33日目:百日祝い(ももかいわい)②
時は無常だ。
どんなに隆盛を誇った者でも、必ずその勢いは衰え、やがては消えゆく定めなのである。
これは日本の歴史が語る真実であり、真理である。
ああ、諸行無常。
奢れる者は久しからず。
盛者必滅の理をあらわす。
ただ春の夜の夢のごとし。
・・・
・・
・
え?急にどうしたって?
それは世の無常に嘆いていたのさ。
そう、旬という名の無常にね。
さて、話を戻そうか。
ああ、いや違うよ?「おとたん」ことボクの頭がどうかなってしまった訳ではないんだ。
あーんーいや、広義の意味ではそうなってしまったといっても過言ではないのか?
もう考えるのも疲れたよ、パ〇ラッシュ。
ボクがこんな心境になっているのは偏に、ハマグリの所為だといっても過言ではない。
そう、前回に引き続き、未だハマグリを探して彷徨っているというわけなのである。
あれ?旬じゃなくても普通に売ってるんじゃなかったっけ?
前回、腰に鞭打ちつつ、向かった二件目のスーパー。
大して広くない店内を見まわすと、あったあった鮮魚コーナー。
鮮魚か?といいたくなるほどの加工魚のオンパレードではあったが、一縷の望みをかけてぐるっと一周する。
まぁ、ないわな。
『さぁ、「おかたん」よ、元気に次ぎに行ってみよ~』
『お、おー』
『ぷすぅぷすぅ』
こんなテンションで回ること1軒、2軒、、、徐々にボクのテンションがおかしくなり始める。
『あーないな。さ、元気よく次に行ってみよう!』
『あ、あのね、「おとたん」、もうないならないでも、、、』
『バカを言っちゃぁいけない、大事な「史たん」の百日祝いなんだ!手を抜くだなんてあってはならないのだよ、「オカソン君」!」
誰だ?「オカソン君」って?
3軒目。
スーパーの鮮魚売り場はただただ寒々しく、魚なの裸体だけが空しく陳列されているだけであった。
いや、裸体って。
4軒目。
『…』
最早、「史たん」と「おかたん」は車に残し、身軽なボクだけで店内を見て回る。
当然、無言である。
無表情である。
必殺仕事人もかくやというほどの鮮やかな鮮魚コーナーの通り抜けっぷりである。
そして、車に戻ると疲れた顔の「おかたん」がスマホから顔を上げてこちらを見る。
無言で首を振るボク。
それに対して、「おかたん」からまさかの
『もういいから帰ろう。。。』
の一言。
いや、あのね、多分疲れてんのはボクの方なのよ?といいたい気持ちを何とか押し殺しつつ、無言で運転席に座る。
ああ、腰が痛い。
正直、心が折れたかおれていないかと聞かれると、もうボッキボキであった。
何が悲しゅうてせっかくのお休みをただただ魚の裸体を見て回らにゃならんのかと。
けど、男とは不思議なもので、もういいといわれると、逆にもう一軒行ってやろうじゃないかという気にもなる。
なんなんだろうね?
この意地っ張りは。
と、4件目のスーパーから車を出し、国道を走る。
正直、もうスーパーのレパートリーも切れてしまった。
あと、どこにあったかなぁ?なんて思いながら、車は我が家に向かって走り出す。どうやら、ボクも相当帰りたいようだ。
そんな体とは裏腹に、心は、くそぅ、あと一軒、そう思った矢先のこと、ふと目についたのはお家の最寄の小さなスーパー。
今までで一番小さいそのスーパーはどう見たって、品揃えがよさそうには見えない(←超失礼)が、ダメでもともと。
ボクの拙いハンドルワークの車は何かに吸い寄せられるかのように、スムーズに駐車場に。
渾身の力で車から降り、一瞬「おかたん」と視線が交錯する。
暗に
『まだやるの?』
といいたそうな顔であったが、何とか振り切り店内へ。
そこは予想通り、さびれ、、、小さなスーパー。
入って速攻目につく、お買い得と書かれた見切り品のワゴンの脇をすり抜け、奥の鮮魚コーナーへ。
一歩ずつ近づくその足取りは、自分で言うのもなんだけど相当重い。
一歩また一歩と近づくたびに生気を吸われる心地がして、気持ちも重く沈んでくる。
壁際の冷凍魚コーナーではなく、通路中央にある離れの鮮魚スペース。
これまでの経験で、多分あるとしたらここだろうと目星をつけて、その縁から中を一気にのぞき込む。
するとそこには思っていたのとは全く違うかなりちゃんとめの鮮魚コーナーが。
生け簀というわけではないが、各魚ごとに発泡スチロールの壁で区切られ、氷が敷き詰められたそこに様々なお魚が生きているかの如く(←多分、疲れによる幻覚)陳列されていた。
そして、なんということか、その一番奥、もはやこの鮮魚コーナーの王と見まごうほどの位置に光り輝くハマグリが(←え?薬?やってないよ?いや、ホント、ホントだよ!信じてお巡りさん!)、、、なんという行幸だろうか?
