第19話 再会②

「私の家族から離れてくれないかな? 疑神くん」

 

 仲間の窮地に駆けつけた四宮は、目付きを鋭くさせ言った。

 

 そんな彼女の様子に比例して、疑神はニヤリと口角を上げ、

 

「へぇ〜、君がこの無能なお仲間さん達のリーダーさんかい?」

 

 奴は彼女を煽るように言う。

 

「言葉の使い方には気をつけた方がいい。この光景を見て、何時まで冷静でいられるのか分からないから」

 

 威嚇近い様子で言うと、複合された疑神は、深手を負って動けないタツキに、トドメを刺そうとする。

 

 その時、疑神の体を無数の剣が貫く。

 

「聞こえなかったのかい? 私の家族から離れろ、と」

 

「こ、これは……」

 

 状況の理解ができない疑神は、口から血を流す。

 

 そんな奴に四宮は歩み寄り、両手を疑神化させる。そして、相手の顔面目掛けて、強烈な拳を叩き込んだ。

 

 すると、複合された疑神は、まるで足で蹴られた石のように吹っ飛ばされた。

 

「すまない、君の顔を見ていたらつい血が上ってしまった。

 チョコミント、一つ、君との特訓の中で強くなる近道を教えていなかった。

 それは力の差で負けるならその差を技量で埋めるんだ、それが強くなる近道、だとね」

 

 タツキは切断された両腕を再生し、フラフラとなりながらも立ち上がった。

 

「さて、君には色々と聞きたいことがあってね。

 まず君の名前を聞いておこうかな?」

 

 唐突に出された質問に対し、疑神は鼻で笑う。

 

「そんなの答える意味がな——ッ!?」

 

 複合された疑神の腹部を、巨大な一本の剣が貫く。それは疑神の体内から出てきた様であった。

 

「なるほど咲洲さきしまシンヤか」

 

「どう……して……」

 

 口から吐血する疑神を前に、四宮はつまらなさそうに言う。

 

「私の能力だよ、教えるのも最初で最後だから、教えたって意味無いけど……。

 じゃあもう一つ質問をするけど、君は前、爆破の疑神だったらしいね。でも今は違う姿の疑神、その力はどうやって手に入れたの? もしかして、以前に疑神の力を渡してくれた人がくれた力なのかな?」

 

「そんなの……誰が教えるわけ——がああああああああぁぁぁ」

 

 再びシンヤの体内から鋭く尖った刃が、彼の体をえぐりながら突き出る。

 

 悶絶して、のたうち回る疑神は、体から二本の剣を引き抜く。

 

 すると、大砲の発射口を四宮たちに向ける。

 

「僕を舐めるなあぁぁぁぁ!」

 

 溜められるエネルギーに対し、彼女はそこらへんに落ちていた砂を拾い、それらを宙にばらいた。

 

 その時、撒かれた砂は、煌めく刃へと変わった。

 

 生成された剣の剣先は、攻撃を始めようとする疑神へ向けられる。

 

 そして、疑神のエネルギー弾の発射と同時に、無数の刀剣はエネルギー弾もろともを切り裂き、シンヤの体を深く斬りつけた。

 

 しかし、その攻撃を食らってもなお、疑神は兎の力と爆発の威力を利用し、四宮との間合いを詰める。

 

 身に纏っていた手榴弾を剣へ変え、四宮に向けて刃を振るう。

 

「そんな見え見えの攻撃、誰が当たるとでも?」

 

 彼女はそう言うと、両足を疑神化させる。

 

 そして、突進してくる疑神に、強力な回し蹴りをした。

 

 その蹴りは凄まじいもので、シンヤの体を蹴り飛ばす程だった。

 

「君相手なら私は全身を疑神化しなくても勝てるよ」

 

「黙れ! 僕は! 僕は強いんだ! 強いんだ強いんだ強いんだァ! もういい! この場の全員の味を一気に確認してやる!」

 

 シンヤは雄叫びを上げ、両腕に付いた大砲にエネルギーを集め出す。

 

 その量はとんでもなく、奴の大砲にヒビを入れるほどだった。

 

「そんな……こと……そんな事させない!」

 

 血まみれになっていたタツキは言うと、ブレスレットを強く握り、決意を固めた目をし、四宮達の前に出た。

 

「チョコミント、なにを?」

 

 彼女がその一言を言った時、疑神は限界まで溜めたエネルギー弾を発射する。

 

凶化きょうかァァァァ!」

 

 地を引き裂き、辺りの物を破壊しながら迫り来るエネルギー弾、疑神化したタツキは瞬時に、炎の巨大な盾を作り出す。

 

 ぶつかり合う二つの力、それは強烈な突風と地割れを引き起こし、疑神の攻撃を相殺していく。

 

