第18話 再会①

 立ち並んでいた住宅街の瓦礫が散乱した地で、タツキは必死にアイの名を呼んでいた。

 

「アイ! しっかりしてくれ! アイ!!」

 

 顔の半分の疑神化が解けていた彼は、その目から涙を流していた。

 

 タツキの目に映る彼女の姿は、頭から多量の血を流し、左目には瓦礫となった建材鉄棒けんざいてつぼうが刺さっており、右腕と左足が欠損していた。

 

 ピクリとも動かなくなったアイに、タツキは焦りながらも、心臓や息をしているかを確認した。

 

 胸の奥の方から微かに聞こえてくる鼓動の音と、口の方から感じ取れた呼吸。

 

 一瞬の希望を感じたタツキは、彼女を抱え、病院へ向かおうとした時だった。

 

「それはダメだよォー、まだ「味」が分からないのに」

 

「ッ!」

 

 その聞き覚えのある声は、爆破の疑神が発していた声と姿を連想させるものだった。

 

「どうして……」

 

「どうして僕がこんな醜い姿になったか、て? 僕はある人から体を改造してもらったんだよ。だからこんなにも醜い姿になったわけ」

 

「クッ」

 

 タツキは無謀ながらも、その場から逃げようとした。

 

「逃げちゃダメだって言ったじゃんか」

 

 複合された疑神は言うと、大砲からエネルギーを溜める。

 

 その時だった。

 

「おい、どうしてお前がジュウゾウの大砲を身に付けてやがるんだよ」

 

「「ッ!」」

 

 突然聞こえてきた声と共に現れた強靭な刃。

 

 その刃はエネルギーをチャージしている腕を、切断する。その時、タツキの前にある男が現れた。

 

 そこには鋭い目つきで、疑神を睨みつける宮崎みやざきがいた。

 

「……タツキ、その女を連れて早く病院に行ってこい」

 

「どうして……分かりました、ここはお願いします……」

 

 タツキは疑神化を解き、その場から去っていった。

 

「そう易々やすやすと獲物を逃すとでも?」

 

 疑神は自身のその兎の脚力で、この場から逃げるタツキを狙おうとする。

 

 しかし、その時、疑神の太ももを銃弾が貫く。

 

 複合された疑神は、銃弾が飛んできた方向へ視線を向けると、そこにはビルの屋上で、スナイパーライフルを構えた三澤みさわが居た。

 

「こりゃまた、へんな疑神が現れやがって」

 

「へぇ〜、まだお仲間さんがいたんだ〜」

 

 この場からタツキが立ち去った戦場に、もう一人のGIQ隊員が駆けつける。

 

「皆、早いよ〜」

 

 それはGIQ隊服を着た、ゼェゼェと息を漏らすディザだった。

 

「みんな〜、行くよぉ〜。ディザディザ〜パワ〜!」

 

 瓦礫だらけの更地に、巨大な円形状の壁が宮崎達を覆うように現れる。

 

 ※ ※ ※

 

 意識不明の重体でストレッチャーに乗って、集中治療室に運ばれるアイに、タツキは必死に声をかける。

 

 しかし、治療室の目の前まで来ると、看護師に引き止められる。

 

「どうして……どうして……どうして!」

 

 彼はその場で座り込むと、大粒の涙を流した。そして、タツキの目の奥に、ドス黒い何かが宿る。

 

 ※ ※ ※

 

 四宮隊の隊員たちと疑神が殺し合う戦場で、複合された疑神は、大砲の発射口からエネルギー弾を発射する。

 

 それは宮崎とディザに向けられた攻撃だった。

 

 しかし、ディザ達はその攻撃を紙一重で避け切ると、宮崎は疑神の懐まで接近する。

 

 だが、複合された疑神は、頬まで避けた口でニヤリと笑う。

 

 そんな奴の様子を無視し、宮崎は持っていた鎌を勢い良く振り下ろす。

 

 その時、疑神は身につけていた手榴弾を爆発させ、彼の攻撃を弾き返す。

 

