私の断罪に関わった人達を順番に殴り倒していくだけの話

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は乙女ゲームの世界の、悪役令嬢として転生しました。

 けれど、何も悪い事はやっていないのです。

 それなのに、私は「悪事をなした」と決めつけられて、断罪されました。

 後で濡れ衣だと分かったから良いものの、あのままだったら処刑されていたかもしれません。


 だから、私を断罪した人間達を一発くらい、順番に殴っていってもいいですよね?





 ケース1


「私の見た目が邪神の特徴と似ているから、私も悪い人間であると決めつけていましたね」


 目の前で震えているのは、攻略対象の一人。

 ご立派な騎士団の団長。


 けど、内心は小心者で、心配性。

 国の有事に備えるのはいいけれど、時には備えすぎて真実にない罪を思い込み、断罪してしまう。


 彼は私を邪神だと思い込んで、調査していた。


 それだけでなく、強引な取り調べの場を行ったり、私物を勝手にあさったり、部屋に侵入していたり。


 ストーカーみたいね。


 ちょっと気味悪くなってきた。


 気を取り直して。


「一発私に、殴られてください」


 私はそう告げる。


 相手は、つばを飲み込む。


 抵抗するそぶりも、言い訳することもない。


 攻略対象だけあって、潔かったようだ。


 大人しく、目をつぶって、待機。


 私はその騎士団長の頬を平手でスパーンとひっ叩いた。


 思いっきりやったせいか騎士団長は、ふっ飛んでいく。


 反省している人を過剰に痛めつける趣味はないので、彼の分はこれで終了だ。


 それに一つの罪で時間をかけてられない。


 まだまだ後がつっかえてるんだから。








 ケース2


「あなたは私が意地悪をしたと、生徒達に言いふらしましたね」


 次に私の前に現れたのは、ヒロイン。


 前世で乙女ゲームをしていた頃から、性格があれだと思っていたが、この子はちょっと被害妄想が強すぎる。


 とはいえ、汚れた机の隣とか汚されたロッカーの前に、ことごとく、タイミングよく、偶然私があらわれたら、誤解しない方が難しいかもしれない。


 ルート分岐の結果によって、この世界のこのルートの彼女はただの一般市民。


 特に責任のある立場ではないし、ただの女生徒だから、情状酌量の余地はある。


「準備はできていますか?」


 ヒロインはぎゅっと目をつぶって、待機。


 私は先ほどよりは多少弱めに、平手打ちをかました。


 それでも華奢なヒロインは尻もちをついたようだ。


 頬に手を当てるヒロインは、涙目になって「ごっ、ごめんなさい」と、消え入りそうな声でつぶやいた。


 性格の合わない人だけど、これ以上関わる事がないのだから、これくらいで十分だろう。







 ケース3

 

