38日目:おとたん撃沈

 季節は6月。

 梅雨入り直後とは思えないほど、いい天気が続いている今日この頃。

 皆様いかがお過ごしだろうか?

 いい天気は続いているが、植物たちはちゃんと季節をわきまえているようで、お家の周りには色とりどりのアジサイが咲き誇っています。

 青に紫、ピンクなんてのもちらほら。

 「史たん」とお散歩したらさぞや楽しかろうね。

 その時は嫌がらずに付き合ってね。


 ・・・え?なんで手紙形式かって?

 そらぁね、ボクお熱の子やねん。

 出禁(出入りじゃなくて、外出の方ね)状態になること早二日。

 正直メンタルは大分ボロボロです。

 どうやら転職してからこっち、腰痛を堪え、心の持ちようを騙し騙しで、何とかやってきた体がとうとう限界を迎えたらしい。


 その朝、目覚めたボクは、体の芯のだるさと、酩酊感に襲われた。

 普段からの腰の疼きを更に気持ち悪くした感じのだるさで、起き上がろうにも気力はほぼゼロ。

 筋肉痛になる前の身体の痛痒感をひどくした感じといえばわかるだろうか?

 だが、思い返してみても、昨日は運動脳の字も、いや、そも勤め人にそんな運動をするような気力はない(←私見です)。

 それに寝相だっていい方で、見渡してみても敷布に大した乱れはない。

 というか、ボクの寝相は普段からかなりいい方で朝起きても、寝た時の状態に近い形で起きることが多い。

 それは「おかたん」とまだ恋人だった頃から実証されており、当時は部屋も狭く、半回転したら落ちるようなシングルベットに二人でくっついて寝ていたのだが、そんな状態だって落ちたのはたったの一度きりであったほどだ。

 まぁ、その一度きり時に


『(ゴロっっっドスン)ってぇ』

『もう、何?(そう言って半目も明けないままに、落ちかけた掛布を引っ張り上げてくるまる)』

『・・・ぃや、あの少しは心配、、、』

『ZZZ』 


 なんて「おかたん」は心配するそぶりすら見せず、普通に起きたと思っていたらしいくらいには、寝相がいいのだ(あ、いや根には持ってないよ?ただ、その一回がとても鮮明な思い出になっているというだけの、ボクの心の中にしまっておく秘密の話なだけでさ。)。

 その上、腰痛を患ってからは、寝返りの度に痛くて半覚醒してしまうこともあり、寝返りをしたのは大体把握できている。

 それからすると、昨晩の寝返りは大きいものでざっと4回。

 その度に「史たん」の泣き声を聞いて、ヘルプにいったりいかなかったりしていたから・・・あれ?ボク寝れてる?

 まぁ、そんなことは置いておいて、見返した寝具もいつも通り大した乱れもなくそこにある。

 結論、きっと疲れているだけなんだろうなぁと、思い直し、特に深くは考えず、重い殻を引きずりつつ、朝食の準備に取り掛かった。


 

 それから、3時間。


『寒い。』


 ボクは一人そうごちている。

 ここは炎天下の水処理水槽脇の通路である。

 当然吹きっさらしの屋外だが、ボクが何をやっているかというと、一生懸命機械にお手製のラベルを括り付けているところである。

 え?何をしてるのかって?仕事だよ仕事。

 よくわからないが、地方公〇員ってやつは国から補助金をもらって、地方の税金とがっちゃんこして、工事を業者にお願いするらしいのだが、それがちゃんと適正に行われているかを国からお偉いさんが来てみるんだと。

 その時、新しいものだよ~ってのがわかるように、ラベルを張って来いってことらしい。

 新しいも何も、ボクにはよくわからんが。

 そして季節は6月。

 前に戻るが、炎天下の屋外はもちろん寒い、、、訳がない。

 梅雨らしからぬ陽光は、地表をじりじりとあぶり続けている。

 いかな東北の地方都市とはいえ、これで寒いと感じたら頭がおかしい。

 そう!ボクは頭がおかしいのである。

 いやーやべーかなーとは思っていたのよ、実際。

 この作業はいつもの執務場所から、大体40㎞程離れた別の処理場でやっているのだが、執務場所からここに移動すまでの道中、あまりの体調の悪さに薬局に寄って体温計を購入していたボク。

 先見の明があるのかわからんが、そいつでこっそり測ってみてびっくり!

