幽霊少女とハロウィーン

幽霊少女とハロウィーン

作者 八影 霞

https://kakuyomu.jp/works/16817330661927756811


 ハロウィーンの日、マサトの前に幽霊となったレイカが現れる。かつて助けてあげられなかった彼女の願いを叶えるため、結婚式をあげる話。


 会話文の頭はひとマス下げないは気にしない。

 現代ファンタジー作品。

 ハロウィーンを題材に、死者との向き合い方を今一度考えさせてくれる。


 主人公は、高校二年のモロノマサト。一人称、僕で書かれた文体。途中、幽霊少女レイカの一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、絡みとり話法、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公のモロノマサトが住む町では年に一度、その年に亡くなった死者を弔うために町民たちが列をなして行進をする風習があった。丁度ハロウィーンと同じ日に始まり翌日の朝に終わる。町民は好きな格好をして街一帯を練り歩き続け、夜が明けたら、自分たちの家へ帰る。昔からずっと、欠かさず行われてきた行事。

 数年前。とあるハロウィーンの日、静かな住宅街を抜けて緑の広がる丘にたどり着くと、人の呻き声のようなものが聞こえてきた。主事校と同い年くらいの中学生女子が苦しそうに横たわっていた。薬が切れたから両親を呼んできてと、レイカと名乗った少女に頼まれる。名前を聞かれ元のマサトと答えると、レイカが主人公の薬指に触れながら「マサト、私と結婚してよ」死ぬまでにしてみたかったという。助かってから勝手にしろと強く手を握り親を呼びに行く。連れ戻ったときにはレイカは死んでいた。

 近くに頼れる大人がいたら、すぐ薬を飲んでいれば助かっていたかもしれない。そう考えるうちに行事が嫌いになった。行列さえなければ死ななくて済んだかもしれないのに。みんなおかしい。狂ってる。この街の奴らみんな頭がおかしい。母からはあの子の霊にもさよならを言うのよと言われたが、絶対に部屋を出なかった。レイカは行列のせいで死んだのに行列で弔うなんて意味がわからない。彼女もきっとそう思っているはずだと思っていた。

 今年父が死に、母に参加するよう促されたが、どうしてもその気になれなかった。お腹がすくも町のみんなが参加しているため、隣町に出かけて買い物をしようと思って玄関を開けると、少女がひとり立っていて、頼み事があってきたという。

 家の中に入れると、頼み事を聞く前に、何者なのか教えてもらう。彼女はすでに死んだ幽霊で、『愛情を向けたもの』には触れられ、花が好きだあら花瓶を割ってしまう。

 彼女は幽霊の自分と結婚してほしいという。彼女が地縛霊として小さな丘にいて、誰か迎えに来ることを待ち続けていた。ハロウィーンの日、街を眺めている時に丘から落ちてしまい、動けることに気づいて教会へ行くと死者を弔う儀式を行なっているようで、「知ってるか? もしうまく成仏できなかった場合、生者と結婚するまであの世にはいけないらしいぜ」「何だそれ、妻子持ちとかだったらどうするんだよ?」「そんなもん知るかよ。幽霊になったら関係なくなるんじゃないか?」と高校生くらいの男子が話をしていた。詳しく聞こうとするも話題は変わってしまい、彼女の声は聞こえない。しかも次の日には丘の外に出られす、ハロウィーンの日だけしか自由に動けないという。

『これ以上ない幸せ』を感じればあの世に行けると思った彼女がだした結論が、結婚だった。主人公は承諾し、まずは結婚指輪を手に入れることにする。商店街の中にある店へ行き、閉店の店に入って気に入ったものを選ぶ彼女だが、触れることができなかった。主人公は窓から侵入し、「許してくれ。少し借りるだけだ」彼女が気に入ったものを手にする。次に洋服屋に忍びこんで服を選ぶ。彼女は幽霊になったときからウェディングドレス姿だったという。

 彼女が寄り道するから待っていてほしいと頼まれて待っていると、近所に住む同い年の男で、どこか他人を見下したように話すので、馬が合わなかった。

 主人公にならって行列に参加するのを辞めたという。飼っている犬が死んだとき悲しんだが、埋葬したら気味の悪い存在になり、死者になにかしてやるのがバカバカしくなったそうだ。それは酷いという主人公。彼は同情してくれ、お前は幽霊が怖いんだろと言ってくるが、まったく違うと言い返せば、彼は「変わったな、お前」という。「昔はそんなやつじゃなかった、よく言ってただろ。『幽霊はいない』って。『そんなもの信じるな』って。『幽霊なんて気味の悪い存在なんだ』って」