これほど神に感謝した瞬間はこの人生30数年であっただろうか?いやない(←お前無神論者だろが!って?いやいや、神という漠然とした偶像を崇拝していないだけで、物や思想、現象に思いが宿り、年を経て神格を得た八百万の神々については、信じないなどというおこがましい思いは、、、あれ?みんな起きて!)。
思わずガッツポーズを決めそうになる腕を何とか抑えて、ボクは会計に臨むのであった。
というわけで百日祝いの食材コンプリートである。
え?買うのに5軒回って疲れましたで、終わる話?
誰ですか?そんなつまらないこと言う子は、このぷにぷにのほっぺの子ですか?
メ、ですよ!メ!
とそんなこんなで、何とか帰宅した我らが「史たん」ズ。
そしてついて早々、ベッドに倒れ込む3人。
限界である。
お昼ご飯もそこそこに、早々にお昼寝タイムに突入することになった。
初夏の陽光をカーテン越しに感じながら、眠りにつくその得も言われぬ背徳感に包まれながら、ボクの意識は闇の中に沈んでいくのだった。
その最中、隣のベッドから誰かがもぞもぞといなくなるのを気配で感じてはいたが、押し寄せる眠気に抗うことはできず、早々に意識を手放す「おとたん」なのであった。
女の人ってこういうのに凝り始めると疲れを忘れるから凄いよね。。。
ZZZ
ZZZ
ZZZ
はっ!
不意に目が覚める。
ボーっとした頭で、外を見やると、まだ日は陰っておらず、夕食にはまだ幾分時間だろうか?
隣のベッドを見ると「史たん」が当然のようにぷすーぷすー眠っている(この子はどうやら鼻づまりが基本装備になりつつあるらしい)。
そんな子を起こさないように、静かに寝室を後にするボク。
もちろん「史たん」ズカメラ(ホームネットワークを通じ、遠隔のディスプレイで状況監視ができる簡易的なwebカメラ。後に「史たん」ズ家電の三種の神器となる。他には鼻水吸い機、IPADが挙げられる。)の角度調整は忘れない。
リビングを通り過ぎ、台所へ。
すると、何やら思案気な「おかたん」に出くわす。
まな板の上には、鯛。
この日の為に購入したディズニーをあしらった可愛いお膳もわきに置いてあるのも見える。
はて?と思い、声を掛けずにその様子をうかがっていると、「おかたん」がこちらに気づいたようだ。
とてとてと近寄ってきて、なにかよくわからないことを話し始める。
曰く、
『あ、「おとたん」ちょうどよかった。今、おふかしと煮物はできたんだ。お吸い物ももうちょっとだと思うんだけど、問題はこのお魚をどうやって焼いたらいいか、なんだよね。「おとたん」、わかる?』
分かるも何も、何を聞かれているか全くわからない。
我が家のコンロには魚焼きグリルが付いる。
それもちゃんとひっくり返さなくても両面焼ける奴が。
ただ入れれば、それで終わり。
何を悩むことがあるのだろうか、と考えてはたと思いいたる。
あーそういえば、この子はあほの子だったんだ。
しかも普段料理なんてしないし、魚も好きじゃないから妬くなんてことは一切ない。あー、そういうことか、と一人納得し、
『あーはいはい、どいてね~』
と言いつつ、さっさと焼く準備に取り掛かる。
準備といっったって、切れ目入れて、塩振って、グリルにドン、あとは火をつけるだけ、なのであるが。
そして、それを
『やるな、「おとたん」!』
と言いながら、肩越しから覗いてくる足りない子。
魚の焼ける匂いを嗅ぎながら、平和な一時が過ぎていく。
と、丁度そろそろ焼きあがるかな~?というタイミングで、寝室から
『あぎゃーあぎゃー』
の声。
流石「史たん」。バッチリだね!
カメラにもその大きな頭がばっちりって、近い近い、寄ってきちゃダメだって!
とそんなこんなで、慌てて回収され、おっぱいを貰い、おめしかえをされる「史たん」。
一通りすっきりしたはずなのに、座らせられると何故かぶすっとした表情に(といっても、これはまだ満足に座れない「史たん」のぷにぷにほっぺが重力に負けて垂れ下がるがために起こる現象。重力に負けてほほ肉が落ちると、あら不思議、全体的にぶすっとした表情になるという異次元のマジックなのだ。決して、機嫌が悪いわけではない)。
そんな「史たん」をよそに、いそいそとお膳を持ってくる「おかたん」。
珍しく、光の速度でお膳を運び、写真撮影!
「おかたん」の頑張りもあり、見た目はなかなかな仕上がりである。
その後、一汁三菜全部を口に当てられ、ポケッとした顔になる「史たん」(いい!その顔がなんとも愛らしい。別にいいんよ?分かんなくったって。だって、イベント事は基本親の自己満足のためにやるものなんですから!)。
そして締めに無理やり口を開けられ、石をちょんちょん歯にあてられる「史たん」。
これにはちょっと、反抗的な目つきをしていたけど、終始ポケっとした顔で泣きもせず、イベントは無事に終了となったのでした。
いやー長かった!
あ、もちろん、その後、「おかたん」作のお膳はスタッフ一同でおいしくいただきましたよ?
むしゃむしゃ、むぐむぐ食べながら、当の作った本人は、
『んー煮物だ。味は普通だけど、美味しさがわからないんだよねぇ』
と突き刺したごぼうに向かって話しかけていたのでした。
ホント足りない子(笑)。
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