 まさかの、38.6℃。

 こらー完全にやられてますわ。

 もうね、立っているのもつらいのよ。

 でもやらないとっていう使命感?から、何とか手だけは動かしている、そんな感じなのである。

 いや、正直に言おう、ボクはこういう時、


『せんせぇ!具合が悪いです!』

 

 って言えない子なのだ。

 前職で社畜根性を刷り込まれた所為かわからんが、予定していた仕事を人にお願いするのが極度に苦手で、なんとしてでも自分で頑張ろうとしてしまう。

 結果こんな窮地に立ってしまっているのだが、、、「史たん」よ、マジでこういうところ似るんじゃないぞ?

 できないことはできない、そう言える大人になるのはほんとに大事だからな!


 とまぁ、そんなこんなで、結局、寒い寒いと言いながら、出張もなんとかこなし、一日を無事に終えたボクはふらふらの体で、我が家に帰宅した。

 まさかこのあとあんなにひどい仕打ちを受けるとは夢にも思わずに。


 それはボクが、


『ただいま~』


 と、元気なく帰ってきた時から始まった。

 その時「おかたん」は、元気のないボクに気づく訳もなく、リビングで「史たん」にのんびりぱいをやりながら


『おかえり~』


 と返してきていた。

 当然、目はテレビである。

 着替えをし、「おかたん」のあーだこーだを小耳に聞き流しながら、とある準備を始めるボク。

 ごそごそとやりながら、


『あーなんか今日は疲れたから、こっち(倉庫と化した客室を指さしながら)で寝るわ~』


 そう言って、寝室から布団を移動し始める。

 この家に来ての初めてのボクの暴挙に「おかたん」もようやく異常事態を察したのであろう、とことこと小動物が餌付けられるために来るようなしぐさでやってくる。


『え?どーしたの?』


 それに対するボクの答えはもちろん


『いや、別に?』


 である。

 いや、正直、人間は38℃を超えたくらいが…(これは前にも書いているので割愛する)という訳で、思考は正常、体は快調であるが、もしかしたら「史たん」に移ってしまうことも百に一、いや、万に一あるかもしれないわけで、これはその予防策である。

 人間、寝てりゃ治るんだから、うん。

 そんなことを考えていると、、、


『もしかして、具合悪いんじゃないの?』

『(んなっ!)』


 思わず目を向いてしまったボク。

 まさか「おかたん」の灰色の脳細胞が、ボクの完全犯罪を見抜く、だと?

 そんなボクの驚愕はどこ吹く風、訝しげな眼をしながら、


『ちょっと、お熱測って!』


 と体温計を取りに行こうとする「おかたん」。

 ふっ、なんという愚か者か。

 そんなものなくても38℃を超えていることくらい既に分かっているというのに。

 だから、「おとたん」はどや顔で言ってやることにした。


『いらないよ、そんなもん、まだたったの8℃6部なんだから。寝てりゃ治る。』


 そう言ってやった瞬間の「おかたん」の顔ときたら、まぁ、面白いものであった。

 お目目をぱっちり見開き、まさにハトが豆鉄砲を食らったといった表情である。くるっぽー

 だが、その直後、急に表情を消し、おもむろにスマホを取り出す「おかたん」。 

 寝床を整え、ご飯の準備をしようとすると、、、


『ここ、行ってきなさい。』


 の一言。

 

『え?でもご飯が、、、』


 そんな抵抗の言葉を口にしつつ、何だ何だと思スマホを覗く。

 その画面には大きく〇〇内科の文字。

 ま、まさか、この「おとたん」に病院に行けと??

 病院嫌いで有名な「おとたん」を捕まえて?

 馬鹿にするのも大概にしてもらいたい!

 お熱ごときで病院なんて言ったら、親にどんな顔をして、、、と口を開きかけたボクであったが、


『いいから、行、っ、て、き、て。』


 その「おかたん」の目力には対抗する術を持たなかった。

 これがいわゆる有無を言わさぬ圧力というやつか?

 こんな屈辱が許されていいものなのだろうか?

 病院に行くだなんてこんなこんな・・・


 そんな訳で、「史たん」よ。

 「おとたん」は遠く離れた隣の部屋から、君に脳内でお手紙を出しているのです。

 病院って怖い。

 寝てれば治るのに何でいかなきゃいけないの?

 自分で運転して病院に行くのなんて、もうこれは自分で自分に引導を渡すようなものじゃないか!

 それにさ、そんな状態だって、ご飯は作った、お風呂もやった、後片付けだってやったった。

 ここまでやればもう健常者じゃね?そうだよね?

 でも、どうやらそれでもだめらしいのです。

 そして、こんなお手紙は誰も受け取ってくれず、消えていくのも知っている。

 そうだよね、君は「おかたん」の味方だよね。

 くすん。

 こうして、新居での初病床の夜は過ぎていくのだった。

 

 え?ひどい仕打ちはなんだって?

 そらぁ、病院に強制的に行かされたことに決まっているじゃぁありませんか!(←おバカ)

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