 そのとき、小さな赤い花を一輪手に持ち、ひどく暗い顔で見つめる少女の姿があった。彼女は花を落として走り出す。待ってくれと追いかけようとすると、彼が腕を浮かんでくる。「待つのはお前だ。さっきから、何を一人でほざいてるんだ」どこへ行くのか聞かれて、行列の方へと示す。いかないでくれという彼に主人公は、「お前は大切なものがこの世から失われたのが悲しいから、耐えられないから、そうやって、死んだ奴らのことを非難して、それで『死』から距離を取ろうとしてるんだろう?」「本当は心のどこかで分かってるんじゃないか? 自分が大切なものの喪失に哀しんでいることに。それを見ないように蓋をしていることに」という。

 彼は、俺の気持ちがわかるものかというが、主人公には同じ経験をしたことがあるから痛いほどわかると答え、彼の手を振り払った。

 少女を追いかけ、崖から飛び降りた彼女の腕を掴んで引き上げようとする。幽霊でも崖から落ちれば死んであの世へいける。ハッピーエンドだという彼女に、そんな訳あるかと叫ぶ。「僕らは婚約者なんだ。ちゃんと式を挙げてから、あの世に行くんだ。このまま一人でに逝くなんて、許さないからな」

 だが二人して落ちていく。彼女を引き寄せ、自分が下敷きになると衝撃が襲う。レイカを助けてあげられなかった出来事を夢で見る。

 気がつくと教会の床にいた。「僕は君に何もしてやれなかった。僕にもっと力があれば、行動力があれば、君を助けられた」と伝える。彼女はてっきり忘れていると思っていたという彼女に眠っている間に思い出した、と正直に答えた。

「悔やむとすれば、それは私の方です。あなたがせっかく頑張ってくれていたのに、私は途中で諦めてしまった。最後まであなたが戻ってくるまで、希望を持ち続けることができなかった」「私があなたにした話。あれ、すべて嘘なんです」「私、あの時交わしたあなたとの約束を果たしてもらいたくて、嘘をついたんです」

 幽霊の自分を受け入れてもらえるか怖かった自分は資格がないといって、彼女は去ろうとする。

 主人公は「僕の嫁になるなら、その自分勝手なところ直してもらわないと困る」「僕は君を愛している、心の底からだ。成仏とかそういう話じゃない。あの時約束したからでもない。単純に、僕は君が好きなんだ」「君が触れられるのは、『君が』愛情を向けたものじゃない。『君に』愛情を向けたものなんだよ」こんなふうにといって、彼女に抱きつくと暖かかった。

 結婚式をしようとするも、指輪を落としたらしく、見つからないそんなとき、足元に死んだ父がしていた指輪が転がっているのに気付く。彼女の薬指にはめ、「やめる時も健やかなる時も、冥土が僕らを分かつとも、レイカを想い続けるよ」レイカは「お願いします」と微笑む。彼女はありがとうと笑って消えていった。

 教壇の下に腰掛けていると、町のみんながやってくる。ここにいる理由を尋ねる母。「今までのこと、謝るよ」参加者たちの集まる入り口へ歩いていった。 儀式が終わり、日が昇ってくると、町民はみなそれぞれの自宅へ帰っていく。母親と父の名前を呼んでから、主人公も教会を後にした。翌朝、「この花、二輪あったかしら」花瓶の花を不思議がる母に、「ああ。入れておいたよ。僕らで」と答え、来年は行列に並ぼうと思うのだった。 


 ハロウィーンの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんなふうに絡み合って、忘れていた過去や自分自身と向き合っていくのかを描いている。

 

 書き出しは「地響きのようなものを感じて、飛び起きた」と、何事が起きたところから始まっている。

 遠景で起こったことを描き、主人公が飛び起きるように読み手もなんだろうと思うから、続きが気になる。次に「耳にはめていたヘッドホンを首にかけると、僕は窓を開けて外の様子を窺った」と近景を描き、距離感をみせてから主人公の心情、「音の正体は分かっていた。今年もまた、この季節がやってきたのだ」と納得する姿を描いてみせ、読み手も同じように納得したいので、答えともいうべき続きを読んでいく。

 読み手に読ませていこうとする書き出しが上手い。


 幽霊少女が現れて、自分の話をするまでは、主人公の視点で客観的な状況説明をしている導入部分で書かれていて、彼女の説明から本編がはじまり、客観的視点のまとめで終わっている。

 主人公と幽霊レイカの話を描いているので、前半はレイカの頼みを聞いていくので彼女が物語を引っ張っていく。

 後半は絡め取り話法で書かれているので、近所に住んでいる同い年の男が出てきて、レイカとの間に溝ができてしまう。

 だけれども、彼女と結婚式をするという明確な目的、前に進もうとするものがあるので、自分にある存在価値に気づいては男にお前と俺は違う、本当は悲しんでいるんだろと語ることで、主人公は自分自身にも語り、彼女を追いかけていく。


