蔵庫を開けると中には食材の他、アルコールはなかったが牛乳、水、炭酸水。それに出来合いのコンビニ弁当まで入っていた。消費すれば補充されるという話だったから至れり尽くせりだ。物入れの中には諸々の消費物資が入っていた。


 部屋の隅に置かれたOAデスクの上に現代の象徴ともいうべきデスクトップパソコンが乗っかっていた。スイッチを入れたところ、モニターの左上に『>』が点滅しているだけでどう使っていいのか分からなかった。いずれ使い方も分かるだろう。体が早く鍛えてくれと俺をせかしている。今は訓練あるのみ!


 訓練が終わったと思ったら****神さまを呼び出せばいいということは、納得するまで訓練を続けていいということだ。よーし、納得いくまで訓練するぞ!



 胴着の帯をキリリと締め直した俺はプレハブ小屋から外に飛び出した。

 見上げた空は澄み渡った青空。白い雲が浮いて太陽も見える。太陽の位置的には正午前後だろう。

 俺は軽くストレッチをして起伏のある森の中を走り始めた。地面を踏みしめて走り回るのがこれほど楽しいものだったとは。そのことを教えてくれた神さまに大感謝だ。


 ホワット ア ワンダフル ワールド! この素晴らしき世界よ!



 プレハブ小屋から飛び出して走り回ったのだが、不思議なことにプレハブ小屋の場所はどこに俺がいてもなんとなくわかったので迷子になることはなかった。


 日が沈みあたりが暗くなるまで走り回ってプレハブ小屋に戻り、シャワーを浴びて、冷蔵庫から取り出した弁当をレンチンして食べた。


 弁当がうまい!


 白身魚のフライの載ったのり弁とシャケの載ったのり弁、2つ食べてしまった。


 すっかり夜になってプレハブ小屋から外に出て空を見上げたら月は見えなかったが満天の星だった。チュートリアルフィールドといっても完全に一つの世界だ。


 小屋に戻って下着になって明かりを落とし、ベッドに潜り目を閉じていたらすぐに眠ったようだ。


 夢など見ることなく目覚めた。

 夜が明けて白み始めてきたようで薄いカーテン越しに窓辺が明るくなってきた。


 部屋の明かりを点けて朝の支度をした俺は、朝食として冷蔵庫に入っていた弁当をひとつ食べ、昼食用としてもう一つ弁当をバックパックに入れておいた。水分補給用として、これも冷蔵庫に入っていた緑茶のペットボトルとスポーツ飲料のペットボトルを2本ずつバックパックに入れておいた。


 バックパックを手に小屋を出た俺は、そこで覚えている範囲でラジオ体操して体をほぐし、バックパックを背負って駆けだした。


 ……。


 その日から俺はチュートリアルフィールドの中を駆け巡った。

 フィールド内には林もあれば小高い山もあり、草原に川、そして滝などもある。遠くの方に青くかすむ山並みも見え、どこまで行っても際限がないように見えた。


 ……。


 チュートリアルフィールドの山野を駆け巡ること体感1カ月。十分体ができ上ったと思った俺はそろそろ向こうの世界にいるというモンスターを相手に実戦訓練しようと思い神さまに頼んでみた。


『それじゃあ、最初は低レベルのモンスターからモンスターをフィールドに放つよ。モンスターの強さはきみの成長に合わせて少しずつ上がっていくからね。いまあるプレハブ小屋は一種のサンクチュアリだからプレハブ小屋に対してモンスターが近づくことも攻撃してくることもない。そういうことだから、安心してくれていいよ』


 プレハブ小屋で休んでいる時、モンスターに襲われたらいやだものな。ありがたい。


 ところで、俺の格好は柔道着のような胴着だし、裸足だし、素手だ。俺は公道格闘家にでもなるのだろうか? 赤い鉢巻きをして→↓↘→+Pなのか?


 下手な武器を使うよりこの身一つで戦う方が俺には向いているのかもしれない。いままでベッドの上で寝返りすら自分で打てなかったうっぷんを晴らすときは今なのだ!


 よし来い!


 とはいえ、まだ見ぬモンスターを素手でたおせないようなら、プレハブに逃げ込んで、あらためて神さまに武器を頼もう。



 決意も新たにフィールド内を駆けていたら、目の前に柴犬ほどのウサギが躍り出てきた。ウサギがモンスター? と一瞬思ったのだが、よく見るとウサギの額に一角獣のような尖った角がにょきりと生えていた。そんなもので突かれたらただでは済まないだろう。などと一瞬考えたことで隙ができてしまった。その一瞬のスキを突いてウサギが俺の胴体に向かって飛びかかってきた。


 ウサギの角は見事に俺の腹の真ん中、へその少し下あたりに命中したのだが、俺の道着を突き破ることもなく、俺の腹もほとんど痛みを感じなかった。自慢の角攻撃が不発だったウサギは跳び退こうと方向転換を図ったのだが、そこで俺の右足の前蹴りがさく裂した。俺の蹴りをもろに受けたウサギはすごい勢いで5メートルほど先の木の幹にぶつかりぐしゃりと音を立ててそれっきりになってしまった。

 意識はしていなかったが俺って1カ月のトレーニングで体力だけでなくそれなりにできる男になっていたようだ。それと、生れて初めて動物をこの手というか足にかけたわけだが、忌避感や罪悪感といったものは何もなかった。そうじゃないとこれから先やっていけないし、そういった精神面も強化されているのだろう。



 よーし。どんどん、こーい!


 俺の叫びを神さまが聞き取ってくれたのか、それからさして強そうでもないモンスターがそれこそぞろぞろと現れた。その現れ方がうまくできていて、モンスターに合わせて左右のパンチから、順番に足のケリに入っていきまたパンチに戻るといった具合に戦い続けることができた。その結果、体の動きがこなれていき、全くの素人だった俺だが、格闘戦の基本がどんどん身についていき鍛えられていった。


 最初のモンスターうさぎから少しずつモンスターの強さが増していったが、俺は常にそのはるか上をいって容易にモンスターをたおしていった。


 そういった訓練を続けること体感1カ月。現在よく出てくるモンスターは、馬ほどあるオオカミのようなモンスターだ。そいつが群れになって俺に向かってくる。群れになってこようと一匹ずつ一撃で仕留めてしまうのですぐに数が減っていき全滅できてしまう。その間俺は当然のように無傷だ。


 客観的に見て、俺って既に人類を超越しているのではなかろうか?


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