毎日小説No.46 あいつ、何も仕事してねーじゃん!
五月雨前線
1話完結
別会社の社員とのプレゼン大会。互いの会社の社員が混同してグループが作られ、与えられた議題に沿って各グループでプレゼン資料を作成するという、我が社の伝統的な催しだ。
俺のグループは合計7人。全員初対面だったが、皆意識はかなり高く、すぐに話し合いがまとまって各自資料の作成を始めた。俺のグループのメンバーは皆優秀だ。……ある1人を除いては。
そして数十分後、我慢の限界に達した。許せない。皆これだけ頑張ってるのに、1人だけのうのうとスマホを弄りやがって。俺がぶっとばしてやる。清水がトイレに行ったのを確認し、俺も清水を追ってトイレに入った。そして清水に歩み寄り、胸ぐらを掴んで捻り上げた。
「おい!!! てめー、いい加減にしろよ!!!」
清水は一瞬目を丸くした後、俺の顔を見ると小さく溜め息をついた。
「あの、私が誰だか分かって言ってるんですか?」
「知らねーよそんなの!! ふざけた真似しやがって!!」
「やれやれ」
清水は胸ポケットから名刺を取り出し、俺に見せてきた。名刺の内容に目を通し、今度は俺が目を丸くした。
「か、株式会社セルモースの社長!?!?」
「はい。なるべく目立たないようにプレゼン大会に潜入し、社員達の様子を観察していたんですよ。それなのに、いきなり怒鳴って、胸ぐらを掴んできて……」
「す、す、すみませんでしたぁぁぁ!!」
俺は45°の角度で上体を曲げて頭を下げた。セルモースというのは確か、今度商談を行う予定の会社だったはずだ。商談前にいきなり社長との関係を悪くしてはいけない。
「ふむぅ……。しかし、胸ぐらを掴まれて、苦しかったんですよねぇ。それにほら、ここのところも皺になってるし。誠意を目に見える形で示して欲しいですよねぇ」
「め、目にみえる形……?」
清水が両手で紙幣サイズの四角を作った。言わんとすることを察した俺はものすごい速さで財布を取り出し、入っていた万札を全て清水に渡した。
「10万円か。まあ、いいでしょう。許してあげます。今後気をつけるように」
「は、はひっ! 申し訳ありませんでした!!」
***
「お、清水。お前どこ行ってたんだよ」
「プレゼン大会の会場。馬鹿なおっさんから金パクってきたぜ」
「マジかよ〜! え、スリで金パクったの?」
「会社でスリはしないって。『俺は社長です』って嘘ついて、偽物の名刺見せて脅したら金くれたんだよ。マジで馬鹿なおっさんだよな〜」
完
毎日小説No.46 あいつ、何も仕事してねーじゃん! 五月雨前線 @am3160
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