第20話 悲しき現実①

 曇り空、降り注ぐ決して止まない大粒の雨。

 

 傘もなしに全身を濡らしたタツキは、ただ目の前の血の海に唖然としていた。

 

「嘘だ、どうしてなんで……なんで……なんで!」

 

 タツキはそう言うと、その場から崩れるように座り込む。雨で濡れた髪をかきあげ、その黒い瞳を揺らした。

 

 ※ ※ ※

 

 事が起きる数時間前。

 

 複合された疑神の討伐隊に組み込まれたタツキ達は、傷が完全に治癒した日に、会議室で話し合っていた。

 

「隊長、俺たちは異形の疑神の情報収集をすればいいのか?」

 

 いつもと変わりなく、冷たいオーラを出して言う宮崎みやざき

 

「はいはいー! じゃあ! まずはパトロールで情報収集すればいいんじゃないかなー! と! ディザは思います!」

 

 手を挙げてハキハキと喋るディザ。

 

「俺は別にどっちでもいいな、リーダーの判断に任せる」

 

 腕を組んで四宮の方に視線を向ける三澤みさわ

 

「うーん、じゃあ意見の上がったディザの案で行こうかな? 皆はどう?」

 

「「「異論なし」」」

 

 四宮の言葉に部隊メンバーは、言葉を揃えた。

 

 そして、パトロールをするメンバーは、タツキと三澤、ディザと宮崎になって別れた。

 

 ※ ※ ※

 

「チッ、全然情報が集まりやしねぇな」

 

 ある程度の情報をメモした紙を見つめる宮崎は、ディザと共にありとあらゆる場所を転々と移動していた。

 

「テツヤ〜、ディザ疲れたー」

 

「それもそうだな……コンビニで休憩するか」

 

「やった!」

 

 二人はそう言うと、薄暗い道からコンビニ向かって行った。

 

 ※ ※ ※

 

「た、助けてくれ! こ、殺さないでくれー!」

 

 両足を欠損した男のGIQ隊員が、命乞いをする。

 

 その場は血で塗り固められた死体が、散乱した場所。

 

 命乞いをする男の目の前には、不敵な笑みを浮かべるジロウが居た。

 

「ダメに決まってるだろ? ゲームで主人公がスライムという雑魚敵を狩るのと同じように、俺も雑魚を殺す、それがゲームだ」

 

「子供がいるんだ、息子と嫁がい——」

 

 ジロウは無情にも、男の首を掻っ切った。

 

 そしてまたその場に、血の海ができた。

 

 ※ ※ ※

 

「テツヤ〜、ディザ暑いよ〜」

 

 額から汗をダラダラと流すディザは言うと、宮崎は面倒くさそうな顔になる。

 

「まだコンビニを出て10分も経ってねぇぞ」

 

「ふえぇ」

 

 そういった会話をしながらパトロールをしていると、彼女は何かを思い出したかのように、

 

「あ、そういえば」

 

「あん?」

 

 少し怪訝けげんそうな顔つきで言う宮崎に、ディザはある事を彼に聞いた。

 

「テツヤはさ? もうタツキの入隊を認めたの?」

 

 彼女のその発言に宮崎は顔を変えずに、その問いかけにこう答えた。

 

「まぁ多少はな? アイツと初めて出会った時はただのガキだと思ってた。

 でも、アイツには何かを突き通す信念がある。俺はアイツのそういう所が気に入っている……」

 

 いつもとは違ったオーラを醸し出す彼に、ディザはニヤリと笑い、宮崎をからかうような表情になる。

 

「へぇー、そうなんだ〜! ぷぷぷー」

 

「ディザ、お前、張り倒すぞ? あと俺が今さっき言った事、タツキには言うなよ?」

 

 おちょくるような顔をしているディザにそう言うと、彼女は「分かった分かった」と軽く言った。

 

「あんまり信用ができない言い方だな」

 

「えぇー、ディザを信用できない、て酷くない?」

 

 そんな話をしながらパトロールをしていると、光があまりの通らない薄暗い道に着く。

 

 そこは人通りが少ない路地裏だった。

 

 宮崎は近くに居た一人のホームレスの老人に、シンヤの顔写真を見せる。

 

「この男に見覚えはないか?」

 

 するとホームレスの老人は、何かを思い出したかのような顔で、

 

「あぁ、その男ならさっき白服の男と一緒にここら辺を通って行ったよ」

 