「強いねぇ君」

 

 疑神はそう言うと、兎の脚力を利用して、宮崎との距離をとる。

 

「うるせぇ、このゴミカス野郎が」

 

 ゴミを見るような目で宮崎は言うと、臨戦態勢に入った。

 

「君は口が悪いねぇ、人生つまんないでしょ?」

 

「何言ってんだお前、最高に決まってんじゃねぇか。人生は自分が最高だと決めたら最高になんだよ」

 

「とんだ暴論だね、でも嫌いじゃない」

 

「あっそ、とにかく死んでろ」

 

 宮崎は俊敏な速さで疑神の元まで近づくと、器用な戦い方で攻め続ける。

 

 それは彼の一方的な攻撃に見えた。

 

 が、疑神は何かを企むような表情を浮かべる。

 

 しかし、そんことを知らない宮崎は鎌を巧みに操りながら、次々と猛攻を仕掛けていく。

 

 その時だった。

 

「宮崎ィ! 避けろ!」

 

 何かの異変に気づいた三澤がそう叫ぶ。

 

 すると、複合された疑神は、自身が身にまとっていた手榴弾全てを爆破させた。

 

 異変に気づくことが出来なかった彼が、疑神の爆破の影響を受ける寸前。

 

「ディザディザガード!」

 

 彼女がそう唱えた時、石壁の天井から無数の巨大な石が、疑神と宮崎の間に割ってはいる。

 

 しかし、頑丈な石壁の守備力をもってしても、相手の攻撃は完全に防ぐことは出来なかった。

 

 よって、宮崎は多大な爆破による傷を受けてしまった。

 

「クソ……が……ダメージがデカすぎんだろ……」

 

 足や腕に深手を負った宮崎は、その場で座り込み、身動きができない状態になる。

 

 一方、全身爆発させた疑神は、何の外傷もなく、ただ彼が苦しむ様をニヤリと笑いながら眺めていた。

 

「弱いねぇ、弱すぎる。そんなんじゃ僕に傷一つ、いや、攻撃すら出来ないよ……まぁいいや、味確認としようかな」

 

 疑神は圧倒的なスピードで、宮崎の間合いを取ると、強靭な攻撃で仕留めようとする。

 

「ディザディザ! パワパワパワー!!」

 

 そう唱えると、地面のコンクリートが槍のように変わり、疑神を貫いて拘束した。

 

「その技はもう知っているよ?」

 

 奴はつまらなさそうに言うと、再び全身を爆発し、拘束していた槍を吹き飛ばした。

 

 すると、閃光のような速さでディザの背後に回り、彼女の顔面を鷲掴わしづかみみにし、勢い良く地面へと叩きつけた。

 

「ゲホッ」

 

 ディザは勢いのあまりに吐血する。

 

 次々に倒れていく仲間を見ていた三澤は、急いでライフルに弾を込める。

 

 が、それを見逃さなかった疑神は、瞬足で三澤の元へ詰め寄ると、ビルごと彼を叩きつけた。

 

 ビルは倒壊し、散っていく血と土煙。

 

 更地となった戦場には、意識不明の重体の三澤と、深手を負って動くことができないディザと宮崎。

 

 そんな絶望的な状況で、疑神は彼らにトドメを刺そうとする。

 

 エネルギーが充填されていく中、宮崎達は死を覚悟した。

 

 その時だった。

 

「——ッ!?」

 

 複合された疑神の腕が、何者かによって切断される。

 

「もう……これ以上みんなを傷つけさせない!」

 

 仲間たちの悪夢のような状況下で現れたのは、絶対的な殺意をかもし出した様子のタツキだった。

 

「あれぇ? 戻ってきたんだ〜。それでどうしたの? 君の〜彼女さん? 死んだ?」

 

 嘲笑うかのような顔をする疑神に対し、タツキは「殺意」という異彩を放ちながら、

 

「黙れ。お前に話すことは何も無い、僕は絶対にアンタを許さない!」

 

 鋭い剣幕で言うタツキは、対疑神用武器の剣を持つと、両足を疑神化させ、相手の間合いを縮める。

 

