32日目:百日祝い(ももかいわい)①

 さて、ここで皆さんに質問がある。

 みなさんは『ももかいわい』という言葉に心当たりがあるだろうか?


 なんか可愛いね?って?

 

 そうね、女の子名前みたいだもんね?


 え?美味しそう?って?


 まぁ、桃だからね。


・・・


・・



 って違ぁう!


 『ももか』ってのは『百日』と書き、何でも新生児の生後100日目を記念して行われる儀式なんだと!


 え?ボク?そんなのもちろん、心当たりなんてないよ。

 そもそも自分はやったっけ?という記憶の片隅にもないレベル。

 まぁ、それはしょうがない。

 だって、新生児だもん。


 とまぁ、ボクの記憶なんてどうでもいいわけで、今回はその百日祝いについて書きたいと思う。

 そう、もちろん主役は「おかたん」と「史たん」である。


 そもそも、ボクなんかの記憶よりも、日がな我が子のためだけを思い、色々なググり、、、もとい、調べものに血道を開けている「おかたん」である。

 そんな相方がやりたいというんだから、やらせてあげるのが男ってもんな訳で。

 出来た旦那さんこと、ボク=「おとたん」は当然、男を魅せてやる訳なのである。


 というわけで、百日祝いの話に戻ろう。

 文献(w〇k〇ped〇a+「おかた」ペディア)によると、子供の歯が生え始めるといわれる生後100日を目途に行うお祝いであり、演目はお食い初めと歯がための儀式を行うのだそうだ。

 具体的な儀式の内容は、

 1、お食い初め

 一汁三菜(赤飯、焼き物、煮物、お吸い物)を準備し、それぞれを新生児の口に当てて食べる真似をさせるというもの。

 当然、「史たん」はちびっこなので食べれません。

 あくまでふりをして、この子が将来食べ物で困らないようにという、願を掛ける儀式とのこと。

 もちろん、儀式に使用した品々は後でスタッフがおいしく食させていただきますとも。

 「史たん」?「史たん」はミルクですよ、ミ・ル・ク!

 2、歯がための儀

 これは神社の境内から授かってきた真っ白な石を新生児の歯にあてるというもの。

 簡単だね!

 神社によっては歯がためようの石、なんてものが置いてあったり、なかったりするらしい結構由緒のある儀式みたい。

 因みにこれも、白く丈夫な歯で健康に、食べ物に困らないように、という願を掛けるものであるらしい。


 ボク的には、、、結局、全部食かいな!なんて益体もないことを思ったりもするけれど、まぁ、そこは昔からの儀式ということで否定する気なんてサラサラない。人間は居、食、住さえ揃っていれば、結構幸せに生きれるもんだしね。それ以上を求めるなんて贅沢者のすることさ。職?職、なんていらない、いらない。時間の無駄としか思わんね!(閑話休題)


 さて、そんなこんなで来る百日祝いの日。

 その日は都合よく土曜日であった。

 のだが、都合の悪いことに「おとたん」は予定なし(むしろ、予定なしという非常に重要な予定を入れていたのだが、毎度のことながらそこは聞き届けてはもらえなかった)。

 当然、アッシーとして駆り出される訳で、、、


 何故だろうね?