 お次は私が通っていた学校の教師、担任だ。


 攻略対象ではない。


 けれど、私の人生の重要人物。


 彼は不満そうな顔で、私の前に現れた。


「なぜ、俺がこんな事に付き合わなければならないんだ」


 不満そうなのは顔だけでなく、言葉もだった。


 どうやら反省していないようだ。


「あなたは、ひいきにしている女生徒の言い分を鵜呑みにして、一方の話しか聞きませんでしたね」


 ひいきしている、というのはもちろんヒロイン。


 聞いてもらえなかった方の生徒はもちろん悪役令嬢である私。


 担任教師は「それが何だ」という態度で口を開いた。


「疑われるような行動をとる方が悪い。社会は甘くないんだぞ。お前は普段から態度が悪すぎるんだ。不愛想で、笑いもしない。濡れ衣を着せられて当然だ!」


 人を導く者にあるまじき考え方。


 彼の言う事は真実であるが、だからといってそれがまかり通ってしまえば、世の中には理不尽な目に遭う人だらけになってしまう。


 のちの被害者を出さないためにも、一発かましておかなければ。


「人間性をいちから築きなおしてください」


 私は拳を作って、彼を思い切り殴りつけた。


 彼は「ぐはっ」と言って、後ろに倒れる。


 倒れた時に頭をぶつけたのか、気絶してしまったようだ。


 同情すべき点はない。








 ケース4


 次に現れたのは、警察官。


 自分の昇進の為に、証拠を偽造して、私が大罪を犯しているとでっちあげた。


 この人のせいで、私は邪神復活の片棒をかついた罪で処刑されるところだった(結局、乙女ゲームのラスボス邪神復活は、他の人がやっていた)。


 話はそれるけど、


 ゲームの中の悪役令嬢はよくそんな事したわね。悪の組織とつるんで、邪神復活の手助けをするだなんて。


 ヒロインをぎゃふんと言わせるためだけに、大勢の人を危険にさらすなんて、私には考えられない。


 きっとストレスに耐性のない子だったのね。


 あの子、家族や使用人や友人からものすごく甘やかされて育ったから。


 もちろんこの私は、そんな風にならないように、自分でできる事は自分でやってきたけど。


「あなたは自分の私欲のために、一人の罪なき人間を陥れようとしましたね」

「俺にこんな事をして、どうなるか分かっているのか。俺は有名なハートランド家の息子だぞ」


 コネで警察になった彼は、自分の家の名前を絶対的な物だと思っている。


 今まで、その名前を出して思い通りにならなかった事などないのだろう。


 まさか断罪されるとは思っていなかったようだ。


 それどころか、相手にし返してやろうとすら思っていそう。


 しかし、今回は違う。


 そんな事はできないだろう。


 なにせ、国の王子がこの場を与えてくれたのだから。


 その場から逃げようとした警察官、ではなく警察官だったものは制止された。


 周囲に待機していた者達が、彼を羽交い絞めにしたからだ。


 王子がこちらに与えてくれた兵士達が役に立ったようだ。


 私は逃げ出した彼に、近づいて拳を作った。


「殴っても反省しなさそうだけれど、私の心の整理のために殴らせてもらうわ」


 狙ったのは顔のど真ん中。


 警察官だったものは、鼻血をだして白目をむきながら、別の場所へ運ばれていった。


 床に歯が一つ転がっていたが、特に心配などしなかった。







 ケース5


 次は、両親だ。


「親に暴力をふるうなんて、最低だぞ! 何を考えているんだ!」

「そうよ! 苦労して育ててあげたのに!」


 彼等は一人の少女を、監禁し、勉強ができるまで閉じ込め続けた。


 しかも、思い通りにいかなければ、殴る蹴るなどの暴力を繰り返す。


 食事は三日に一度、残飯を与えるだけ。


 これは立派な虐待だ。


 おかしいわね。


 原作の悪役令嬢は、甘やかされていたのに。


 だからずっと抱いていた疑問を解消するためにも、この場に連れてきた。


「気味が悪い。お前はやはり人の子じゃないんだろ!」

「子供の頃からおかしかったもの! 邪神だと思って何が悪いの!?」


 連れてこられた両親はそんな事を叫び続けている。


 聞くに堪えないが、聞けて良かった。


 やっと本音が聞けたからだ。


 やはりそういう事だったのね。


 前々から、そうではないかと、うすうす思っていたけど。


 前世の記憶がある弊害で、幼い頃から大人びた子供だったもの。


 さて、どうしようかしら。


 彼等からみたら、私は子供を奪った犯人なのだし。


 悩んだ末、私は両親を模した人形を持ってきて、殴りつけた。


 ボロボロになっているそれは、日ごろから同じことを繰り返していたせいだろう。


 最後のとどめを刺されたのか、やぶれて中身の綿が飛び出している。


 両親達が青ざめる。


 けれど安心してほしい、彼等自身にはそんな野蛮な事はしないから。


「貴方達は、貴方達の言う通りのおかしな娘に殴られて死にました。だからどこでもいいので、視界に映らないどこかに行って消えてください」


 控えていた者達が両親を連れて、どこかへ。


 きっともう、会う事はないだろう。


 彼等は、そんな事をした私を最後まで気味悪がっていた。


 関係の修繕は不可能らしい。


「ふんっ、ロクでもない娘だったな」

「これで顔を見ずにすむと思うとせいせいするわ」


 邪神の生まれ変わりだなんだのと吹聴してまわった罪は、大目に見ておくとしよう。


 向こうにはなくとも、私の中には身内に対する情があったようだ。








 全ての断罪を終えた私は、王子に会って礼を述べる。


「ありがとうございました。これでけじめをつけられました」

「君が前に進む手助けができたならよかった」


 彼は攻略対象の一人で、ヒロインとくっつく可能性のあった人間。


 私が通っていた学園にも、短期間だけど通っていた人だ。


 そして、唯一私の味方になってくれた人。


 処刑台の前に連れてこられた私に、手を差し伸べてくれた人。


 彼がいなかったら、私は今この世にいないだろう。


「これからどうするんだい?」

「分かりません。心にぽっかり穴があいた気分で。当面は無気力になってしまうかもしれませんね」

「だったら」


 王子は、少しだけためらいながら述べた。


「王宮に仕事を用意するから就職してみないかな?」

「考えさせてもらいます。邪神だと言われていた人間を受け入れたとなると、王子様の評判もあがりますしね」

「そういう意味で言ったわけではないんだけどね」


 困ったように頬を書く王子に、真意を訪ねる勇気はなかった。


 私はあまりにも多くの人間の悪意にさらされすぎた。


 誰かに期待する事に疲れてしまったのだ。







 王子に背を向けて、その場から去る時、声がかかった。


「これまで苦しい思いをしてきた分、これからは幸せに生きられる事を願っているよ」


 あたたかい声音だった。


 その言葉に裏はなく、善意しか感じられなかった。


「ありがとうございます。ーー本当に」


 断罪を終えた後、私の人生は本当の意味でここから始まるのかもしれない。


 王子の誘いを前向きに考えてもいいような気が、少しだけしてくる。


 そう思うと少しだけ、未来に希望が持てる気がした。


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私の断罪に関わった人達を順番に殴り倒していくだけの話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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