「へぇ〜、前よりすごく技量が増してるじゃないか。君が死んだ時の味が楽しみだ!」

 

「黙れぇぇ!!」

 

 タツキはそう叫ぶと、疑神の脳天目掛けて剣を振り下ろす。

 

 しかし、彼の数倍の速さを持った疑神は、容易くタツキの攻撃をかわすと、彼の体に向けて強烈な蹴りを入れる。

 

 まるで体の中の内蔵が破裂した様な痛みと共に、彼の体は大きく後方へ蹴り飛ばされる。

 

「ゲホッゲホッ」

 

 口から血を吐き出すタツキ。

 

「やっぱり人間の状態だと、君、大した事ないよ。まぁ君が疑神化したところで僕に勝てないけど」

 

 手榴弾を剣へ変え、動くことができないタツキの元に歩み寄る。

 

 体の中の痛みで立ち上がることが出来ない彼の脳裏に、生死の狭間をさまよっているアイの姿を思い出す。

 

「勝てない? だからなんだ。そんなのやってみなくちゃ分からない結果だろ。

 今は勝敗なんてどうでもいい、まずはアンタを一発ぶん殴ることが僕の思念だ」

 

 タツキはボロボロになった体を起き上がらせると、ふらつきながらも覚悟を決めた。

 

「うおおおおぉ! 凶化きょうかァァァ!」

 

 辺り一体に獄炎の火柱が立ち並ぶと、永遠の灼熱の炎はタツキを包み込む。

 

 疑神化に成功したタツキは、纏っていた炎を打ち払い、雄叫びを上げると同時に、蒼炎の炎を全身に身に付けた。

 

「またこうやって拳を交える時が来るなんてね」

 

 複合された疑神はそう言うと、すぐさま戦闘態勢に入った。

 

 その瞬間だった。

 

「——ッ!?」

 

 火花を散らし閃光のような速さで、相手の死角を取ったタツキは、手のひらに炎を集中させ、複合された疑神へ目掛けて青い炎を放った。

 

 その威力は凄まじく、軽くタツキの体を吹き飛ばす程だった。

 

 しかし、彼は獄炎の火の中にいる疑神に向けて、拳に蒼い炎を纏わせ、全力の一撃を叩き込んだ。

 

 あまりのエネルギー消費をしたタツキは、その場に座り込み、咳き込む。

 

 霞んでいく視界の中、彼は炎に包まれた疑神を確認する。

 

「素晴らしい! 素晴らしいよ! 君のその力は! ……でも僕には一つの傷もないけど」

 

 奴はまとわりついていた炎を振り払う、そこには五体満足で立っている疑神が居た。

 

 複合された疑神が不敵な笑みを浮かべた次の瞬間、炎の疑神以上の速さで、タツキとの間合いを詰める。

 

 そして、溜めていたエネルギー弾を、彼に向けて発射し、タツキの体を吹き飛ばした。

 

「ガハッ」

 

 瓦礫の壁に強く打ち付けられた炎の疑神は、頬まで裂けた口から吐血する。

 

「本当に君は頑丈だね、どうなってるの? その体」

 

 複合された疑神は立ち上がろうとしているタツキの両腕を、形成した剣で切断する。

 

「がああああああああああああぁぁ!」

 

 千度に熱したナイフを体の中に入れられた様な熱さが、彼を襲う。

 

「でもそんな丈夫な体だとしても、心臓を貫かれれば死ぬ。さて、君の味の確認といこうか」

 

 複合された疑神は、疑神の急所である心臓を貫こうとする。

 

 その時だった。

 

「ずいぶんと待たせてしまったね、チョコミント」

 

「「ッ!?」」

 

 タツキの心臓を貫こうとしている疑神の前に、聞き覚えのある声を発する者が現れる。

 

 そこには赤い軍服を身にまとい、黒い眼帯をした、可憐な容姿をした四宮が立っていた。

 

「私の家族から離れてくれないかな? 疑神くん」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る