カミオヒーロー
カミオヒーロー
作者 蘇芳ぽかり
https://kakuyomu.jp/works/16817330660253862304
ヒーロー的行為をするカミオに憧れる凡人・鈴木渡は、ネコネと三人で『事件解決部』の活動をしている。ヒーローであるために誰よりも頑張るカミオも幸せになって欲しいと願う話。
現代ドラマ。
時代性を感じる。
つらい目にあっているからこそ、他人の痛みに気付き手を差し伸べる姿には見習うべきものがある。
主人公は、高校二年生で事件解決部の一人、鈴木渡。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
三つの話が書かれ、女性神話の中心軌道、それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプ、絡め取り話法で書かれている。
母子家庭で育った上尾叶の親は育児放棄――ネグレクトだった。まともな食事を与えられず、「あんたさえいなければ」「死ねばいいのに」と言われたこともある。近所の人に食べ物を分けてもらうことが幸せで、寒い冬の日に部屋に閉じ込められ死ぬ思いをしたこともある。
そんなカミオが中学生の頃、街で起こった幼児行方不明事件を解決した。幼児がいなくなってから一カ月後、近くの山から幼い子供を背負って降りてきたカミオは全国ネットで報道。カミオは行方不明事件が誘拐事件であると見抜き、幼児を救助してきた後、犯人の特徴を言い当て、犯人はすぐに特定、逮捕された。
主人公で凡人の鈴木渡は彼に憧れた。
成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗。仲良くなれば口は悪いし意地悪な部分も多いが、マメな気遣いのできる性格。女子にはモテるが誰とも付き合っていない。そんなカミオが高校に入学して三カ月で『事件解決部』を立ち上げる。主人公の渡も人助けがしたい、と入部。部員は現在高校二年生のカミオ、渡、独特な美少女の猫見ねね(あだ名はネコネ)の三人。街中に貼られた部の電話番号入りポスターはネコネの手作り。ウサギだかキツネだかわからない手書きキャラが「ヒーローのカミオくんとその仲間たちがお助けします!」と吹き出しで喋っている。元々平和な街なので、実体は「ボランティア部」「なんでも部」だった。
今回の依頼は「今度の金曜日の夕方にカフェで料理クラブの友達と集まるんだけど、ちょっと話し相手になってくれないか」と料理クラブのおばさま方からのもの。カミオに「今回はネコネかワタルで」と言われ、女子に冷えは大敵だからと、冴えない主人公が行くことに。観葉植物のごとく離れたところで警備に立ち続け、もう帰ってもいいといわれて営業スマイルで挨拶して退席した。
夏休み、ネコネと遊ぶ子供たちを見て、カミオは「これが子どものあるべき姿だっていう感じがしない?」と聞かれ、「呑気に遊んでるお前たちもいつか定期テストに苦しんだりするんだぞって思う」と口にすると、「ワタルくんひっどーい」ネコネは頬をふくらませてからキャハハと笑う。
七月末、「夏休みが明けたら、私が学校に行けるようにしてほしい」といった中学二年生の皆川七海からの依頼が届く。話を聞きに行く三人は、母娘と会う。電話してきた七海より母のほうが積極的に見える。それでいて、近所の人にしられたくないみたい。
私立中学校に受験をして入学、以来ずっと楽しそうに通っていた。友達もいて、成績も悪くない。書道部に所属し、何度か賞を取っている。「お腹が痛くて学校に行けない」と初めて言ったとき、休ませたという。一週間休んだとき、画稿にいいたくないと気づき、夏休みは区切りだから、本人ものそんでいることなので依頼したという。
情報が足りていないとして、母親のいない近くの公園に場所を写して話を聞く三人。学校に行きたいのにお腹が痛くなり、原因は自分でもわからないという七海。八月中旬、市民プールに着て話を聞くと、友達に勧められてハマってからボーカロイドの曲が好き、いつも勉強はリビングでするけど音楽は自室で聞くのは、母が「近頃の子ってこういうのが好きなんだろう、全然ついていけない」と呆れたことがあって以来、母の前で話さなくなったという。自分が好きより母の信用が大事で、期待を裏切っていると思う度に窒息して死にそうになると答える七海の話を聞いて、学校に行けないのは、「母の望む自分でなければいけない」とひたすらに思い続けてストレスを溜め込んだ結果だと、母親に話す。反論する母親にカミオは「子どもは家から逃げることができない。だからこそ、学校に行けないという形になったんだと思う」といい、母が好きと思っている関係を壊す解決方法はできないため、「今日でこの活動は、おしまいです。七海さんのことに関しては、もう解決したと言えます」と告げる。娘が良い子で一生懸命は誰のためですかときくカミオの言葉に、「わかってます。この子が私のために頑張ってるってこと。でも今更どうしていいか分からなくて、自分のせいだって思ったら認めたくない気もして」母はごめんねとつぶやく。
