3日目:二人っきりのランチタイム
『 ねぇ、聞いてる??』
ここは、「史たん」の生まれた病院の談話スペースである。
前回からはおよそ3時間の時間が流れているもうすぐお昼という刻限。
「史たん」との再会を一人喜んでいた所を「おかたん」に見とがめられてから、「ボク」は一度「おかたん」の病室に連行された。だが、そこではお話しするには適さないということで、少し離れた談話スペースに移動して、話始めたのが3時間前。
そして、あれやこれやと、やもめ話をしているところに授乳の呼び出しである。どのくらいかかるのかなぁ、とぽけーっと待つこと、待つこと、待つこと?気がついたら、もうこんな時間である。「おかたん」がいなくなり、暇すぎるのと連日の疲れでうとうと、いや思いっきり横になって爆睡していた「ボク」は、「おかたん」が戻ってきた気配で目を覚ました。空腹感を覚えながら、「おかたん」と話すこと数分。
話題は「おかたん」からの報告と愚痴。「ボク」は聞き役に徹していた。愚痴の後は、「おかたん」が初めて知った赤ちゃんの生態や、新米パパへの赤ちゃんお世話についてのレクチャーへと続き、、、まさかの怒涛の攻めに多少げんなりしてきた「ボク」。どちらかというと寡黙な部類(だと本人は言っている)なので、特に聞くことに不平不満があるわけではないが、流石に寝起きで、且つお勉強のような話が続くと意識をはっきりと保つのが難しくなってくる。
結果として、魂の抜けたような顔と生返事になってしまっていたがための、冒頭の一言である。え?悪いの「ボク」?そんな動揺を押し隠しつつ、
『 ん?ああ、大丈夫。聞いてる聞いてる。そして、まぁ、何とかなるって。大丈夫大丈夫。』
と返す「ボク」に、とうとう「おかたん」がお冠である。
『 もう!実際やってみると、結構大変なんだよ?沐浴とか、おむつ交換だって、気を付けることいっぱいあるんだから。やる時になって、どうしようじゃ?ダメなんだよ!』
んー?実際にやる?それは初耳である。そこは「おかたん」が担当するのでは?まぁ、ダメダメなところを見せればきっと諦めてくれるんでしょ~世のお父さん方もきっとそうに違いないさ、とか思いながら、『あー』とか『んー』とか生返事でごまかしてみる。
そんなこんなのやり取りが続いている最中、唐突に場内アナウンスが鳴る。
『 お昼ご飯の準備が出来たので、食堂まで来てくださ~い』
それを聞いた「ボク」はこれぞ助け船とばかりに、
『 お、ご飯だよ?ほらほら。行こう行こう。』
と「おかたん」を促して食堂への歩を先導して進める。まぁ、内心、話題が逸れたことにやれやれと胸をなで下ろしていることは、「おかたん」にはばれていない、、、はず。しかしまだ3日目ながら、もう立って歩いて、長時間座っておしゃべりできるようになるなんて、人間の身体とはすごいものだと、歩く「おかたん」の後姿を見ながら感心してしまったりもする。まだ、『お腹痛い』と頻繁に愚痴ってはいるが。
食堂につくと、周りはすっかり片づけられ、食堂というよりは小さな体育館然としていた。もちろん、二人以外には誰もいない。そして窓際に設けられた一対のテーブルには、本日のランチと思われる物が二人分、処狭しと並べられていた。食堂の入口からだと逆光となり、詳細までは判然としないのだが、微かに鼻腔をくすぐる香りが、肉料理であることを物語っている。
誘われるままに、テーブルへ腰を下ろすと、こちらが一言交わす前に、
『 どうぞお座りください。お飲み物はテーブルの上のメニューから選んでいただけますよ。』
と、お給仕さんの声がかかる。というか、お給仕さんというわけではないだろう。服装を見るには看護婦(あー、今は看護師って言わないとダメなんだっけ?まぁ、「ボク」の主観何でそこのところはご勘弁を。)さんかな?その方に、とりあえずのオレンジジュースを注文。注文を聞いて、去っていった看護婦さんを見送った後、改めて周りをよく見てみる。
対面式のテーブルは窓辺にあり、そこから小さな庭が見えるロケーションにあった。そしてテーブルには二人分の食事が既に並べられており、案の定良い香りの元はここだとわかる。料理の内容をざっとみると、スープにサラダ、ご飯に魚のムニエルの様な物、小鉢類、そして一番目を引くのは大きなステーキである。肉食女子こと「おかたん」の慧眼に感心しつつも、この量を食べきれるのかな?と一抹の不安を覚え、「おかたん」の方を伺ってみる。「おかたん」はというと、そんな「おとたん」の心配なぞどこ吹く風か、既に写メで思い出の保存を始めている。流石は現代っ子!
そして、注文した飲み物が来るのを見計らい、「ボク」の音頭で会食はスタートするのだった。
『 乾杯!お疲れ様「おかたん」』
『 ありがと、『おとたん』。ほんっっっと大変だった。でも無事に生まれてよかったよ~。それでね、どう?どう?凄いでしょ?このランチはね、ちゃんと地元で仕入れた食材でね、このステーキなんか・・・』
さっそく「おかたん」の褒めてねアピールがはじまりそうになったので、さっさと釘を差しにかかる「ボク」。
『 はいはい、いいから、冷める前に食べるよ。』
『 ぶー』
『 まったく、君が作った料理じゃないでしょうに』
『 選んだのはうちだもん!ちょっとくらい説明させてくれてもいいのに。。。』
『 そうね、食べながらね』
『 ぶー。いただきます。』
そんな久しぶりの掛け合いを楽しみながら、ランチタイムは開始したのであった。
お昼過ぎの特等席には、院内の喧騒は伝わらず、特にこの若干せり出した作りの一角は、他とは隔絶された空間を作り出している。そして赤ちゃんの胎教の為か、お母さんのリラックスの為か静かに流れるバックミュージックがこの食事の特別さ感を際立たせている。
食べ始める前は何かとうんちくを語ろうとしていた「おかたん」だったが、食べ始めると一転ほとんどおしゃべりもせず、食事を堪能している。この特別感がそうさせるものなのか?とも思ったが、まぁ、「おかたん」の場合は単純に空腹に勝てなかったのと、同時に2個以上の作業が出来ない体質な所為なのだろう。あ、こんなこと書くとまた後で怒られるな(笑)
そんな「おかたん」を眺めながら、多少早食い気質の「ボク」はあっというまに完食してしまう。やはり、女性を基準とした量なのか、見た目のインパクトに対しては少なめにも思える量のご飯は「ボク」としては若干物足りない気味の腹八分目位に納まった。
女性にとっては多少多めなのかなぁ?と思いながら、未だ頬袋を一杯にした鼠の如く、肉を頬張っている「おかたん」を観察していると、、、どうやらやはり多かったらしい。ステーキ、、、以外が徐々にこちらの皿に移動してくる。いつもどおりだな、と思いながら、それらも食べすすめていく「ボク」。最後に残ったステーキはどうするのだろうとみていると、なんと完食して見せた!肉食女子の意地を見た瞬間だった。
その後、食後の飲み物を片手に、他愛無いこれからの話をしながら、楽しいランチの時間は過ぎていくのだった。
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