「さて! どれくらい持つかな! 君は!」


 シンヤは意気揚々いきようようと笑いながら言うと、さらにエネルギー弾の威力を強める。

 

 彼の盾が押し負けられていく。

 

 その時、今にも攻撃を貫かれそうなタツキの脳裏に、裏山の時に聞こえてきた謎の男の声がした。

 

『君はなんだ? その程度なのか? 違うだろう? 私は君を最高の器として作り上げた! 君は傑作品だ! 君は王に相応しい者だよ。

 だから平等の下であの敵を殺せ、いや人間を殲滅しろ!』

 

「うおおおおおォォォォ!」

 

 この時、永遠と燃えていた蒼炎が黒炎に変わる。それは彼の奥に潜む黒々くろぐろとした炎。

 

 その黒炎を纏った時だった。劣勢の立場となっていたタツキが一気に優勢になり、ぶつかり合っていたエネルギー弾を消滅させた。

 

「ッ!? 嘘だ……ッ!」

 

 一瞬の隙を見せた疑神の元に、真っ赤に赤熱した炎の疑神が懐に入る。

 

 複合された疑神は、瞬時に守りに入ろうとした。が、そのスピードに対応しきれず、シンヤは顔に炎の疑神の拳を食らう。

 

「グホッ」

 

 顔面にヒビを入れられた疑神は、遠くの方へぶっ飛んだ。

 

 強烈な打撃を受けたシンヤの口から、多量の血が溢れ出る。

 

「最後に質問するけど……君の後ろには黒幕がいるの?」

 

 瀕死にまで追い詰められた疑神に、四宮は二択のチャンスを奴に言い渡す。答えれば「生きる」答えなければ「死ぬ」その簡単な二択を出した彼女は、

 

「君ももうわかってると思うけど、答えなかったら死ぬよ? どうするの?」

 

 四宮のその声と共に突き出される明確な「死」に対し、疑神は怯えながらも答えようとした時だった。


「おいおい、そうやって瀕死になった奴をまだ追い詰めるとか、どれだけヤバいやつらの集まりなんだよ、GIQ組織てのはよォ」

 

 突如、タツキにとって聞き覚えのある声が、背後から聞こえてきた。

 

 タツキは困惑げになりながらも、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

 そこには黒フードを深く被った男が、立っていた。

 

「久しぶりだなタツキ。俺がお前らの言う黒幕さ」

 

霧崎きりさき……さん……どうして」

 

「霧崎……知り合いなのかい? チョコミント」

 

 状況の理解が追いつかない彼に、そう問いかける。

 

「……はい、会ったのは一回だけですけど……でもなんで……」

 

「疑神くん、君の後ろには黒幕がいて、その黒幕がこの男、てことかい?」

 

「あぁそうさ。この男が黒幕だ……」

 

 やつれた顔をしながら答えるシンヤに、四宮は疑神が嘘をついていないと確信を得る。

 

 能力の反応はなし……だとすれば、この男こそがあの疑神の後ろにいた黒幕……。

 

 突然現れた霧崎に動揺する一同。

 

「俺さあ、まだその疑神に用があるからさー、殺されちゃ困るんだわ。

 だから、持って帰るね!」

 

「何を——ッ!?」

 

 四宮が動き出そうとした瞬間、この場の霧崎以外の体が、動けなくなる程に重くなる。

 

「お前、あまり調子に乗らない方がいいぜ?」

 

 彼は複合された疑神に言って、シンヤに歩み寄る。

 

 そして、疑神の頭目掛けて強烈な蹴りをする。

 

 たったの一撃で疑神を気絶させた彼は、シンヤを担ぎ、その場から霧のように去っていった。

 

 ※

 

 複合された疑神との戦いを終えた四宮は、イノリにある報告をしていた。

 

「四宮……その報告は本当の事か?」

 

 目付きを鋭くさせたイノリはそう言うと、四宮に視線を向ける。

 

「はい、嘘偽りのない報告です」

 

 彼女のその言葉を聞いたイノリは、頭を抱えて、ため息をする。

 

「謎の異形の疑神の出現に、まさか、霧崎が現れるとは。これまた面倒なことに……トホホ」

 

「先生は知っているんですか? その霧崎という男を」

 

 四宮がそう言うと、イノリは難しそうな顔をし、彼女の質問に返答した。

 

「あぁ、霧崎はアーク組織の幹部。そして、五年前の革命戦争を引き起こした張本人の一人……私達上層部の中でも有名な男だよ。まさかこのタイミングで現れるなんて。

 仕方ない緊急会議だ、私の部に所属している部隊リーダーを全員召集させろ」

 

 イノリは隣にいた秘書にそう命令すると、すぐさま緊急会議の準備に取り掛かった。

 

 ※ ※ ※

 

 一筋の光も通さない暗い部屋で。

 

 白服の男は携帯のライトを使いながら、シンヤの傷の手当てをしていた。

 