主人公は「友達がいて、学校に行きたくて、好きなものがたくさんあって、お母さんのことも好きで。七海さんはもう、大丈夫だよ。元に戻らなくていい。先に進めるよ」凡人の言葉でいい、ありきたりでいいから、今はただ伝わってほしいとおもった。
満足して帰る三人。夕方まで部室で遊び、帰る頃にネコネは、いまの関係が終わらずに続くといいねと呟いた。
居心地のいい部室に、カミオの姿がない。こんなことっ初めてだった。電話機の横に一枚のメモをみつける。どこかの住所と「クラノマキ」という名前が書かれている。カミオ一人で依頼を受けていると気づき、電話番にネコネを残し、住所の場所向かう主人公。古そうなアパートの204号室には、白目をむいた男と、包丁を握り型で荒い息をするカミオと、自分の身を抱きしめ震える幼い少女がいた。
少女を連れて意識を失ったカミオを公園に運び、ネコネに見つけたから来るよう伝える。男は生きていて、瓶と包丁だけは指紋を拭き取って片付けた。カミオは自身の親がネグレクトで、ひどい目にあったことを語る。「誰かに生きてていいって言って欲しくて、だから今ヒーローをやっているのかもしれない。こんなんだから虐待って聞いて許せなくてさ……。でも人を殺そうとするなんて、ただの悪人のやることだよね」「ワタルが今日来てくれて助かった。取り返しのつかないことをしていたところだった」
メモがなかったら気づけず止められなかったといえば、「完遂するためだったら、メモ書きなんて部室に置いておくべきじゃないことぐらい知ってた。でもね、ぼくの弱さが、それを置かせたんだ」
彼はヒーローであり、主人公と同じ人間。ヒーローで有り続ける強さに隠れて、当然持っている弱さに見て見ぬふりをしてきたのは誰だと主人公は自身に問う。カミオ自身の夢を叶え、彼も幸せになって欲しいと願い祈りたいと思う。
「男には隠し事をしてもいい時があるんだ。友情だよ」といって、ネコネには黙っておくことにすると伝えると、「なにそれ。男女差別では?」と彼は笑う。
「君が無事で良かったよ」と渡はつぶやくのだった。
カミオの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎がどのように関わり合いながら、舞い込む依頼とともに凡人とヒーローは同じ人間だと気づかせてくれるところが良かった。
問題が解決したりヒーローであるカミオの弱い部分があきらかとなったり、わからないことがわかったとなるところが描かれている点と、つらい目にあっているなら自分にも関係があると思える点、困っている子を助けることは自分もできるかもしれないと思える点が描かれている本作は、読み手にある種の感動を与えてくれるところもいい。
書き出しの「ヒーローはいつも、優しく困っている人を助ける。ヒーローはいつも、飄々ひょうひょうと笑っている。ヒーローはなんでもできて、無敵だ。絶対に負けたりしない」は多くの人が持っているであろうヒーロー像が書かれている。
本作で描かれる表面的で核心には触れられていない、むしろ核心を読者に想像させるような書き出しだからこそ、本作に期待と興味を持たせてくれる。
遠景でヒーロー像を描き、近景で場所や季節、登場人物の紹介などをして、主人公の心情で事件解決部のことが語られていく。
とくに冒頭は、事件解決部について客観的な状況説明をする導入が描かれ、今日の依頼を自分に任された主人公の主観で物語本編がはじまり、それぞれの話の終わりや本作全体の結末は客観的視点からのまとめで終わっている。
文章のカメラワークがよく考えられて、作られているところが良い。
各場面、起承転結で5W1Hを意識し、主人公の心の声や感情の言葉、表情や声の強弱を入れ、どういった状況にあるのかを読み手に想像できるよう具体的に書かれているおかげで、感情移入しやすい。
料理クラブのおばさま方は、カミオとネコネを期待していたのならば、依頼する時にそう伝えればよかったのではと考える。伝えなかったのは、凡人の主人公である倉田渡がいるとは知らなかったからだろう。