「——ッ! どこに行ったんだ? 教えてくれ」

 

「そこの路地裏の角を右に曲がって行ったよ」

 

「協力感謝する」

 

「感謝しまーす!」

 

 ディザと宮崎はそうお礼を言うと、ホームレスの老人が言った場所に、走って向かって行った。

 

 ※ ※ ※

  

 ディザ達が路地裏の角を右に曲がると、そこにはシンヤの姿はなかった。

 

 がその代わりに、ホームレスの老人が言っていた白服の男を発見した。

 

「すまない、GIQの者だ。ここらで事情聴取をしていてな、この男を知っているか?」

 

 宮崎はいつものように、シンヤの顔写真を男に見せる。

 

 すると、ロン毛の白服の男は、表情を一つも変えずこう言った。

 

「その男ならさっき、俺の横を通りかかって行ったよ。あとは何も知らないかな」

 

「協力ありがとうございます……」

 

 彼は白服の男にそう言うと、後ろにいたディザに話しかけようと、男を視界から外した。

 

 その時だった。

 

「テツヤ! 避けろ!」

 

 何かに気づいた彼女がそう叫ぶと、宮崎は咄嗟に白服の男の方へ向く。

 

 視線を向けた先には、こちらへ拳銃の銃口を向けている白服の男がいた。

 

「嘘だろ——」

 

 彼がその言葉を吐き捨てた時、男が持っていた銃口から火が吹いた。

 

 放たれた複数の凶弾は、正確に宮崎の頭と脇腹を射抜いた。

 

 解き放たれた銃弾に彼は、その場で後方へ倒れる。

 

「テツヤ……——キサマァァ!!」

 

 凶弾に倒れた宮崎を見たディザは、激昴げきこうし、すぐさま白服の男を攻撃しようとした、その時だった。

 

 男は無言のまま拳銃の銃口を彼女へ向け、軽く引き金を引いた。

 

 再び放たれた銃弾は、ディザの胸部と頭を正確に貫き、彼女は前のめりになって倒れる。

 

「呆気なかったな、弱すぎるなGIQ隊員てのは」

 

 男はそう言って、その場から離れようとする。

 

「待てよ……お前!」

 

「ッ!? おかしいだろ、急所は狙ったはずだ」

 

 ディザの低い声を聞いた彼は、焦りを見せながら、声のした方へ振り向く。

 

 そこには、頭から多量の出血をしているディザが立っていた。

 

「撃たれる寸前に急所の部位だけを疑神化させたんだよ。お前……をディザは許さない」

 

 赤くなった瞳を見せつける彼女は瞬時に、

 

「ディザディザ! パワパワパワー!」

 

 彼女がそう唱えると、地面のコンクリーは幾千の槍のように変わり、それらは男を拘束した。

 

「——ッ!? いない!?」

 

 拘束したと思われていた男の姿が消えていることに、ディザは気づく。

 

「こっちだ、小娘」

 

 すでに彼女の背後に回っていた男は、ディザの後頭部に向けて回し蹴りをする。

 

「ガハッ」

 

 彼女の体は裏路地の建物に激突する。

 

「しぶといな……まぁ人間じゃないもんな俺達は」

 

「黙……れ。ディザはお前を許さない……絶対に!! ディザディザ! プロビデンス!」

 

 そう唱えた時、突如として空は曇り空になると、ポツポツと雨が降り出す。

 

 その時だった。

 

「ッ! まさかお前!」

 

 何かにに気づいた男は言うと、すぐさまその場から離れようとする。

 

「ディザディザ! サンダーソード!」

 

 曇り空から雷鳴が鳴り響いた、次の瞬間、光り輝くいかずちがディザの手元に落ちる。

 

 すると、彼女は両手を疑神化させ、降り注いだ雷を物のように掴み、それを武器として構えた。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「おいおいマジかよ」

 

 驚きのあまり冷や汗をかく男は、懐から軍用のアーミーナイフを取り出す。

 

 ※ ※ ※

 

「急に雨が降ってきたな……雷もすごいし」

 

 コンビニの中で雨宿りしている三澤は言うと、タツキは心配した様子で、

 

「あの二人……大丈夫ですかね……」

 

 すると、それを聞いていた三澤は、少し笑った表情を浮かべ、

 

「大丈夫だ、なんせアイツらああ見えて、結構しっかりしてる所があるからな」

 

「それもそうですね」

 

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人戦凶人 沢田美 @ansaa

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