40日目 妖怪雨坊主とニコニコ「史たん」

 全身濡れ鼠の体で、ボクが帰宅を果たした頃には周囲は宵闇に包まれていた。


 えーっと、どうも、妖怪雨坊主こと、「おとたん」です。

 カッパを完全装備していたのに、濡れ鼠とはこれ如何に?

 もう、途中からほとんど前が見えておりませんでした。

 メガネのうちにたまった水滴は、果たして雨なのか?汗なのか?

 あ、そんな考察どうでもいいですか、すみません。


 さてさて、そんなこんなで、何とか生きて帰宅したボクでしたが、玄関を開けた先で待っていたのは、、、ニコニコ「史たん」でした!

 え?そんなにボクの生還が嬉しいの?

 何て健気な子なんでしょう!(泣)

 え?違う?

 違うのっ???


 まぁ、そんな心の中のコントはさておき、玄関先にお出迎えに来てくれた「史たん」はその日、何故かニコニコだった。

 本当にお目目が少し上に弓なりの線になり、ふくふくのほっぺは持ち上がり、小さなお口が下に弓なりになっている。

 もう見ているだけで幸せになれそうな、そんな表情。

 そう、もうこの表情はニコニコとしか言い表せないような、そんな表情だったのだ。


 と、ここまで読んだ方々は疑問に思っているだろう。

 何故にボクがここまでニコニコを押すのか、その理由に(あー興味がないとか言わないで!)。

 みなさん、そもそも笑顔のやり方ってしっているだろうか?

 そんなの誰でも知っている?

 作り笑いならお手の物?

 え?もう、どうやって笑ったらいいかわからない?(え、えーと、それは、ちょっと、募集してなかったというかなんというか、出来れば現実から逃げて一人になる時間を作るとか、最悪はどこか専門の病院を、、、)


 まぁ、成人の皆さんはその通り、色々とご意見あるでしょうが、実は新生児に限って言えば、表情を作るって、なかなか難しいことみたいなんですよ。

 そもそも微笑む、みたいな表情は生まれた頃からできていました。

 目を細める感じで、遠くを見てるみたいな(それはそれですっごく可愛いんですが)。

 ただ、それ以外だと無表情か、泣き顔かみたいな感じで今一表情というものがなかったというのが実は最近までのこと。

 その微笑む、だって、言ってしまえば眩しくって目を細めている、というのと変わらない表情(実際その通りだっただろうけど)な訳で、なにかに対して明確に笑顔ってのはなかったんですよ。

 ところがどっこい、最近になってようやっと、微笑みがニコニコにランクアップしてきたわけなんですよ!

 もう明らかにまぶしそうな表情ではなく、笑っている!に(ただ、それはすっごく悲しいことに「おとたん」にむけられることはなかったわけで。まぁ、仕方ないよね、母親が一番だもの。そういうものだもの。)

 

 という流れがっての今日。

 ボクが玄関を開けて、靴を脱ぎ散らかしていると、

 

 『おかり~』

 

 といういつもの気だるげな掛け声とともに、「おかたん」が登場。

 当然セットで「史たん」も玄関に。

 ただ、その表情はいつも通り


 『こいつ誰だ?』


 という、虫を見るかのような(いや流石にそこまでではないと、信じたいが)もの(お目目は、お目目は可愛いんだが・・・)。

 そんな表情だったのに、ふと「おかたん」がほっぺをぷにぷにすると、、、


 なんだと?


 あっという間に目が消えた。

 あ、いや語弊が。

 何と言うか、満月が急に眉月になるとでもいえばいいのだろうか?

 ぷにぷにされた口角は徐に上がり、それに押しやられてぷるんぷるんのほっぺも重そうに上へ。

 そして、くりくりのお目目がすっと眉月の形へ、いや、もう新月といっても過言ではない(それだと目がつぶれてるって?いやだって本当にないのよ?)まで細くなる「史たん」。

 これは笑顔でしょう。

 誰が何といおうと。


 そんな表情でお出迎えされたら、そらぁもう、「おとたん」頑張っちゃいますよ!

 びしょ濡れ?

 そんなもの知ったことか!

 ご飯でも何でも作らせていただきますとも!

 え?風呂先やれ?

 はい、その通りですよね。


 まぁ、つまりは人は成長するものというわけで。

 生後、なかなか表情というものが出てこなかった子が、表情一つを出せるようになるだけで、あー凄いなぁと思ったり思わなかったり。

 それでも反射や鳴き声ではなく、感情に準じてというのはまだまだ先(いや、「おかたん」に見せる表情は明らかに、、、見てない見てない、そんなもの見てない)なんだろうけどね。

 早く、ボクに笑いかけてほしいなぁと思いながら、ボクはお風呂掃除に向かうのでした。


 あーただ、後日談になりますが、お腹とか足とかをくすぐると、この時のニコニコ顔をボクにも向けてくれることが判明しました。

 だからきっと、本人の中ではこれが笑顔なのでしょう。

 凄く表現が難しいけど、不細工なのにとてもキュートというか。

 正面から見るとホントそんな感じ。

 あーもうどういったら分かるかなー?暴言じゃないのよ、これは。

 じゃぁ、もう、皆さん、自分で思うすごく可愛い赤ちゃんを想像して!

 ほっぺぷにぷに、お目目真ん丸、全体的に丸みを帯びていて、頭はちょっと禿ちゃびん。

 できた?

 じゃぁ、それをあと2段階可愛くして!

 そんで目を閉じさせて、ほっぺをしたからぎゅっと潰しながら押し上げて!

 はい、それが「史たん」の笑顔です!

 え?親ばか?親ばかじゃないよ?

 このニコニコの破壊力を本当体験してもらいたいよ、マジで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る