 ハロウィンとは十月三十一日に行われる西洋のお祭り。

 すべての聖人と殉職者を記念する「諸聖人の日」の前夜祭にあたる行事。 故人を偲ぶという目的でいうと、日本のお盆と同じような意味と言える。

 先祖の霊だけでなく、悪魔や魔女、さまよえる魂なども死後の世界からやってくると考えられたため、人々はそれらと同じ格好に扮装して仲間だと思わせることで身を守ったという。


 わかりにくいのが、町の行事であるハロウィーン行列を参加したことがないという点。

 その年になくなった人がいる家の人が弔うために参加する、とある。けれども、ハロウィーンの日は、街中の商店も休みになり、みんなが参加していると書かれているところ。レイカも家々を訪ねて、主人公の家しか人が出てこなかったと語っている。(これに関しては嘘をついているかもしれない。直接、主人公の家に来た可能性もある。ただし、彼女はどうして主人公の家を知っていたのか、という疑問が残る)

 どの家でも、毎年必ず亡くなっていたのなら、街から人がいなくなってしまう。その年になくなった人がいる家だけが参加するのではなく、お盆のように先祖の霊を弔うように、他の人も一緒になって参加する行事だと考える。

 その辺がモヤッとした。

 主人公が、行列に参加したことがないといっているのは、家で誰かが亡くなったことがそれまでにはなく、この街に引っ越してきたのかもしれない。

 先祖のお墓は他所の地域に有り、これまでは町の行列行事に参加したことがなかったのだろう。


 各場面、起承転結の流れでいつどこで誰がなにをどうしたのか、といったことを、主人公の心の声や感情の言葉夜行ったことを入れて書かれているので、どういう事が起こっているのか想像できるし、クライマックスでは主人公の強い思いがより伝わるよう、必要な行動や表情などで想いをみせているので、盛り上がっているし読み手にも伝わってくる。

「それは違うな。君が触れられるのは、『君が』愛情を向けたものじゃない。『君に』愛情を向けたものなんだよ」といって、彼女を抱きしめるところがいい。

 花に触れたのは、花が幽霊のレイカに愛情を向けたから。

 だから無機物の指輪は触れたなかった。

 主人公が気がつけたのは、崖から落ちそうな彼女の腕を掴めたときだろう。このときには幽霊の彼女を愛していたことになる。

 

 モヤモヤするのは、主人公が行列行事に参加しなかったのは、数年前のハロウィーンでレイカを助けてあげることができなかったことがあったから、だと思われる。

 だけれども、崖から一緒に落ちたときにみた夢で思い出すまで、忘れていたとある。

 忘れていたのなら行事に参加できるはずだし、近所の男にも『幽霊はいない』『そんなもの信じるな』『幽霊なんて気味の悪い存在なんだ』といったりしないはず。

 だから主人公は、助けれなかったことは覚えていたはず。

 覚えていたから、彼女が幽霊となって現れ結婚式をしてくださいといわれても疑いもなく協力したのだろう。

 では、彼は何を忘れていたのか。

 おそらく、「僕は君に何もしてやれなかった。僕にもっと力があれば、行動力があれば、君を助けられた」と、彼女に謝ることを忘れていたのだ。

 結婚についての彼の考え方に、「自分勝手なところ直してもらわないと困る」とあるので、悪かったことについては素直に謝ることが大切だと、そのことを思い出したのだ。

 そんな素直になれたから、息子が困っている時に父親が助けてくれたのだろう。

 また、母親に対して、「今までのこと、謝るよ」と素直に言えるようになるのだ。


 指輪をなくしたと気づいたとき、足元に父親が使っていた指輪らしきものが足元でみつかる。見えないけれども、息子の晴れ姿の窮地に父親が駆けつけ、助けてあげたのだろう。 


 勝手に借りた、なくした結婚指輪と衣装はその後、どうなったのかが気になった。


 花瓶の花は、主人公が入れたのか。

 用事ができたといって離れたとき彼女が入れることができたかもしれないけれども、そのとき花瓶は割れていたはず。そう考えると、花瓶も花も主人公が整えたのだろう。

 そのかわり、あの夜彼女が持っていた赤い花を、入れて二輪にしたのだろう。


 読み終わったあとは、良かったねと素直に思えた。死者というネガティブなものを扱いながら温かみのある作品に感じられたのは、物語全体が夜の出来事であり、最後は夜明けた朝という場面を上手く活用しているところが大きかったかもしれない。

 素直な気持ち、謝る心は大切だと、改めて感じ入った。

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