 手当てを終え、救急箱の蓋を閉める。

 

「……霧崎、どうしてお前はGIQのヤツらに自分の正体を明かした?!」

 

 白服の男はボロボロのソファーで横たわっている霧崎に、強く言い寄った。

 

 すると、彼はさも当然のことをしたかのように、

 

「ジロウ、もし俺が正体を明かさなかったら、そいつ死んでたぜ?」

 

「チッ、もうこっちには人口疑神液じんこうぎしんえきはとっくにない……GIQはもう霧崎お前と俺たちの抹殺に動こうとしてる頃だろう……仕方ない俺も動くとするか」

 

 ジロウはそう言うと、霧崎とシンヤを置いてその場を後にした。


 ※ ※ ※

 

 重症を負ったアイの治療が終わった頃。

 彼女がベットに寝ている間、タツキはアイの手を強く握っていた。

 

 そんな時、病室の扉が開き、医師が部屋に入ってくる。

 

「いやー、すごいね彼女は」

 

 医師はそう言いながら、傷の診断書を確認していく。

 

「どういう事ですか?」

 

 彼のその問いに医師はこう答えた。

 

「異常なんだよ、普通あの傷と出血量じゃ普通の人間でも死んでいる。でも彼女は違う、凄まじい回復能力を持っている、これは凄いことだよ」

 

「そうですか……アイはいつ目覚めるんですか?」

 

 タツキがそう聞くと、医師は難しそうな顔になる。

 

「それはまだわからないね、今は昏睡状態としか言いようがない」

 

「もう一つ聞きたいんですけど。アイの失った目と腕、足はどうなるんですか……」

 

 彼女の辛い現実を察しながらも、タツキは医師に聞いた。

 

 すると、思っていた通り医者は、

 

「義眼、義手、義足になるだろうね」

 

「……そうですか」

 

 それを聞かされたタツキの脳内に、アイと初めて大雨の日に路地裏で出会ったことを思い出す。

 

 ※ ※ ※

 

 複合された疑神との戦い終え、ゴールデンウィークが過ぎた二日後。

 

 宮崎みやざきたちが、次に目覚めた場所はGIQの管理する病院の病室だった。

 

「皆さん、ようやく目が覚めたんですね」

 

 タツキがそう言うと、

 

「たく、うるせぇよ。頭がガンガンするから大声出すな」

 

 宮崎は体を起こし、タツキを睨みつけながら言った。すると、隣で眠っていたディザが、

 

「ディザ頭痛い」

 

 と包帯が巻かれた頭を抑えながら言う。

 

「まぁ全員無事で良かった」

 

 三澤みさわは全身包帯まみれの状態で、安心したように呟いた。

 

 その時、病室の扉が開き、そこから四宮が入ってきた。

 

「やぁ皆、目が覚めて何よりだよ」

 

「隊長!」

 

「リーダー! おかえり!」

 

 久々の隊長との再会に、歓喜する三澤とディザ。

 

「こらこらあんまり大声出さないよ。体に響くでしょ? ……ごめんね、すぐに駆けつけられなくて……」

 

 彼女は複合された疑神との戦いに、すぐに駆けつけることが出来なかった事を彼らに、頭を下げて謝った。

 

「ケッ、隊長、そんな事でいちいち謝らなくていいですよ。

 俺たちがボコボコにやられたのは俺達が弱かったからだ。

 だから顔を上げてくれ」

 

 宮崎がそう言うと、その周りにいたメンバー達もコクリと首を縦に振った。

 

「リーダーとして弱いところを見せてしまったね。でも本当に皆が無事で良かったよ」

 

 四宮はいつも通りの様子になると、突然目付きを変えた。

 

「負傷している君たちに言いづらいことなんだけど……一ヶ月後、私達はある討伐隊に組み込まれた。

 それは昨日戦った異形の疑神の討伐……いいね?」

 

「「「了解」」」

 

「あの、宮崎さん一つだけ聞いていいですか?」

 

「あぁ?」

 

 タツキは宮崎にそう言って、ある事を聞く。

 

「どうして、僕が危機的な状況になっている時に、あんなに早く駆けつける事が出来たんですか?」

 

 彼の質問にディザは手を挙げ、笑顔でこう答えた。

 

「それはね! GIQの特注の発信機と盗聴器が備わった機械を付けてたからなんだよ! だってね、だってね! ここ最近タツキはやたらと変な奴から狙われているから、皆で、よし監視しよう! てなって、そのハイスペック機械をタツキの隊員服に付けたんだ! そうだもんね! みんな!」

 

「えぇ……」

 

「ディザ! テメェ!」

 

 宮崎は頬を赤くしながら、負傷した体で彼女に襲いかかろうとする。

 

 そんな彼をタツキ達は止めに入るのだった。

 

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