結成当初からいるのだけれども、存在が希薄なのか、事件解決部にどんな子達がいるのかまでは聞き及んでいなかったのだと考える。
ようするに慰安的に、事件解決部を利用したかったのだろう。
カミオは、先方の考えが読めたか、あるいは子供絡みの依頼ではなかったから、自分はいかないとしたのだと推測する。
ネコネの「ええー? ワタルくん、どうする? あたし行こっかぁ?」のあと、手のひらを返すように「うん。あーでも、暑そうだなあ。日焼けしちゃうなあ。汗かきたくないし、レイボウがガンガンのカフェなんて冷えちゃうなあ。知ってる? 女子に冷えは大敵なの」 最初に協力する姿勢を見せてから、都合が悪いからと断ることで、一方的に拒否するのではなく、一旦は検討してみたけれどやっぱり無理だったごめんねと断る手法は、実際にする人もいるので現実味を感じる。またネコネの性格が伺えていいところ。
「一週間前に君の提案でこの三人で、キンキンに冷えた喫茶店にキンキンの巨大かき氷を食べに行ったけどな、というツッコミは仕方無しに飲み込んで」とある。
すでに、三人での関係が長いことを想像させてくれる。
以前にも似たようなことがあってツッコミを入れたとき、すこし険悪なムードになったことがあったかもしれない。
学習しているのだ。
あるいは、渡には姉か妹がいるのかもしれない。
ちなみに、ここでツッコミを入れたら、その日は暑すぎて冷たいものを体が求めていたからといった言葉が飛んでくるかもしれない。
はじめ読んだとき、公園で子供たちと遊ぶネコネのシーンはどうしてあるのだろう、とモヤッとした。子供と遊ぶのも事件解決部の活動なのかなと。
おばさまたちとの話と公園で子供と遊ぶのは、登場人物と部活動の紹介を兼ねているけれども、読み終えると、カミオの抱えているものの断片を見せる場面でもあったと気づいて、「なんとなくね。これが子どものあるべき姿だっていう感じがしない?」と、はしゃぎまわる子供を前にカミオがつぶやいた言葉の重みがました気がする。
最初読んだときは特別な言葉でもなく、凡人の渡がおじさんと呼ばれるよりも、カミオのほうがおじさんらしく感じたところでもあった。
だけど実際は、カミオが子供だった頃は、楽しそうにはしゃぎまわる子供時代はなくて、自分も彼女彼らのような子供時代を過ごしてみたかったと思っている、そんな場面に思えると、皆川七海やクラノマキの依頼を受けて解決しようとする動機づけにもなっていて、すごい重要な場面に思えた。
皆川七海の、ボーカロイドの曲が好きなところは、現代的でいいなと思う。動画サイトをよく視聴していれば馴染み深くもなる。
カミオがよく知らないのも、のちの展開のことを考えるとうなずける。
カミオのいいところは、相手の話をよく聞いているところだと思う。相手の意見に同意し、肯定し、主人公の渡やネコネも気付く点もよかった。彼らが、注意深く聞けるのは、これまでにもたくさんの子供の悩み相談みたいな依頼を受けてきたからだと想像できる。
それに、具体的に、やり取りを丁寧に描写しているところもいい。
クラノマキの父親とのやり取りは、どういう状況だったのだろう。
酒瓶で殴ったあと、包丁を握っていたのはどうしてかしらん。
殴っただけでは気絶せず、反撃しようとしてきたからか。
酔って眠っているのか殴られてんのかわからないけれども、息があるとはいえ、ぶつけているのだから救急車と警察を呼んだ方がいい。子供に暴力を振るっているので。
ただ、通報したら父親は逮捕されるかもしれないし、児童相談所に連れて行かれることになるだろう。それが彼女のためになるのかどうか、なんともいえない。
彼らはどういった対応をしたのか、そこまで書かれていないので読者の想像に委ねられるのだろう。
読後、タイトルを読みながらなるほどと感じ入る。ヒーロー的行為をする人は立派だし、憧れもする。だけど、特別かもしれないけれども、同じ人間だから悩み迷いもすれば、つらい体験もしているかもしれない。憧れる人は、相手の表面しかみないし、困っているときは自分のことで精一杯になり、助けてくれる相手のことまで想像が及ばない。
本当に助けがいるのは、助けてくれる人だったりするのはよくある話。困っている人を助ける医者も疲れるし、誰かの助けが必要なる。警察にしろ、先生にしろ、大人にしろ、みんな同じ。
主人公のつまり、特別でなくても困っている誰かを助けることができることを本作は教えてくれている。
カミオはヒーローでカッコイイけれども、主人公の行動も見習いたいものである。
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