 普段、料理をしない人に限って、いざやるとなると気合が入るというか、妥協しないというか。

 「おかたん」も例に漏れずそのタイプで、今日も今日とて凝り性が大いに発動しているらしい。

 そのため、料理本にあるレシピを忠実に再現しようとして、食材を是が非でも揃えようとする。

 ボク的には簡単に手に入る材料で似たような味・風味を出せばいいんじゃね?と思うのだが、そんなことを言ったら後が怖い。

 どのくらい後が怖いかというと、以前、珍しくやる気になったらしい「おかたん」に、


『いやいや、これとこれありゃ、もっと簡単にできんじゃん』


 的なことを言ったら、


『レシピ通りじゃないとわからないんだから、良いの!せっかくやる気になっているんだから横からあーだこーだ言わないで!』


 とマジでキレられた過去を持つ。

 結果、ボクとしては、唯々諾々と従うしか手がない。

 まぁ、今回はボクのショッピングアレルギーを知っている「おかたん」が先手を打って、入手難易度が高い鯛などに限ってだが、


『事前予約しているから、大丈夫!』


 とのことなので、信じて付き従うことにする。

 信じる、素晴らしい響きだね。

 ボクだって、信じていたさ、そう、一軒目のスーパーを出るまではね。


 さて、この話をここまで読んでいただいた稀有な読者の方はもうお気づきかもしれないが、「おかたん」という人は用意周到、神算鬼謀のふりをして、その実抜けているところがある。

 いや、ある、ではない、多々ある。

 ただ、まぁ、「おかたん」を弁護するわけではないが、今回ばかりは全面的に「おかたん」が悪いとは言切れない部分もある。

 それは間違いない。

 だが、それでもスーパー回りにさんざん付き合わされたわけなのだから、文句の一つも出てしまうのは仕方がないと思っていただきたい。


 それは出発して、一件目、食材を予約した店に付いて、食材コーナーを物色して回った、その終わりくらいの時に発覚した。

 レシピ用のメモと思われる紙とにらめっこしたり、チェックしたりしていた「おかたん」の動きが止まり、こちらを振り返る。

 惚れた弱みと言われればそれまでだが、その立ち居姿に思わず可愛いな、なんて思ってしまうボクの心情はさておいて、「おかたん」が小首をかしげながら話しかけてくる。


『あのね、今日作るのはおふかしと、焼き物と、煮物と、お吸い物でしょ?で、大体材料は揃ったみたいなんだけど、あと一つ、それがどこにあるかわからないんだよね。「おとたん」わかる?』

『ん?え?何が?』

『だからね、あと一つ足りないの。貝なんだけど、鮮魚コーナーにあったかなぁ?なかった気がするなぁ。』

『そうなの?なんて貝?』

『はまぐり』


 ・・・はまぐり、、、だと?

 それを聞いたボクは急に不安に襲われる。

 まさかまた「おかたん」、やらかしているんじゃなかろうか?と。

 結構この子の捜査網はザルである。

 一生懸命調べるのに、そこ?っていうところが調べ足りていないなんてことは日常茶飯事でありうる。

 そして、そういうのに限って、代替がきかなかったりするんだが、、、どうやら、今回もそのパターンらしい。

 はまぐりは「おかたん」捜査網からまんまと抜け出してしまったようだ。

 というのも、魚介、特に貝類は結構旬に左右されることが多く、ない時はない。それは主婦たるボクにとっては常識といえば常識なのだが、相方はどうやらそうではないらしい。

 慌てて、スマホを開くボク。

 胸元では「史たん」が『へげっへげっ』と楽しそうに揺れている。

 ネット情報では旬に係わらず、年中置かれていることが多い食材であるらしいハマグリ。旬は春先で、5月以降は産卵のため身が細り、味が落ちるそうではあるが、5月は潮干狩りも解禁となる月でもあるため、漁獲量には影響が少ないのだとか。

 ふぅ、どうやら最悪の事態は免れたらしい。

 そう思い鮮魚コーナーに取って返すも、右から左、左から右と見てみても、ない。何度見てもないものはない。

 こちらの焦りを知ってか知らずか、ボクの早いステップにあわせて、早めのビートを刻む「史たん」。

 『へげっへげっ』っと、楽しそうに上下動を繰りかえす。

 あごはやめてね?あごは。


『えっと、もう一軒回る?』


 散々探した挙句、恐る恐る「おかたん」にお伺いを立てるボク。

 答えは、


『できれば、、、』


 ですよね?

 レシピをちらっと盗み見れば、ハマグリのお吸い物、とでかでかと書かれている。

 もう、ハマグリじゃないとダメやん。

 

 ボクは痛む腰にムチ打ちながら、次の店へと車を走らせるのであった。

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