28日目: 初めてのお風呂

 我が家はいい。

 何がいいって、そりゃぁ落ち着くし?

 たとえそれが、段ボール入り乱れる我が家であったとしても。

 

 昨日は昼ご飯をご馳走になった後に、帰宅。

 『 もう一泊してもいいのよ?』

 という「ばばちゃん」の声を振り切ってしまった形となるが、流石にそこまでは甘えられない、と心を鬼にして帰宅した。。。なんてことはない。

 いや、正直に言おう、我が家でのんびりゲームがしたかったのだ。

 ぐったりした休日。

 時間を気にせず趣味に興じ、ただただ無為に一日が過ぎていく。

 もう、これに勝る至福はない。

 実際、余命宣告されて、あとは自分の好きにしなさいと言われたら、家に引きこもり、好きなゲームやアニメ、漫画や小説を読みながら終わりが来るのを静かに待ちたいと「ボク」は思う。

 そんな訳で、I love我が家な「ボク」の独断と偏見で、多少強引ではあったが、その日のうちに帰宅して、今日にいたる。

 まぁ、「史たん」的にはどっちの家へも愛着なんてなく、やっと慣れ始めた「じじちゃん」邸の方がいいとか思っているのかもしれないが、それはそれ。

 そして、お家についてからは、夫婦水入らずでの久しぶりのご飯。

 撮りためていた、テレビ番組を見て、一緒に食事して、、、と、なんやかんやで久しぶりに心休まるひと時を過ごせていた。

 というか、ライフラインが生きてから、こんなゆったり時間は初なんではなかろうか?

 だからかどうかはわからないが、その時「ボク」は大分センチメンタルな気分になっていたりした。

 『 あーなんか、こういうのいいなぁ。この雰囲気だけでもお酒飲みたくなってくるなぁ。なんでだろう?』

 などと。

 まぁ、もっとも隣で飢えたリスのごとくご飯を掻っ込んでいる「おかたん」がどう思っていたのかはわからないが。

 こうして平和な一日が過ぎ去ってくれ、、、れば良かったのだが、そうは問屋が卸すわけがない。

 そう我が家に二時間の男が返ってきたのだ。

 夕食の後、おむつ替えをし、「史たん」は一路寝室へ。

多少の騒ぎの末、どうやら落ち着いたようなのを見計らって、「ボク」はお風呂の準備へ。ご飯の片付けなどをして、少し待ったりしていると、隣の部屋から、

 『 うみゃぁ、うみゃぁ、うみゃぁ。』

 の声。今日も今日とて「史たん」サイレンの始まりである。

 だが、まぁ、「おかたん」も慣れたもので、さっと立ち上がると、颯爽とふすまを開けて、すぐに授乳。ほどなく、静かになる。

 と、普段ならここで終了でよかったのだが、今日からはあれがある。「ボク」が今日から担当者を拝命されたお風呂である。

 何故だろう、お風呂は父親の役らしい。

 まったくもって解せん。それを「おかたん」に問うと、

 『 そういうもの。』

 らしい。

 『 やりかたも知らんよ?』

 と反論すると、

 『 抱き方はね、こうでしょ?頭を首の後ろで抑えて、下半身からゆっくり上げていくの。そして、石鹸がこれね?』

 と、すごく丁寧(?)に教えられた。どうやら、引継ぎはこれで終了らしい。

!まさかのブラック企業だった。

 そんなこんなで、おっかなびっくり、「史たん」のお風呂ファーストトライである。

 入る直前になって、「おかたん」から

 『 あ、でも最初はたらいにやさしくつけてから、、、』

 とかいう戯言が聞こえてきたが当然そこは無視一択。何故って?面倒くさいから。

 裸になって、「史たん」を抱えてお風呂へ。

 「史たん」は全体的にふにふにしている。お腹なんて、筋肉のきの字も見つからないほど。なのに手足はぐんぐん伸びる。それにつられて、首もぐりぐり反ってくる。

 それでも服さえ着ていれば、そこそこのフィット感があるのだが、裸になると。。。

 『 まって、ちょっと待って「史たん」!今そんな動いたら大変だって、あ、ちょっと泡が、ほら~目に入ったでしょ、こすんなって、ほら』

 もう大変である。ドジョウ掬いってこんな感じなのかしらん?

 大騒動しつつもなんとか頭も体も一緒くたに洗い終わる。お目目に入った分はもう面倒くさいから、シャワーで洗い流した。

 もうさ、怒られたって仕方ないよね?

 それでも、「史たん」は石鹸さえ取れてしまえばあとは気楽なもので、楽しそうに手足を動かし、頭を動かしては「ボク」の腕からの脱出を図っている。困った野郎だ。

 『 じゃぁ、「史たん」お風呂にはいろっか?』

 そう声掛けをしつつ、ともにお風呂へ。

 「史たん」をお湯につけた瞬間、びっっっぅくっと、急に「史たん」の体が硬直した。

 『 っお?』

 と思うと、不意に「史たん」がこちらを見る。信じられないものを見る顔で。

 ようやっと「ボク」を「ボク」として認識したようだ。

 『 そうだよ~「ボク」が「おとたん」だ(笑)』

 まぁ、そんな邂逅も一瞬のことで、また右の世界に入る「史たん」。だが、お湯につかった顔は心なしか気持ちよさそう。

 それでもあまり長湯はダメということ、すぐにお湯から引き揚げて、外で待機中の「おかたん」へパス。

 こうして初めてのお風呂体験は終了するのだった。

 いや~大変だねぇ。これからもっと進化すると思うと、気が重いなぁと思う「ボク」だった。

 まぁ、気持ちいい体験をしたといったって、アラームは二時間おき。ま、仕方ないやね。


 さて、そんなこんなで研修からのながれも無事終わり、少しだけ心に余裕が出てきたせいか、改めて、我が家を見ると、、、

 『 ちょっと酷いな。』

 と思ったのが今朝の事。

 一室は最早倉庫と化し、人のいるスペースはない。

 そして、寝室も「おかたん」「史たん」の里帰りグッズであふれている。なんとか「ボク」が寝られるスペースを確保したものの、何とか、でしかない(あれ?「おかたん」達が寝ている高級布団って、もとはといえば「ボク」が全額はたいて買ったものじゃなかったっけ?腰が当時から今一よくなかった「ボク」のリーサルウェポンとして、PCと車以外で自分のために購入した数少ないもの、だったはずなのだけど、、、)。

 それに気が付くと、もういてもたってもいられず、この日は怠惰な一日、、、を返上し、本日をお掃除デーとすることを固く心に誓ったのだった。

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